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大企業のミドルは、イノベーションを起こせないのか?「バウンダリースパナー」の役割 #1

投稿日:2020/12/01更新日:2023/09/01

バウンダリースパナーとは、業務提携、M&Aなど、企業・組織同士の関係が複雑化していく中で、「境界を越えて組織/個人をつなぎ、縦横無尽に組織行動に影響を及ぼす者」として、近年重要視されている役割です。全5回の連載で、特に大企業において、なぜバウンダリースパナーが重要視されているのか、バウンダリースパナーはどのような行動を取るのか、どういった要件を満たしているのか、具体的な事例を元に解明していきます。

第1回:大企業のミドルは、イノベーションを起こせないのか?「バウンダリースパナー」の役割 (本稿)
第2回:バウンダリースパナーが直面する境界課題
第3回:バウンダリースパナーが境界課題を先読みしてイノベーションを加速する
第4回:大企業のバウンダリースパナーに求められる要件
第5回:バウンダリースパナーの育成方法とコロナ禍における変化

※本連載はグロービス経営大学院に在籍した4名(副島・刑部・東方田・竹内)が、垣岡講師の指導の下、研究プロジェクトとして取り組んだ成果をまとめたものです。

■なぜバウンダリースパナーに注目したのか?

企業組織は持続的な成長のために、従来の延長線上ではない製品・ビジネスモデルの変化をプロアクティブに創出するような「イノベーション」を希求しています。イノベーションには創造的な製品・ビジネスモデルが必要だと言われますが、それだけでイノベーションが起こることはありません。企業組織は規模が大きければ大きいほど、既存事業の効率化のために組織化されています。その中で、イノベーションを実現するためには、組織開発・マネジメントが必要です。

だとすると、イノベーションの実現に向けて実働する企業組織の現場のミドル・ボトム層は、トップの組織開発・マネジメントの変革を待たなければ、イノベーションは起こせないのでしょうか。大企業のミドル・ボトム層は、イノベーションの実現を加速するために、何をすればよいのでしょうか。

我々自身も大企業のミドルとして働いており、どうすればイノベーションを興すことができるのか深く考えるなかで、そのカギとして着目したのが「バウンダリースパナー」という役割でした。

■なぜ、大企業ほどイノベーションを起こしづらいのか?

バウンダリースパナーの詳細をお伝えする前に、まずは大企業のイノベーションを取り巻く環境はどうなっているか整理しておきます。

日本の大企業を例に挙げると、売上高の成長が成熟化する中、外部環境の目まぐるしい変化(デジタル化、モノからコトへのシフト、労働付加価値低下、新興国シフトなど)に直面し、事業の不確実性が高まっています。


出所)e-Stat「法人企業統計調査 時系列データ(2016)」

このような変化を受け、大企業は、既存事業のパイの伸び悩みと、それに伴う収益力の低下といった状況に陥りがちです。そして、持続的な成長のため、次世代の事業の柱となる新規事業を立ち上げようと、従来の延長線上にはないようなイノベーションを希求するのです。

しかし、クレイトン・クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』の中で「大企業は顧客志向が強いからこそ成功したのであり、異なる顧客・別種のテクノロジーからなる次なるイノベーションには乗り遅れる」と言ったように、大企業は既存事業のために企業組織が効率化されており、イノベーションが起こりにくいのが実情です。

読者の中にも、「わざわざ新規事業に参入するリスクを冒す必要があるのか?」「今こそ、経営資源を集中投下して中核事業を立て直すべきではないか?」という言葉を聞いたことがある方がいるのではないでしょうか。大企業の事業変革における難所は、「既存組織の慣性が働き、軋轢が生じて変革が失速しがちであること」と言っても、過言ではありません。

■イノベーションとは何か?

では、そもそもイノベーションとは何なのでしょうか。一般的には、「既存の知と知を新しく組み合わせるもの」とされます。一方で、「新しい組み合わせを試すことと、知から収益を生み出すことである」(ジェームズ・マーチ)とも言われていて、創造的産物を世に出すことだけに留まらず、成果である収益を出すことが必要条件です。

この新しい知の組み合わせを行うためには、「弱いつながり」が効果的だとソーシャルネットワーク分野の研究ではよく言われています。弱いつながりからなるネットワークは、無駄が少なく効率的であり、かつ簡単に作れるためです。そして、その知から収益を生み出すためには、アイデアを実現するための「強いつながり」が必要です。これらの人脈をステージや相手によって使い分けることが、イノベーションの実現のために必要となってきます。

■事業変革で直面する境界とは何か?

このイノベーションによって、企業組織は事業を変化させることで新たな事業価値を生み出すこと、すなわち「事業変革」による持続的成長を図ろうとします。ここで言う「事業変革」とは具体的に以下の2つを指します。

変化創出型:環境変化を見通して、プロアクティブに製品・ビジネスモデルのイノベーションを実現することで、新事業の創出および既存市場の拡大・深化を行う変革。

変化適応型:環境変化を捉え、リアクティブに製品・ビジネスモデルのイノベーションを実現することで、ポートフォリオの組み換えを素早く行い、環境に順応する変革。

先述したように、企業は事業変革を進める際に様々な課題に直面します。その課題は、利害関係・KPIの相反による組織間の対立、既存事業の中で従来の延長線にないイノベーティブな新規事業を立ち上げようとした際に起こる意思決定基準の対立、さらにはグローバル化に伴う商習慣の差異による対立など様々です。これらに共通することは、全て「境界」が存在するということです。境界の内側の意図や論理が、境界の外側と一致しないことから、境界の内側の組織に対して外側の相手が阻害要因となるのです。そして、その境界が「繋がり」を分断し、イノベーションを失速させます。

ここで注意したいのは、境界自体が必ずしも悪いものではないということです。ある目的のために集団を形成し、一定の成果を上げようとする際に、集団の凝集性は大切な指標であり、集団の心理的安全性を担保することで、集団は高いパフォーマンスを発揮します。境界はこの心理的安全性を担保するために大きな役割を果たします。

では、境界にはどのような種類があるのでしょうか。ここでは、クリス・アーンストらによる著書『組織の壁を越える――「バウンダリー・スパニング」6つの実践』(英治出版)による境界の5分類をご紹介します。

同書によれば、組織の境界は(1)垂直、(2)水平、(3)ステークホルダー、(4)人口属性、(5)地理の5つに分類できるとのこと(下表参照)。これら5つの境界のうち、事業変革を進めていくにあたり、特に阻害要因になりやすいのは、(1)垂直の境界と、(2)水平の境界ではないでしょうか。今回の研究においてもこの2つの境界が阻害要因になることが多かったことから、本稿においては主にこの点に絞って議論を進めていきます。

出所)『組織の壁を越える――「バウンダリー・スパニング」6つの実践』(クリス・アーンスト 他、英治出版)より

■バウンダリースパナーとはどのような存在か?

これらの境界に働きかける存在として、今回の研究では「バウンダリースパナー」という役割に着目しました。バウンダリースパナーは「異質な組織/個人の境界を戦略的に連結し、縦横無尽に組織行動に影響を及ぼす役割であり、表面上の公式権限がない中、必要な資源に簡易にアクセスし、組織の内部ネットワークを外部情報源と結びつける存在」として、1977年にM. Tushmanが提唱して以降、研究が進められてきました。

このような個人の役割としては、バウンダリースパナーの他にも様々な研究がなされており、「重量級PM」「イントレプレナー」「技術ゲートキーパー」「イノベーションの仲介者」といった役割が提唱されています。しかしながら、公式権限の低いミドル・ボトム層が事業変革を実現するために、どのような行動を取って難所を乗り越えていくのか、どういった要件を満たしているのかについては明らかになっていません(下図の“Unknown”の部分)。

■大企業でなぜバウンダリースパナーが必要なのか?

既存事業の効率化を図るべく組織化された大企業においては、その強み故に境界が顕著に現れるため、境界を跨ぐ情報の流通や意思疎通、連携・協働がしづらくなり、イノベーションが失速しがちです。

バウンダリースパナーはそれらの境界を架橋し、イノベーションを加速する役割を担います。その役割を、事業変革の戦略立案フェーズから定着フェーズにまで広げて捉え直し、具体的な成功事例を体系化することで、行動・難所の乗り越え方・要件を明らかにし、その再現性を高めることが、今回の研究の目的です。

  • バウンダリースパナーは具体的にどのような難所に直面するか?
  • バウンダリースパナーは成功事例において、難所をどう乗り越えたか?
  • バウンダリースパナーは難所を乗り越えるためにどんな要件を獲得しておくべきか?

次回から、具体的な事例を元にこれらの問いに対する答えを考えていきましょう。

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