「#ラグビーを止めるな2020」コロナ禍で発足した高校生ラガーマンの進路を助けるプロジェクト発足を聞く(前編)

新型コロナウイルスは、スポーツ界に多大な影響を及ぼしました。各種大会の中止により選手は実力をアピールする機会を奪われ、キャリア選択の危機に直面しています。そんな中、ラグビーに打ち込む高校生を支援するために立ち上がった「#ラグビーを止めるな2020」プロジェクト。選手のプレーする姿をTwitterに動画投稿してアピールするというアイデアは、瞬く間にラグビー界に、そして枠を超えて他競技まで広がりました。その発起人、元ラグビー日本代表でありグロービス経営大学院卒業生の野澤武史氏に、プロジェクトへの想いを聞きました。(全2回前編)

「ファーストチャンス&ラストチャンス」を逃さないために

田久保:まず、野澤さんとラグビーの関係を教えてください。

野澤:小学5年生から始めました。仲間に恵まれ中学で東日本優勝、高校で全国ベスト8、大学では大学選手権でも優勝することができました。ユースも、U 19、 U 23、日本代表とトントン拍子に選んでいただき、日本代表で4試合出場。卒業後は神戸製鋼コベルコスティーラーズに所属し、2年目にトップリーグで日本一を経験、29歳まで現役でした。

引退後は、母校のコーチを4年した後、日本協会(公益財団法人日本ラグビーフットボール協会)のリソースコーチ(協会に所属し、将来の代表カテゴリーのコーチを目指すコーチのこと)に登録。2017~18年はU17日本代表ヘッドコーチを。2018年からは日本協会でタレント発掘担当になりました。大きくて速い選手を集めて育てる協会初のキャンプ「ビッグマン&ファストマン」をスタートさせました。そんな流れで今年、「#ラグビーを止めるな2020」を始めました。

田久保:高校野球なら甲子園がキャリア選択の舞台ですが、ラグビーでは?

野澤:3月の「選抜大会」です。1~2月に開かれる地域ブロックの新人大会でリクルーターが目星をつけ、選抜大会には大学関係者が集まる。そこで声がかかり、5~6月に意思確認をして、秋に推薦願書を出すのが通例でした。今年はその大事な3月に新型コロナウィルスの感染拡大がありました。

ラグビーはコンタクトスポーツなので、体をつくらなければなりません。選手として仕上がるのが3年生。やっと世間の目に触れるのが3年生の選抜大会なんです。しかも、進学を考えて春で引退という学校もありますし、県のベスト4で負けてしまうと、どんなに個として優れた選手でも全国でのアピールチャンスはほぼありません。

ただラグビーの特徴は、エスカレーション率の高さ。たとえばバスケだと高校から上のステージで体育会やBリーグに入る選手は7%ぐらいに激減しますが、ラグビーは20%以上が続けます。選手の需要も案外多い。また、高校から始める選手も多く、強豪校に選手が一点集中しない。今回のワールドカップも、あまり有名ではない学校からも選ばれています。

ですが、とにかく情報が取りにくい。リクルーターも近畿・九州・関東という3大エリアの選手は大体網羅していますし、有名校なら高校の先生と大学のリクルーターの繋がりで分かりますが、他の学校はまったく……。

田久保:それで、動画をSNSに上げて多くの大学関係者に見てもらおうと企画されたのですね。

(写真:本人提供。コーチ仲間と)

高校3年生のために、大人としてできることをやる

野澤:「選抜大会」中止が分かってから2週間ぐらいでアイデアをどんどん出していきました。当初は、クローズドな安心・安全の場で動画をアップしてもらおうと考えたのですが、それでは結局使える人が減るのではないかと。最後の最後にTwitterを使うことを決め、5月にスタートしました。

田久保:昨今の情勢を考えると、「個人情報が」などと言われる懸念もあったはず。踏み切れたのはなぜですか。

野澤:「高校3年生のために大人がやれることは何か」と考えたら、本当に、このぐらいしか手がなかったんです。

タレント発掘で私が過去に体験したことも背中を押しました。ある年、宮崎に良い選手がいました。九州ブロックは福岡に超強豪チームがあるので、その選手はブロック代表には選ばれなかったんですけれども。翌年のキャンプで、先生方に「彼はどの大学に行くんですか?」と聞いたら「就職する」と。

要は「〇〇ブロック代表」の名がつかないと、大学の授業料免除枠には入りにくい。しかも3年生になってケガをしたため、オール宮崎にも入れず、結局、どこの大学も手を挙げてくれず就職することになった、というのです。その時に、こんなに有望な選手が次のステージに進めないことは、ラグビー界の危機だと強く思いました。

その時の想いもあり、今回のプロジェクト発足につながりました。2020年6月上旬時点で、選手の動画はすでに100前後あがっていると思います。

田久保:高校生は自分で撮ったり、親に撮ってもらったり、ですか。

野澤:それと先生です。「こいつのタックルがすごいんです」などのコメント付きでアップしてくださっています。ある先生から、「すごく愛にあふれた企画だね」とおっしゃっていただきましたが、嬉しかったですね。

田久保:大学側の反応はどうですか。

野澤:好感触です。早速使ってくださった先生からLINEが来て、「すごい。アップして2時間で大学からオファーがありました」と。そういう事例は1件だけじゃないです。

また、大学生の選手もアップし始めました。大学生にも、企業チームがスカウトに来るトライアウトが毎年あるのですが、それも中止になったので。ある大学生が、トップリーグ2チームから声をかけてもらったと聞きました。進学だけでなく雇用まで創出できているようです。また、中学校の一番大きな大会が9月の終わりにあるのですが、これも中止が決まりました。これで中学から高校への接続もかなり難しくなってしまいました。中学3年生にも、ぜひこれを活用いただきたいと思っています。

オンライン活用が進化のカギになる

田久保:グロービスもコロナで、リアルの懇親会など失ったものがありますが(笑)、得ているものも多々あります。オンラインが主になると距離が関係なくなるので、拠点横断のつながりをつくるのがスムーズですし、なぜ今までやらなかったのかと思うことも。

野澤:おっしゃる通りです。全国を最も見て回っているのは自分で、選手の8割は網羅していると自負していましたが、今回Twitterに上がった選手の3分の2以上知らなかった。しかも、粗削りのすごい選手がいる。「これだけ知らなかったのか」と。どさ回りも必要ですが、今後は戦略性をもってオンラインも使わない手はないなと。自分を戒める機会にもなりました。

田久保:「高校生ラガーマンを救おう」から始まって、大学、中学……と上下に発展していこうとしている。他のスポーツにも広がりそうですか。

野澤:「#スポーツを止めるな2020」として、野球・サッカー・バスケ・フィールドホッケー・チア・アーチェリー・ソフトテニス・ハンドボールと、多岐に広がっています。ただ、運用に差が出てきています。「#ラグビーを止めるな2020」をそのまま移行したものは難しいようです。

成功例は柔道の「#standupjudo」。こちらはリクルート目的ではなくトップ選手が練習動画を上げるもので、やり始めたのは日本代表の羽賀君。柔道界はSNSを使うことに対してすごくシビアで、中高生はSNSに上げられない。そもそもスマホが禁止されている学校が多いということで、練習動画をあげた。そこに他のオリンピック代表選手も乗ってくれて、今すごい再生回数になっています。(後編に続く)

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