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120年続く京急のこれまで、そしてこれから

投稿日:2019/12/10更新日:2020/01/31

高度経済成長と人口増加などを背景に、これまで盤石なビジネスを展開してきた鉄道会社ですが、他の産業と同様に、人口減少と高齢化という課題に直面しています。こうした中、横浜市に本社を置く京浜急行電鉄は、異業種との連携によるオープンイノベーションに活路を見出すべく、さまざまな取り組みにチャレンジしています。ここに至るまでの歴史や背景、取り組みの意図を京浜急行電鉄株式会社・新規事業企画室の橋本雄太氏にうかがいました。(聞き手=グロービス経営大学院 難波美帆)(全2回)

川崎大師の参詣客の輸送が始まり

難波:そもそも鉄道会社の役割は何だと考えていますか。

橋本:当然ながら交通インフラを軸にしながらも、その先の働く、遊ぶ、学ぶといったライフスタイルにまで入り込んでいくのが日本の鉄道会社の姿かなと思います。

難波:歴史をひも解くと、京急は縁日で賑わう川崎大師と六郷橋を結ぶ路線から始まったのですね。つまり参詣客を運んでいた。

橋本:京急は関東初の電気鉄道として1898年に創業し、2018年に120周年を迎えました。まさにニーズがあるところに、しっかり応えてきた歴史だと思います。沿線住民の生活が豊かになり「買い物がしたい」となれば百貨店をつくり、スーパーマーケットをつくり、レジャーが必要であればレジャー施設をつくりといった形で、ユーザーのニーズに沿って拡大してきました。

現在は、東京の玄関口である品川、羽田空港から神奈川県の三浦半島を結ぶ鉄道事業を軸とする交通事業のほか、百貨店やスーパーマーケットなどの流通事業、オフィスや住宅の賃貸などの不動産事業、さらにはホテル、マリーナ、水族館などのレジャー・サービス事業も手掛けています。

難波:鉄道会社は、沿線の地域開発にも大きく寄与していますよね。

橋本:阪急電鉄の創業者、小林一三氏が確立した、何もないところに鉄道を敷き、そこに住宅地を造成し、住民の需要を満たすという私鉄経営モデルですね。京急の場合、京浜工業地帯を走り、そこで働く人々を運ぶというニーズが先にあった点で、少々このモデルとは異なる成り立ちだと思っています。

難波:日常生活に密着した、とても庶民に愛される電車ですよね。

橋本:そうですね、下町感があります。こうした歴史があったため、宅地開発や造成ももちろん手掛けていますが、ほかの私鉄と比べると開発の規模としては決して大きくはないと思います。

なぜ今変わらなければならないのか

難波:創業120周年にして、新規事業企画室を中心に、スタートアップとのオープンイノベーションに取り組まれたりするのには、どんな狙いがあるのですか。

橋本:これまで鉄道事業というビジネスは盤石でした。しかし今後の舵取りは難しいでしょう。日本共通の課題だと思いますが、やはり人口減少と高齢化が重くのしかかってきます。また、テクノロジーの進化によって産業構造が変われば、工業地帯の在り方も変わってきますし、首都圏での働き方も変わってきています。我々のこれまで手掛けてきたビジネス自体が揺らいでいます。

これからの時代に顧客に必要とされるものを探し当てて、それに応じたサービスを生み出すことが求められています。

難波:働き方や産業構造の変化について、新しい事業を開発し、対応しようということなんですね。

橋本:そうです。モビリティ、移動手段というものの根幹はこの100年間、ほとんど変わらなかったと思います。それがこの10年ぐらいで激変する様相になってきています。トヨタさんが自動車を製造・販売する会社から、移動に関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティカンパニー」への転換を宣言する。そういう時世です。

デジタル・テクノロジーがどんどんアナログの世界に入り込んでくる中で、鉄道会社は今までのように交通インフラを提供するだけではなく、インフラの先にある付加価値を生み出し続けていく必要があります。

価値観が多様化する中で、ビジネスの不確実性が増しています。こうした時代のサービスの開発は、スピード感を持って顧客のニーズを捉え、チャレンジの数を増やしていくことが求められます。また、いま新しい価値を生み出そうとすれば、AIやIoTといったデジタル・テクノロジーの活用は不可欠です。いずれも我々にとっては苦手な分野なので、京急がハブとなって、スタートアップのみなさんと手を組んでやりましょう、というのがオープンイノベーションの発想です。

我々にできるのはリアルなアセットや顧客接点を提供させていただくこと。また地域の信頼もあります。これらのリソースを最大限に開放することで、スタートアップと共に新たな価値を生み出したいと考えています。スタートアップのみなさんと互いに汗をかき、それぞれの得意分野を組み合わせれば、これまでにない新しい価値が生み出せるはずです。

交流人口はまだまだ増やせる

難波:営業エリアにはどんな課題をどんなふうに捉えていますか。

橋本:人口減は止められないので、その中でどうやって地域の持続性を高めていくかが重要です。

その1つとして、駅前で提供する新しい移動手段の実証実験をスタートアップの「NearMe」と行いました。ただ、従来のように単純にタクシーといった形で提供するのではなく、配車システムや適切なルーティングのアルゴリズムを導入して、いかに効率的に回していくかにポイントを置きます。最終的には自動運転での対応になると思いますが、バスやタクシーの運転手不足で難しくなる住民の足の維持に繋がり、今のうちから外部と連携して準備を進めています。

一方で、観光による交流人口は、まだまだ増やせると考えています。今、特に力を入れているのが三浦半島の新たな観光資源の掘り起こしです。スタートアップの「ヤマップ」と一緒に『MIURA ALPS PROJECT』に取り組んでいます。

ヤマップが提供するアウトドアアプリ『YAMAP』を活用しました。京急とヤマップ共同で三浦の山のPR動画を制作し、SNS機能を通じてコアなユーザーに訴求したほか、「三浦アルプス」のトレッキング推奨コースを作り、アプリ上で配信しました。これまで危険もあった登山が、GPSの位置情報を活用したコースガイドによって安全に楽しめるようになったのもポイントです。

難波:登山ですか。三浦といえば、マグロだと思っていました。

橋本:三浦の場合、海があるので夏はたくさん人が来るけど、秋冬のコンテンツがないというのが課題でした。そこで登山をもう一度見直してみようと、ヤマップと一緒にリブランディングしたら、例年の3倍以上の人が来ました。

これも単に紙の地図を配布するだけでなく、アプリの各機能を活用した効果であり、こうしたコンテンツの開発は我々だけではできなかったものです。これからも三浦半島エリアの観光活性化には積極的に取り組んでいきたいと思います。

難波:沿線の空き家問題はいかがですか。

橋本:空き家問題は、タウンマネジメントを手掛ける不動産部門が懸命に取り組んでいます。例えば、空き家をサブリースした上でリノベーションして転貸したり、シェアハウスに変えたり。こうした取り組みは地元の大学などと連携をしながら進めています。

私が関わった案件で言うと、第1期のアクセラレータープログラムで、クラウドファンディングを使って資金を集め、葉山町の空き蔵をリノベーションするというプロジェクトを実施しました。このときは不動産や建築、まちづくり、空き家再生などに取り組んでいる神奈川県鎌倉市の「エンジョイワークス」とタッグを組みました。今は宿泊施設として利用され、沿線の活性化につながっています。

地域密着の鉄道会社にとって、ローカルの課題を深掘りし、顧客のニーズを捉えることがビジネスチャンスにつながってくると思います。都心から過疎の進む地域まで、日本の縮図とも言える沿線を抱える京急だからこそ、スタートアップとともに、先進的な取り組みが出来るのではないかと考えています。(後編に続く)

(文=荻島央江)

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