自己株式取得の会計処理と効果
最近では、株主からの要求への対応や株価対策など、会社の財務戦略として自己株式の取得をする企業が多く見られます。
例えば、株式市場から自己株式を時価1,000円で1,000株(1,000千円)取得する場合の会計処理は以下となります。
(借)自己株式 1,000 貸)現金及び預金 1,000
B/Sでは、純資産の部の株主資本から控除する形式で表示されます。
自己株式を取得すると会社の純資産が小さくなるため、財務レバレッジ(総資産/自己資本)が上昇します。その結果、会社のROE(自己資本利益率)が上昇します。最近、自己株式を取得する会社が多く見られるのは、株主等からの注目度が高いROE改善策の1つと言えます。
自己株式売却の会計処理
さて、自己株式は会社法上、議決権や配当請求権は制限されていますが、依然有効な株式であるため、再度株式市場へ売却することもできます。
例えば、株価1,000円で1,000株(1,000千円)取得した自己株式を時価1,500円で全株売却すると差額の500千円は利益となるのでしょうか。自己株式売却の会計処理は以下の通りです。
借)現金及び預金 1,500 貸)自己株式 1,000
自己株式処分差益 500
また、時価800円で全株(1,000株)を800千円で売却する場合は、以下となります。
借)現金及び預金 800 貸)自己株式 1,000
自己株式処分差損 200
売却時の時価と取得価額の差額は、売却価額>取得価額の場合は「自己株式処分差益」、売却価額<取得価額の場合は「自己株式処分差損」として会計処理されます。そして、自己株式処分差額はP/Lの損益ではなく、純資産の部の株主資本の内訳項目である資本剰余金(その他資本剰余金)の増減として取り扱われます。
自己株式処分差額が損益とならない理由
これは、自己株式の取得、売却は株主との直接取引であり、会社にとって損益取引ではなく、資本取引と考えられるためです(詳細は「ICOは資本取引なのか?資本取引と損益取引の違い」を参照ください)。これは、自己株式を取得する際に資産ではなく、実質的な資本の払い戻しとして株主資本のマイナスとして表示する考え方と同様です。
なお、自己株式の売却に伴って発生した証券会社等に対する支払手数料は、損益取引としてP/Lの営業外費用に計上されます。
自己株式処分差損>その他資本剰余金の場合
自己株式処分差損がB/Sのその他資本剰余金を超過する場合は、当該不足部分を会計期間末に繰越利益剰余金(その他利益剰余金)から控除します。
例えば、その他資本剰余金が200千円、自己株式処分差損が500千円の場合。まず、その他資本剰余金から200千円を控除し、不足の300千円は繰越利益剰余金(その他利益剰余金)から補填します。その他資本剰余金は、株主の会社への払込資本から配当制限の対象となる資本金及び資本準備金を控除した残額であり、払込資本の残高がマイナスとなることはあり得ないという考え方によるものです。
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