今回は資本取引と損益取引について説明します。
ざっくり言うと、資本取引とは会社と株主との直接的な取引のことです。貸借対照表(B/S)では資本金と資本剰余金が増減する取引であり、増資(株主からの払い込み)、減資、あるいは、合併、株式交換・株式移転や会社分割などが資本取引の原因となります。
資本取引に対応するのが損益取引です。損益取引はB/Sでは利益剰余金を増減させる取引です。B/SとP/L(損益計算書)は利益剰余金と当期純利益を介して繋がっています(※)。したがって、損益取引は売上高や売上原価、販売費及び一般管理費などのように当期純利益を増減させる取引と考えて良いでしょう。
※当期純利益以降に包括利益がありますが、ここでは簡略化のために当期純利益を用いて説明します
会計ルールでは、資本取引と損益取引は明確に区分しています。これを、「資本取引・損益取引区分の原則」と言います。理由の1つは資本の拘束性です。資本取引は、株主にとっては出資であり、会社にとっては事業を営むための資金調達です。会社は、調達した資金を事業へ投下、運用して成果を得ます。この成果(当期純利益⇒利益剰余金)は株主への配当が可能です。これに対して株主からの出資を払い戻すことは資本の弱体化にも繋がります。
また、資本取引と損益取引の区分が不明確だと、例えば今年の売上が厳しい会社が株主からの出資(増資)によって得たおカネを売上に計上して予算達成するといったことも起こりえます。
資本取引・損益取引区分の原則と言うと難しく聞こえるかもしれませんが、ある意味当たり前のことを規定した原則なのです。
ICOは資本取引なのか?
ところで最近、仮想通貨市場の取引データ解析を行うメタップスがICO(イニシャル・コイン・オファリング=仮想通貨で資金調達を行うこと)で得たおカネは資本なのか負債なのかを議論した末、前受金(負債)としてB/Sに計上しました。
IPO(イニシャル・パブリック・オファリング=新規株式公開)と同様にICOによって得たおカネが投資家からの出資であれば資本取引となりますが、仮想通貨やICOの法的な位置づけが明確に定まっていないための措置だと思われます。
ところが、会社のプレスリリースではICOによって得たおカネを近い将来収益として計上する意向を示しました。つまり、会社はICOを損益取引として認識しているということです。
ICOは、資本取引なのか、それとも損益取引なのか、いずれかによっては決算書の数字が大きく影響を受けると考えられます。今後のICOは法的位置づけの整理に注目したいと思います。