場作りで地域を盛り上げる【コミュニティマネジャー/五十嵐慎一郎】

まだ涼しさが残る4月の北海道で、株式会社大人の五十嵐慎一郎代表にインタビューをした。場所は、当時まだオープンしていなかった「大人座」というバー。一度は東京の銀座でコワーキングスペースを運営しながらも、地元・札幌に戻り、人と人がつながる楽しさを中心に据えながら、様々な面白い「企み事」をする五十嵐氏。「北海道が好き」というシンプルな原動力で北海道の内外を繋げる五十嵐氏だからこそ語れる、地域活動参画の一歩とは。

仕事は、何か面白い「企み事」をすること

長川:株式会社大人で何をしているか、教えて欲しい。

五十嵐:まだ3期目で事業内容もどんどん変化しているので答えにくいが、最近は「企み事をする会社」と答えている。軸の1つは場づくり。店とか、施設とかの場所、空間の企画、プロデュース。もう1つはそこから派生して、イベントの企画、運営。今はウェブも作っている。

最初の1年はひとり社長だったので、地域のプロジェクトごとに転々とし、2年目は前職のときに手掛けた銀座のコワーキングスペース「theSNACK」をスタッフごと引き取り、運営会社として経営。並行して、札幌移住計画という団体の運営や、海外の人をターゲットにした北海道ウェディングの事業をスタートさせたりしながら、なんとかやっている。銀座のコワーキングスペース自体は、去年の10月末にビルの事情で閉じることになったが、ジョインしたメンバーとの新たな事業展開もあり、北海道にオフィスをつくり、メンバーを増やして事業を拡大しているところだ。

長川:今、1番の企み事は何か。

五十嵐:ここ「大人座」自体が、1番の企み事かもしれない。銀座で結局6年ほどコワーキングスペースをやっていたが、すごく面白かった。ちょうど海外・国内含めてコワーキングスペースができ始めた黎明期。同世代の起業家やクリエイター、フリーランスの人たちが出入りしてく中で、いろんなプロジェクトが生まれていくのを日々目にしていた。地元の北海道に業界を横断して出会いが生まれて、コトが起こる場所を作りたいなと。

どの地域もそうだと思うが、何かやりたい人って大体東京に出て行ってしまう。だからこそ地域に、いろいろな人と出会うことができるリアルな場が目印として存在することは、すごく意味がある。フラリと立ち寄ったら何か面白い人がいたり、面白い話が聞けて、地域のムーブメントに触れることができる場所を今作っている。

北海道が好きという単純な気持ちが、東京から北海道へと、自分を動かした

長川:なぜ北海道に戻ってきたのか。

五十嵐:北海道が好き。結局、そういう単純なことだった。新千歳空港に着いて電車で札幌のほうに来るが、そのときに森が見える。白樺の森を見ると、やっぱいいなという感覚がある。そういった自然、風景は自分の原体験でもあり、無条件で好きなもの。一方で、東京で働く中で、北海道の残念な部分も見えた。もったいない、誰かがどうにかしないと、という思いがあった。

長川:時代の移り変わりと共に、変えたいと思う部分が増えたという感覚?

五十嵐:時代という意味では、はっきりは分からない。自分が20代、30代になって見えている景色のなかで、例えば、高校の同級生で何かやりたい人って、医者とか士業は別として、みんな東京に出てる。東京にはヒト、モノ、カネが集まってるから、当然の選択だとは思う。でも、今の時代だからこそ、地域でも何かプロジェクトを立ち上げたり、地域ならではの働き方っていろいろできるよなっていう気持ちが僕にはあった。

北海道の人って、意外と内向きというか、のんびりしてる。開拓精神があるとか言われるが、それは昔の話で。今の北海道の現状は、戦後形成された対東京の支店経済で、公共事業が降りてきて成り立ってる構図。だから自分たちで何か新たに商売つくって働くっていう姿が意外と遠い気がする。でも僕は、何でもいいから、何か新しいことチャレンジする人がもっとたくさん増えたほうが地域は楽しいと思う。

長川:同世代が出て行くのはなぜなのか。

五十嵐:一般的には、大学や就職の際に、より大きなチャンスを求めて道外に出ていく。北海道が嫌で出ていくパターンはあまりないと思う。20代後半の時に、東京で地元のみんなと飲むと、大体みな「北海道好きだからいつか戻りたい」「何か自分でできることがあればやりたい」って言っていた。だけど、そこに踏み出せる人はほとんどいなくて。就職して、結婚して、子どもができて、家買って…となるうちにどんどん関わりにくくなる現状がある。それは何か歯がゆいなって。優秀でバイタリティがあって北海道が好きで何かやりたいけど、踏み出し先がないのだったら、何かできないかなと思って。それが、札幌移住計画や、北海道移住ドラフト会議という企画につながっている。

自分のコンフォートゾーンに閉じこもって生きるのはリスキーだ

長川:札幌にはどんな課題があって、どんな札幌や北海道にしたいのか?

五十嵐:「自分で何かやってみよう」っていうチャレンジャーがまだまだ少ないと感じている。偉そうなことを言える立場でもないし、起業が善な訳ではないが、「なんか北海道面白い人たち多いよね」「何かいろんなチャレンジしているよね」と言われる地域でありたいという思いはある。

その根底にあるのが、世の中に対する関心や好奇心がない若い人たちが増えている、という危機感だ。例えば、札幌に4、500席ぐらいある流行りの相席屋があるが、そこに来る若い子達と話してみると、自宅と職場の往復だけ、ご飯食べに行ったり飲みに行ったりも全てこの周辺で完結していて、東京ですら「怖そう」という感覚をもっている子が多い。いわばコンフォートゾーンから全く出てない人が、実はたくさんいるのかもしれないと知り、恐怖を感じた。

家でYouTubeを見て、クレジットカード使ってAmazonで買いものをする今の時代、自分のコンフォートゾーンの外にグローバルレベルで吸い取られている部分があるわけで。そこに無自覚なまま生きていくことは、非常にリスキーだと思う。

長川:どこかでそれぞれが大きな世界の恩恵を受けていて、それを自覚した上で、自分のコンフォートゾーンに留まるなり、それをしないなりの選択をすべきだと。

五十嵐:札幌には、リアルな貧困が、実はもう目の前にあるのかもしれないと思っていて。東京と比べて安い賃金だから、既に、コールセンターが乱立し、IT業界でも下請け工場と化している現状がある。今後、国内が二極化するなかで、完全にその低所得層を担うことになる流れにある。ご飯は美味しいし、自然にあふれて、でも貧困に向かう土地。それなのに、のんびりしている。そんな現状を認識した上で、北海道で生きることを選択していくなら、良いのだけど。

長川:その自覚という部分でつながってくるのが、五十嵐さんがしている場作り。そういった場には地元外からの人々も集まってくる。そういう外の人間に対して期待することは何か。

五十嵐:新たな風を運んだり、かき混ぜてくれるような外の人が来てくれることはとても大事。場づくりって、空間というハードを作ることも大事だが、その場で人がどう出会うかというソフト面を充実させることが重要だと思う。大人座は、そういう出会いをたくさん増やすってだけで、ひとまず、いいんじゃないかなと思ってて。あとは勝手にどうぞ、みたいなゆるいノリで。特に、若い世代には、本当に色々な人と出会って欲しいと思ってる。親と先生だけだと、世界ってすごい狭くなっちゃう。良い意味で変な大人と出会うチャンスをもっとつくりたい。

友達が困っていたら何かする。そんな感覚で北海道に携わる

長川:五十嵐さんは、地方創生をやっている感覚を持っているか。

五十嵐:全然ない。元気にしたいと思ってやってはいるので、それを地方創生ですっていわれたらそうなのかもしれないが、違和感もある。やっぱり地元だからというのが大きい。家族や友だちが困ってたら何かしたいなと思う感覚の延長で僕は北海道に関わっていて、何か国益を意識しているわけではない。

地方創生ってあくまで中央と地方があって、日本のために地方を創生しなきゃならない、というような中央からの目線の話なのかなと。それよりは、対日本対グローバルを見据えて、北海道のミライがどうあれば、サバイブ出来て、魅力的な場所になるんだろうかと。自分が北海道で見えるシーンの中でこうあったらいいなとか、こうしたいなって思うことをゲリラ戦でやってる感じ。

長川:一方で、地方創生っていう言葉はすごくバズっていて、関心のある人は多い。地域に参画する人たちに求められる姿勢は?

五十嵐:簡単。住んじゃえ、と。起業したてのときは、地域のプロジェクトに企画やプロデュースの仕事で入ることが多かったが、通いながらその地域のことやるのには限界があった。それは地域側も同じで、ここでがっつり住んでやってくれよって思いがある。デザイナーとか、かたちに残るものをつくれる人だったら別として、それ以外の何らかの形で関わるってとなると、地域としては住みながらその地域を盛り上げてくれることが一番求められていると思う。例えば、1年でいいから住んでみる、仕事は極論何でもいいんじゃない、とか。

長川:就職の際に若い人たちが出て行ってしまうっていう話を読んだ。五十嵐さんは、その部分をどう考えているのか。

五十嵐:実は出て行ったほうがいいと思っている。「自分の子どもをどこに就職させたいですか?」と聞かれたとき、もちろん家の事情で道内にいてもらいたい人もいるだろうが、子どもの未来を考えたら「道外」という選択肢も出てくるだろう。東京や海外で働く環境を経験させたいと思うんじゃないかと。それは健全だと思うし、そういう外を知っている人たちが中に戻ってくることに意味があると思っている。だから、僕の使命は、戻ってきたい場所をつくることなのかなって。

地域へ関わる「一歩」を支援する取り組み

長川:移住関連のイベントを開催している。

五十嵐:2018年10月末に「北海道移住ドラフト会議」、2019年1月に「#みんなの札幌移住計画4」というイベントを東京で行った。前者は野球のドラフト会議をパロディにしたマッチングイベントだ。いわゆる“球団”側として、道内の自治体はもちろんベンチャー企業やNPO法人が12団体出場した。一方で北海道に住みたいとか、働きたいという個人40名程度が“選手”としてエントリー。最終的にイベント時は24名に絞らせていただいたが、すごく盛り上がった。半年が経過したいま、5名が移住。“球団”同士でプロジェクトが生まれたり、“選手”同士の交流が生まれる副産物もあった。北海道が好き、北海道で何かやりたいってパワーが集まったので、さまざまな化学反応が起き、コミュニティができた。

また、別で、札幌移住計画という有志団体をつくり、札幌のベンチャー企業に特化した移住イベントをやっている。みんな、北海道に関わるはじめの1歩の踏み出し先がないんだと思う。さっき僕は「住んでみれば」と言ったけれど、実際問題、いきなり転職&移住するのは、「せーの!」で出会うお見合いみたいなものでハードルが高い。けれど、ドラフト会議は、実際に会ってデートしながらお互いのことを知って、告白して、そして北海道に対して自分なりの関わり方を見つけていく。そんなあり方も、あってもいいじゃないかなと。

長川:“選手”側の方々は、出もどり組が多いのか、全く地元とは関係のない方が多いのか。

五十嵐:両方いるが、やはり出身者のほうが多い。あとは大学のときに北海道にいたとか。アイスホッケー大好きとか、バイクすごい好きで北海道に住みたいとか、本当に理由は様々。北海道外で北海道のことを知る手段とかメディアっていうのは、なかなかなくて、北海道のこと興味ある人たちが統一で見てるメディアもないし、北海道新聞すら有料配信だったりする。道外に出ると今の北海道が見えなくなる。実はだから広報や“選手”集めはすごく大変だった。

「最近何かおもしろいことない?」と気軽に聞ける場を、札幌で作っていく

大人座

オープンした大人座

長川:コミュニティマネージャーとは、一言でどんな人か。

五十嵐:基本的には、そのコミュニティの価値を高め、その価値を感じてもらうために動き続けられる人かなと思う。すごく簡単に言うと、その人がいるからその場に行きたいと思える人。いろんなタイプがあっていい。あとは楽しそうだなと思ってもらえることが大事。特に僕は、まず自分が楽しくないと他人も楽しくならないというタイプなので。

コワーキングスペースというハード場だけがあっても駄目で、コミュニティマネージャーやハブになる人の存在は重要。WeWorkぐらいの規模でも、コミュニティマネージャーをしっかり立てている。これだけIT社会になってきても、そこの部分はアナログで、Face to Faceの部分ってすごい大きいなと思うし、地方に行けば行くほどアナログ部分は強い。結局飲みに行こうってなったときって、誰と行くか、誰と会うかが大事で。あそこ行ったら面白い人と会えそうだなとか、「なんか五十嵐さん最近面白いことないの」とか、単純に「飲みに行こう」って連絡来るぐらいがいいのかもしれないなって。

長川:楽しさ、という言葉は五十嵐さんのキーワードだと感じた。最後に、五十嵐さんみたいに地域で何か思いをもって行っていきたいと思う方々へ、メッセージを。

五十嵐:とりあえずアクションすること。気になるところがあれば行って、地域の人と会ってみればいい。知り合いがいなければ、「移住計画」という名前の取り組みが全国で行われているから、そこに連絡してみてもいい。地域に関係するイベントは、たくさん開催されていて、地域プレイヤー同士のつながりもどんどんできてきている。だから、考える前に、行ってみるでもいいし、とりあえず誰かに会って話聞いてみるでもいい。興味もったコトに、何かアクションすれば、必ず何かにつながると思う。

まとめ

「楽しさ」という言葉を何度も口にされた五十嵐さん。「大人座」も本格的にオープンし、益々新しい企み事を札幌から仕掛けられていくのだろう。次のシリーズでは、五十嵐さんのような民間の取り組みを様々な角度から支援する行政の立場から、「地方創生」について考えていく。

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