物が熱を帯びるパターン~加熱・伝熱・発熱
物が熱を帯びるパターンを3つ挙げてみます。1番目に、物に直接火を当てる。するとその物は熱を帯びます。いわば外部からの直接的加熱の方法です。2番目に、物を湯に浸ける。湯の熱が伝わって、その物が熱を帯びます。これは外部からの間接的伝熱です。3番目は、味噌や醤油の醸造を思い浮かべて下さい。コメや豆を蒸して、水や塩とともに樽の中に入れます。そして酵母菌を振りかけます。すると、コメや豆が発酵をはじめ、自ら熱を発し、成分を変化させていきます。
発酵型で一人ひとりが自ら熱を帯び変化する
さて、これを「人」が熱を帯びることに引き延ばして考えてみたいと思います。まず、部下・メンバーの熱意を上げるために、上司・リーダーは直接本人に向かって叱咤激励や指導をします。これはつまり1番目の直接加熱のやり方です。効果的にはたらく場合もありますが、叱咤のみが度を超すと、ハラスメントになってしまう危険性もあります。
次に多くの社員のやる気を一斉に変えたいときもあるでしょう。そんな場合は、人事を刷新したり、報酬制度を抜本的に変えたりして、社内の雰囲気を変える手立てがあります。さらには、組織文化を理想のものに変えていくことも重要な施策になります。そのように社内環境という湯の温度を上げることで、じわり伝熱的に社員に熱を帯びさせていくのが2番目の方法です。
そして3番目の発酵型。これが最も難しいものですが、最も根本的で強力な熱の帯び方になります。上司やリーダー・経営者は、一人ひとりの社員の内にある自己啓発性をうまく刺激し、自律意識醸成の手助けをします。この3番目の発酵型は、一人ひとりの社員の内発的動機を呼び起こし、自ら発熱させ、自らの変化を促すものです。そして「個として立つ職業人」に育てていくものです。
発酵型によって一人ひとりの社員が熱を帯びるために、上司・リーダー・経営者は何を酵母菌とすべきでしょうか?――それこそ理念・ビジョンであり、哲学であると私は考えます。
ただ、理念・ビジョンなら何でもいいかというとそうではありません。発酵という反応を起こす主体はあくまでコメや豆です。酵母菌がきちんと受け入れられるように、理念・ビジョンも上司・組織側の独りよがりな押しつけであってはダメで、変化する主体と共有されなくてはなりません。また、樽という環境、すなわち組織文化や制度も、発酵活動に適したものでなくてはならないでしょう。