問題解決における良い「あるべき姿」の要件とは

問題解決新刊『MBA 問題解決100の基本』の6章「課題設定の鍵となる『あるべき姿』」から、「Basic056 良い『あるべき姿』を描くことが問題解決の精度を上げる」を紹介します。

問題解決(あるいは課題解決)は、端的に言えば「あるべき姿」(目標)とのギャップを解消することですから、そもそものあるべき姿を適切に描くことが問題解決の効果や効率を上げる上で非常に重要になります。

たとえば「風邪をひいた」という問題であれば、あるべき姿は「風邪が治った状態に戻す」ということは比較的明確です。つまり、定常状態(この場合は風邪をひいていない状態)や世の中の平均的な状態があるべき姿であれば、問題解決の方針も立てやすくなります。一方で、あるべき姿が単なる定常状態や平均的な状態ではなく、今よりも良い状態の場合、その設定は必ずしも簡単ではありません。そして企業は通常は今よりも良い状態を目指すものです。どのようなあるべき姿が会社を良い方向に導くのかを正しく理解することが非常に大切です。

(このシリーズは、グロービスの書籍から、東洋経済新報社了承のもと、選抜した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

良い「あるべき姿」を描くことが問題解決の精度を上げる

問題解決は課題解決という表現で語られることもあります。全く同意に用いられるケースもありますが、本書では、問題とは元々想定していた「あるべき姿」とのギャップ、課題とは、問題解決に向けてのポジティブな方向性での取り組みを指すものとします(ソリューションそのものではなく、どう取り組むかという点に力点があります)。

たとえば、「体重が目標体重より10キログラム重い」というのは問題、課題は「体重を○○の期間に10キロ減らす」となります。

ここで難しいのは、あるべき姿は一律に決まるものではなく、それを適切に設定すること自体が、問題解決や課題解決に影響を与えるということです。

前述の例でいえば、「目標体重より10キロ重くても健康で、外見もだらしなくない」というのもあるべき姿としては絶対的に悪いわけではないのです(実際、ダイエットが目的化して健康を害するということもありますので、安易な体重減は好ましくはありません)。

では、適切なあるべき姿をどう描けばいいのでしょうか? ポイントは以下の5つです。

(1)関係者間で最大限の合意がある。1人だけにメリットやしわ寄せが偏らない
(2)適度なストレッチがあり、自分や組織の長期的成功に資する
(3)皆の思いが反映されている、ワクワクできる
(4)世の中の大きなトレンドやパラダイムシフトの方向性に乗っている
(5)実現可能性が高い

先の体重の例でいえば、短期間で10キロ体重を落とすのは難しいでしょう。より高次の目的は健康や見た目ですから、「減量は1年に5キログラムとし、一方で生活習慣に気をつけて生活習慣病を避け、だらしなく見えないようにファッションなどにも気をつける」というのは1つの妥当性の高い「あるべき姿」です。

実際のビジネスにおいて先の(1)から(5)を実現するには、以下の条件がさらにベースとして必要になります。

・立ち返るべき企業のビジョンや経営理念、企業の存在目的(存在意義)がある
・世の中の変化に敏感で、未来をある程度共有できている
・自社の実力、強み・弱みが適切に関係者間で把握・共有されている

現実に難しいのは、先の(1)から(5)のバランスについて、何を重視するかは人や組織によって大きく変わってくるという点です。たとえば大企業などは、(1)を重視するあまり、(2)、(3)が劣後してしまう傾向があります。

実際に、最初はエッジの立った革新的な目標が、社内のコンセンサスを得る過程でどんどん角が取れてしまい、ワクワク感がなくなったというのはよく聞く話です。

また、(4)や(5)についても、「未来の事実」というものはありませんから、当然、人によって見通しにバラつきが出てきます。その結果、平均的なところで妥協してしまい、本来望ましいあるべき姿からはずれが生じることがあるのです。人間はトータルとして見るとリスクを取るよりも回避したがる性質がありますから(好ましい方向へのずれよりも、好ましくない方向へのずれを過大に評価する)、一般的にはあるべき姿が保守的になりやすいのです。

(1)から(5)の正しいバランスに、唯一の正解はありません。だからこそ、重要な問題になればなるほど、あらゆる情報を総動員し、未来に対する想像力を働かせ、対話を行い、(1)から(5)を高い次元で満たす「あるべき姿」を構想する必要があるのです。

時にはその「あるべき姿」についてこられない人が落後する可能性もあります。しかし、それも過度でなければ問題解決のコストと割り切るリアリズムも重要です。

#キーワード
ストレッチ、パラダイムシフト、リスク回避

(本項担当執筆者:嶋田毅 グロービス出版局長)

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