ルノー・日産の資本関係とソフトバンク上場の共通課題とは? 

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日産×ソフバン

ルノーと日産の両社トップを勤めるゴーン氏が突然逮捕され大騒ぎになっています。あれほどの実績を持つカリスマ経営者があくなき強欲者だったことへの失望、それを早めに是正しなかったガバナンスの欠如、日産側の陰謀・クーデター説、そして日仏外交問題への発展の懸念、と論点てんこ盛で連日メディアは賑わっています。

ではファイナンス的には何が論点でどう考えるべきでしょうか?

折しも、ソフトバンクグループ(以下SBG)の携帯子会社、ソフトバンク株式会社(以下ソフトバンク)の東証一部上場の日が近づいており、2兆円を超える売却株の買い手が十分集められるか、テレビのCMまで流して盛り上がっています。

この2つに共通する法的・ファイナンス的論点は、「少数株主投資家の保護は大丈夫か?」です。そしてこの視点が経営者の暴走を抑える「ガバナンス(企業統治)」の正しいありかたにつながっています。

親子上場の問題点

親子上場とは、上場している会社がその子会社をさらに上場させることです。ソフトバンクの取引は業界用語で「カーブアウト」と呼ばれます。SBGは上場後も60%程度の持株比率を維持する予定なので、ソフトバンクも連結子会社です。

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ルノー・日産に関わる資本関係は下図の通りです。

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ルノーは日産の43.4%の株式しか保有していませんが実質支配しているので日産はルノーの連結子会社(持分法)となっています。

親子が両方とも上場することは違法ではありません。日本には歴史的に子会社の上場を成人して独立するかのように祝福する風土があり、戦前の財閥はそうやって新たな資金調達を行い事業領域を拡大しました。日立やイオンも伝統的にその手法を取ってきました。しかし近年、特に日立グループは海外投資家の声も踏まえ、完全子会社化するか売却するかの白・黒をはっきりつける方針に切り替えています。親子上場の数は減少傾向で、新たな親子上場には証券取引所の上場審査で厳しいチェックがかかります。米国では海外子会社の場合を除きほとんど例がありません。

海外の会社が日本企業を買収するにあたり上場を維持することはルノー以外にもよくあり、最近の例としてはホンハイのシャープ66%買収があります。これはカーブアウトによる親子上場とは手順が異なり、上場企業が発行する多額の新規株式を増資引き受けして支配権をとるM&Aの一形態ですが、買収会社も被買収会社も上場しているので最終形は親子上場と同じになります。

これら親子上場の問題はずばり、「利益相反(コンフリクト)」です

メディアはルノーと日産の間の対立、つまり両社の経営陣の主導権争いとしてこの問題を取り上げますが、ここでいう利益相反は子会社の支配株主である親会社とそれ以外の株主との間で起こる対立です。子会社経営陣の責務は株主平等原則に基づき当該子会社の企業価値を高めることにあります。ところが親会社が支配権をコントロールしている経営の下では、親会社の利益を優先して子会社の企業価値が犠牲になる意思決定が行われがちになります。親子間の取引価格の設定、さまざまな名目での「上納金」徴収、などが典型です。

ルノー・日産の場合、技術力は日産の方が優るのにR&D拠点をフランスに置いたり、生産拠点の集約にあたりルノー側に寄せて日本の工場が閉鎖されたり、といった決定があり得ます。これらはルノーの株主にとっては正しい判断でしょうが、日産の株主にとってはそうとは限りません。

ルノー側でゴーン氏に巨額報酬を与えると国内の反発が大きいので日産から支払わせるというアレンジがあったとしたら、これは利益相反行為です。ルノーのために働いているゴーン氏の報酬を日産のコストに付け替えることになり、日産の従業員のみならずその株主には植民地支配者の現地搾取のように映るでしょう。その批判を避けるために有価証券報告書での報酬開示を過小に行なっていたとしたら、一般株主をあざむく行為です。

そうではなくむしろゴーン氏はルノー側の干渉から日産を守る盾になっていたという見解もあります。だとするとゴーン氏は自分の雇い主ルノー、ひいては大株主の仏政府と対立します。ゴーン氏にはルノーの株主からも日産の株主からも非難を受けない難しいバランス調整役を担わされていたのです(高額報酬を正当化するわけではありませんが)。

ソフトバンクの場合、親会社SBGは投資会社になるようですが、親と子の棲み分けは将来にわたって明確になっているのか不明です。通信分野で新しい事業・サービスが出てきた際に、儲かりそうなら親会社が新たな子会社を作ってそこでやるが、そうでなければ子会社でやる、あるいは通信会社で上げたキャッシュを通信事業への再投資に充てず親の投資事業や借金返済のために低利融資で吸い上げる、といった行為は、親の株主と子の株主の対立を生みます。そして親は経営支配権を持っていますから子会社の少数株主は泣き寝入りとなります。

米国で親子上場が無い理由は、米国の少数株主は泣き寝入りせず株主代表訴訟をすぐに起こし面倒なことになるからです。それを避けつつ経営の意思決定スピードを落とさないため、米国で事業再編を行う場合は、高値で一括売却するか、スピンオフ(会社分割)という手法で株主にSBGとソフトバンクの両方の株式を渡し、2つの全く別の会社に切り離すのが通常です(図参照)。

今年の春、富士フィルムHDが傘下の富士ゼロックスをからめて米国ゼロックス社の50.1%支配権を増資引受けの形で取得しようとしましたが、著名投資家アイカーン氏らにこの取引の差し止め訴訟を起こされ頓挫しました。上場したまま少数株主に追いやられることの問題、支配するなら中途半端にせず100%をプレミアム価格で買い取るのが筋、という米国的な発想は株主利益保護の法理に基づいています。

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株式持合いはなぜいけないのか

ルノーへの対抗策として日産のルノー持株比率を25%以上に引き上げて、ルノーの日産への議決権を無効化する作戦も議論されています。これはどういう仕組みでしょうか?

ルノーと日産の資本関係は図の通り両社がお互いの株を持ち合っています。もともと日本企業間の株の持合いは、1970年頃に資本の自由化が進み外資が日本企業の株を取得できるようになった際、資本力のまだ弱かった日本企業が外資に乗っ取られるのを防ぐために編み出されました。ルノーと日産の場合は、業務提携を行いお互いの技術や生産設備をオープンにするにあたり、相手会社が第3の競合会社に買収されてその技術・設備を盗られてしまうのを防ぐ意味があると考えられます。

しかし株式持合いは資本の空洞化、株主総会意思決定の歪曲化をもたらすという批判があります。2社がお互いの株式を同じ金額分買うとすると、実質無コストで済みます。これでお互いの持株比率を水増しすれば株主総会での議決事項をお互いの経営陣を支持する形でコントロールできてしまいます。

そこで日本の会社法では、子会社が親会社の25%以上の株式を取得した場合に親会社の子会社に対する議決権が無くなる、と規定しています。日産がルノーの25%を保有すると実質的にルノーの経営支配が可能とみなされ、日産株主総会でのルノーの43.4%の議決権行使に日産の現経営陣の影響が及んでしまう、それを防止する趣旨です。株主総会の形骸化を防ぐための規定ですが、今回のケースではルノーの自由な議決権行使を阻止して親会社の経営支配を有名無実化しようという目的でこの手段が取り沙汰されています。こうなるとどちらも相手に口出しできなくなり、資本関係はアライアンス強化の役割を果たせなくなります。

次回(12/18公開)は、資本のねじれの問題と、今後の展開について考察します。

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