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プロジェクトで得た熱い想いを伝播させて風土を変える――JTB中部の挑戦

投稿日:2018/05/30更新日:2019/04/09

マネジメント層や人材育成担当者の多くは、社員の意識を変革する難しさを感じているのではないだろうか。様々なメンバーが集まって1つのプロジェクトに取り組むことで社員の意識を変え、組織変革や新規事業促進につなげる――グロービスと共にこうした「On the Project Training」に挑戦した企業の事例を紹介する本シリーズ。初回は事業の変革を促すプロジェクトを主導した、JTB中部(当時)の細野泰教氏と田川隼氏に話をうかがった。(文=荻島央江) 

アウトプットだけでなく“想い”を重視

板倉:今回、2017年6月から2018年2月までの約8カ月間、事業の変革を促すプロジェクトに取り組んだ。そもそもどんな問題意識があって、実施したのか。

田川:まずは、業界における環境の変化だ。今のお客様は対面のみではなく、ウェブなどで交通手段やホテルの手配をすることも多い。こうした変化や競合の激化で、現在の中心的なビジネスは立ち行かなくなるかもしれない。このタイミングで何か手を打たなければという危機感があり、経営企画課で発案した。さらに、2018年4月にはグループの再編で、当社はJTBに統合されることが決まっていた。中部地域の将来における可能性を社員が主体者として検討することは、今しかできなかった。

プロジェクト形式を採用し、2030年に向けた提言をしてもらうことにした。社員に自分ごととして考えてもらうためだ。経営陣は事業計画や方針をきっちり社員に落としていると思っているが、「会社はこう言うが、現場実態が伴っていない」と感じ腹落ちしていない社員も多い。どうしたら両者のギャップを埋められるのか。社員自身が会社のあるべき姿を提言できれば、「自分ごと化」できると考えた。プロジェクトを通じて、「もっと変わらなきゃいけない」という意識を社員に持たせることが最大の狙いだ。

板倉:アウトプットだけでなく、そこに込める想いを重視した。

細野:参加者が主体性を持ち、自律的に動けるような状況をつくることに苦心した。確かに成果物が出ると「やった感」は出る。ただ、本来の目的が達成されたかというとまた別の話だ。「会社からこう言われたので、こういうものをつくりました」ではなくて、自分たちの想いを込めてもらうことを大切にした。そうでなければ、ほかの社員の心に響かない。彼らに期待したのは、今回のプロジェクトで得た経験や想いをそれぞれの職場で伝播させること。やがてそれが全社へと広がり、会社全体の風土改革につながっていくといい。

田川:求めていたのは、ドンピシャの正解というより、これを通じて周りの社員の心を動かすこと。何か刺さるものがない限り、人は興味を持たない。まして自分を変えようとは思わない。

外部のファシリテーションで思考を広げる

板倉:なぜ社内で完結せず、外部(グロービス)と組むことにしたのか。

細野:外部の知見ややり方を吸収しないと、思考には限界がある。当社は転職組が少ない。似通った経験をしているメンバーだけで議論をした場合に、本当に望むようなアウトプットが得られるのかという疑問が拭えなかった。

加えて、実際にプロジェクトを動かしていくとき、社内にはファシリテートできる人間が少ないので、その部分も補ってもらいたいと考えた。

板倉:メンバーはどう集めたのか。

田川:他薦と自薦で集めた30人ぐらいの候補者から11人に絞った。応募条件は特に設けなかったが、結果的に30代、役職でいうとグループリーダーが中心になった。

板倉:どのようにプロジェクトを進めていったか。

田川:約8か月のプロジェクトだったが、初回は1泊2日で時間をかけて吐き出しをした。これがよかった。グラフィックファシリテーターがディスカッションの内容を可視化してくれたり、レゴを使って思いを表現したり。その中で相互理解が深まったと思う。「所属長から言われたから来た」という受け身の姿勢から、次第に「こんなことをやりたい」と積極的な意見が出るようになった。

細野:毎回、プロジェクトの冒頭にメンバーがそれぞれ気になったニュースを複数提示し、意見交換をした。これを続けたことで物事の見方や考え方が感覚的に身についたのかもしれない。視野も広がった。

板倉:プロジェクトを進める中で何か課題はあったか。

細野:一人ひとりモチベーションが異なる中で、いかに彼らの気持ちを1つの方向に持っていくかが課題だったが、初日のセッションで足並みが揃ってきた。

講師が、メンバーが自ずと「この人たちと議論を重ねて、最終的に何らかのアウトプットを出そう」と思うように空気を醸成してくれた。さらに、「うまく言葉にできないけれど、こんな感じ」みたいなものを拾って膨らませてくれたり、違う角度から指摘してくれたりした。序盤戦でそれを繰り返してもらえたことで、メンバーは思考を止めずにどんどんしゃべれた。

反面、途中からグループミーティングをするにつれ、尖った意見の角が取れてしまった時期があった。角を尖らせたまま、うまく形にしていくのは難しい。

板倉:そのとんがりをいかに担保していくのかが、このプロジェクトでは相当大事なポイントだったということか。

細野:途中、想いと熱量が失われてしまった時期もあった。「言葉としては確かに正しいけど、本当にそれってやりたかったことなのか。初めはもっと熱く語っていたはずだ」と。それが最後に戻ってきた。

しっかり吐き出してからロジカルに整理

板倉:プロジェクトの最終発表はいつだったのか。

田川:2018年2月にグループリーダー以上の社員、約300人が集まる場で2030年に向けた提言をチームごとに発表してもらった。

細野:プロジェクトが始まった頃のプレゼンは、いまいちだった。ロジックが通っていなかったり、飛んだり、資料が見にくかったりして、スッと頭に入ってこない。講師から、経営層が理解しやすいような分析のツールや思考のフレームワークなどテクニカルな部分も教えてもらって、修正していった。

本人たちも言語化できてなかったことが、ある程度整理をされていき、最初の頃の気持ちに近い感じで最後はまとまったと思う。

板倉:吐き出しではなく、仮にロジカルに整理することからプロジェクトをスタートしていたらどうなっていたか。

細野:経営計画や事業計画を作ることや2月のプレゼンが今回の最終ゴールではないので、そこにウエイトを置いてなかった。最終的に彼らが現場で想いを伝播させていく。個々から組織に影響を及ぼし、風土改革につなげる。それが目的だ。

グロービスの講師はよく「最後にぐっとまとめればいい」と話していた。だから結構、直前までいい意味で散らかっていたと思う。最初に吐き出させるとか、ほかの人の意見を理解するとか享受する、そういった時間がつくれたのはよかった。

板倉:アウトプットにどんな評価をするか。

細野:彼らなりの1つの仮説として出てきたものは間違っていない。納得感が高く、みんなもそうだよねと思える内容だった。

田川:それをそのまま実行できればそれはそれで面白い、可能性は感じるものの、あくまで1つの可能性として提言されたもの。アウトプットされた内容に実効性があるかとか、収益面で会社に貢献度が高そうかどうかという観点ではもう一段の検証は必要だ。

板倉:このプロジェクトを通じてメンバーはどう変わったか。

田川:最初は「自分たちがこういうビジョンを描けば会社が後押しをしてくれる」「予算をつけてくれる」「会社と一緒に何かがやれる」と思っていた人が多かったが、最後は「今のままじゃいけない。一人ひとりが変わることが必要だ。会社任せではなく、自分でやれることからやってみよう」に変わった。自らを取り巻く環境との向き合い方が一番変わった点だと思う。終わった後、何人かのメンバーに「めちゃくちゃ大変だったし、忙しかった。でも選んでもらってよかった」と言われた。

細野:会社を変えるには、今回のような地道な取り組みがたぶん必要なのだと思う。「意識を変えろ」と指示だけをするより、よほど効果的だ。

 

※株式会社JTB中部は4/1付けで株式会社JTBに経営統合されていますが、旧社名で掲載しています

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