エッセンス(本質)とフォーム(形態)、2つの次元を往復せよ 

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見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。
―――金子みすず『星とたんぽぽ』

かんじんなことは、目に見えないんだよ。
―――サン・テグジュペリ『星の王子さま』(内藤濯訳、岩波書店)

本質は形をまとい、形は本質を強める

さて、本コラム第3回目の図は2つの円です。内側の円は「エッセンス」(essence:本質)、外側の円は「フォーム」(form:形態)を表わします。
図1
この世界において、「本質は形をまとい、形は本質を強める」という相互作用がはたらいています。

例えば、「精神(こころ)」と「身体(からだ)」。精神はエッセンスであり、身体はフォームです。精神はそのあり様を、身体を通じて外に表し出そうとします。身体もまた、そのあり様によって精神に影響を与えます。

芸術は内面にひそむ本質を外側に造形する戦いと言えますが、彫刻家オーギュスト・ロダンは次のように語っています。

「良い彫刻家が人間の胴体を作る時、彼の再現するのは筋肉ばかりではありません。其は筋肉を活動させる生命です」「われわれが輪郭線を写し出す時は、内に包まれている精神的内容で其を豊富にするのです」「美は性格の中にあるのです。情熱の中にあるのです。美は性格があるからこそ、若しくは情熱が裏から見えて来るからこそ存在するのです。肉体は情熱が姿を宿す型(ムーラージ)です」──高村光太郎『ロダンの言葉』より

ロダンは若い彫刻家たちに、表面だけを見てそれを造形するな。内側にまなざしを向けて、そこから起こる力をとらえよ。そして内から外へ凹凸をつくり出せ、と教えました。

ケーススタディも形態と本質の往復作業

「学ぶ」は「真似(まね)る」から来ていると言われるとおり、まずは世の中にある手本を外側から見て真似ることから始まります。そうして形を真似ているうちに、本質的な原理がわかってきて――つまり外から内へ(アウトサイド・イン)の流れ――、やがてその原理をもとに技術の習得が進む――内から外へ(インサイド・アウト)の流れ――になります。

MBA(経営学修士課程)では、よくケーススタディ学習法が用いられます。このケーススタディも、この〈エッセンス〉と〈フォーム〉の往復、すなわち、アウトサイド・イン、インサイド・アウトの流れでとらえることができます。
図2
ケーススタディにおいてまずやることは、他社の成功(あるいは失敗)事例を見つめて分析することです。これは〈フォーム〉次元です。そこから、何がその本質かという抽象をします。抽象の抽の字は「引き抜く」という意味です。そして〈エッセンス〉次元で概念化をします。

成功したり失敗したりする本質・原理は何だったのか。それをつかんだ後は、再度、〈フォーム〉次元に下りていき、具体的な行動・方策・教訓に変換します。

この一連の[1]抽象化→[2]概念化→[3]具体化の流れを私は、「π(パイ)の字思考プロセス」と呼んでいます。コンセプチュアル思考の基本となる思考フローの形です。

型の奥にひそむ本質をつかめ

「守・破・離」という成長段階の概念もまた、〈フォーム〉と〈エッセンス〉の往復です。「守・破・離」が用いられる日本の伝統芸能や武術の世界では、「型」の修得が重要な鍵になります。弟子はまず師の所作を外側からながめ、真似ることから始めます。すなわち型という〈フォーム〉次元から入るわけです。
図3
やがて弟子の中で、型の奥にある〈エッセンス〉をつかむ者は「守」の段階に入り、師の型を修得することができます。そしてさらに、高次の抽象を行い、高次の原理をつかむ者は、教わった型を打ち破り自分の型を生み出すことができます。それが「破」のフェーズです。さらにまた高次に至ると、ついには型から自由になる境地を会得します。これが「離」のフェーズです。

その一方、型を表面的になぞるだけで〈フォーム〉次元に留まる者は、「型っぽい」ものを行うだけです。

私たちの仕事やキャリアにも、この形態と本質の2つの次元は存在します。〈フォーム〉の次元だけで形態に目を奪われ右往左往するのでもなく、〈エッセンス〉の次元に閉じこもって観念論に終始するのでもない。2つの次元を大きく往復することで、大きな答えが生み出され、大きな道が拓かれることになります。

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