2023年の注目トピック――組織・リーダーシップ編

グロービス経営大学院の教員が2023年の注目トピックを取り上げるシリーズ。今回は「組織・リーダーシップ」編です。人的資本経営の実現に向けた潮流や、続くコロナ禍あるいはDXの潮流により変わる価値観や働き方など、組織の戦略実現に向け、リーダーには様々な知見や実行力が求められています。そんな中で、2023年に重要となるポイントとは何でしょうか。「人材マネジメント」「組織行動とリーダーシップ」「パワーと影響力」講座ほかを担当する教員3名に、それぞれ注目テーマを伺いました。
パーパス経営ブームの行方は?
芹沢 宗一郎

バブル崩壊から30年、グローバリゼーションやダイバーシティなど、各時期の変化の文脈の中で「理念」ブームが起こっては、数年つづくと消え、を繰り返してきた。一方で、理念経営の本質とその重要性を深く理解している企業は、そんなブームには目もくれず、ひたすら愚直に正しいことを正しく実行しつづけている。そういう企業は実行力があり、強い。
そしてここ数年、SDGs、ESG、Z世代、コロナ/DXによる提供価値の再考の必要性を背景に盛り上がっているパーパス経営の行方はどうなるのだろうか?
間違ってはいけないのは、パーパス(理念)を浸透/共有することがゴールではないことだ。その過程から生まれてくるエネルギーを大きなものにし、目的に向かって組織の実行力を高めていくこと、これがゴールである。
ではなぜ実行力が大事なのか? 経営の成果とは、正しかろう戦略×正しく実行の掛け算で決まる。前者については、たしかにデジタル化により、自社の強みだけで戦うという従来までのバリューチェーン思考から、顧客の提供価値最大化のために自社だけでなく他社のリソースも最大限活用していくというエコシステム思考に変えていかなければならないという難しさはある。ただそうはいっても、戦略は模倣可能といわれるように、業界内の戦略は極めて似てくる。
一方で、現実の業績には企業間で大きな格差がでている。それは理念/文化に根差した実行力の差だということを、企業のお手伝いをさせていただくと実感する。「限られた情報の中で仮説を立て、スピーディに実行し検証し、戦略を修正していく。結果が出るまで諦めない」という実行力こそが競争優位の源泉になる時代だからだ。
パーパスに共感できる人をバスに乗せて、あるいはパーパスを組織に共有するだけで満足していないか? バスに乗る方も、乗るバスのパーパスに満足して終わってないか? 真にパーパスに共感しているという状態とは、パーパスに向かって決断し行動して結果を出す責任を強く自覚していなければならない。パーパスの共有を熱心にやっていても、実行力がともなっていない組織は結果も出ないので、「パーパス(理念)で飯が食えるのか?」という疑問が生じ、やがてパーパス活動は終焉を迎えることになるだろう。
最後に個人へのメッセージとして、哲学者サルトルはEngagementについて次のように述べている。
「人間は、自らがいかなる存在なのか、どのような決断をしたのかによってその人間の本質は決定される。そして、人間が社会と関係する中で生きていく以上、自らの意志で自由に行動(決断)した責任は社会に対しても負わなければならない」
パーパスに向かって実行力がともなうかが問われる一年と予測する。
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