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コッターの組織変革と抵抗勢力―コロナを乗り越えた町工場社長の10年 Vol.3

投稿日:2022/09/30

リーマンショック後のV字回復を持続性ある成長軌道に乗せるために、フジイ金型の藤井社長は、リーダー層の意識改革をねらいとするソフトSの施策に乗り出した。しかしその矢先、コロナが発生し、仕事量が激減した。藤井社長はこの最大の危機を意識変革のチャンスとして活用した。(聞き手=グロービス経営大学院教員 芹沢宗一郎)(全3回、最終回)(第2回はこちら

ピンチを変革のチャンスととらえる

芹沢:内向きの意識を変える教育改革の途中でコロナが起こったが、コロナを意識改革のチャンスと捉えた。そのきっかけは、「6稼4勤」(月~土の6日を稼働日として、そのうち4日勤務する)だと思うが、これはどのような発想から?

藤井:リーマンショックのときの学びからだ。リーマンショック時(2009~2011年頃)も減産に対応するため週休3日制をとったが、この時は金~日の週末に3連休となるスタイルであった。その期間中に社員の生産性が落ち(ゆっくり製造しても納期が間に合ってしまう)、いざ仕事量が増えてきてもそのスピードについていけず、納期遅れが多発し、受注量の取りこぼしの発生や通常の目標仕事量に復活させるのにとても時間がかかった。

そこで今回は同じことが起こらないように、専務取締役と相談し、各人の一時帰休日をずらしてシフト制にし、かつ従来の月~金の5日間の会社稼働日を月~土の6日間に変更し、その6日間のうち4日(または5日)出勤する「6稼4勤制」を考案し、社内展開することとした。

芹沢:それにより社内の意識はどう変わった?

藤井:6稼4勤制により休みは増えるが、休みがシフト制でバラバラなので、自分が出社した時に隣の仕事の担当者が休みということがある。そこを自分でカバーしなければならない多能工化が進み、常に忙しく、生産性を落とさない、落とさせない働き方になる。また隣の仕事を習得することにより隣の仲間の大変さや苦労を実感して、それを解決してあげようという思いやり意識も働く。結果的にはこれまであった縄張り意識の打破にもつながった。

元々「もっと効率化して作業スピード、生産性を上げましょう!」と社内に号令をかけていたが、業績が順調だったこともあり変化を受け入れるマインドが乏しかった。組織変革は最も大きな慣性力(元に戻ろうとする力)が働くが、コロナ危機という有事ならば社員たちは不安になり、何かにすがりたくなる。そういう時にトップの声は響きやすく、ひいてはトップダウンがしやすい状況となる。毎回では困るが、たまに起こる有事のタイミングは会社が飛躍する、成長するチャンスである。

このような変革ができたのは、ほぼ完全に経営権と所有権を私自身が持っているので、反発が起きても、結果が出るまで時間がかかっても、じっくりと長い時間軸で対応できるからだ。上場会社の社長などは株主からの声も大きい(短期的な利益志向)ので、このような長い時間軸の考え方は難しいと思う。

芹沢:ここまで社内の変革について伺ったが、6稼4勤という新しい働き方がいかに自社の今後の優位性構築につながるのか?

藤井:多能工化が進み、受注の変動に対応しやすくなる。結果、短納期対応もでき、また工数削減にも寄与し、コストダウンが可能になり、結果的に低価格化に対応できるようになると考えている。

変革に対する反発

芹沢:変革には反発がつきものだが、6稼4勤という新しい働き方に対する社内の当初の反応は?

藤井:今回の6稼4勤制の変革は、「休みが増えるが給与は減らさない。よって時間当たりの給与は上がり、実質的な賃金アップとなる。しかし仕事量(受注量目標)は従来と同レベルとする」と伝えた。社員にとってそれほど大きなデメリットはないと思っていたが、ある一定数は反対した。彼らの反対理由は、「これまで休日だった土曜日に出勤することとなる。それが嫌だ」というものだった。声に上がってきた反対意見としてはほぼその1点に集約される。

芹沢: そうした反応に対して具体的にどのように説得したのか?

藤井:それに対しては社長である私自らが各部門を訪問し、丁寧に説明した。「土曜日出勤といっても月に1~2回程度。その代わり平日に連休を取るということもできる。これから高齢化社会で親や家族の介護なども身近な事案になるでしょう。そういうことにも対応して、かつ働き続けるためにも6稼4勤は対応しやすい働き方。また休日日数の増加で優秀な人材の獲得にもつながる」、などなどを説明していった。

芹沢:うまくいったのか?

藤井:2020年5月から導入し、コロナが続いた1年ほどは一時帰休のために継続した。ここで、実績を作り、抵抗意識を下げようと思っていたが、抵抗勢力も40代以上のベテランを中心に一部存在した。引き続き部門ごとや1対1で丁寧に説明し、語り掛けたが、最後は無記名投票による全社員アンケートを取り、意識確認を行った。

このアンケートは、事前に私が各部門の社員をヒアリングした感触では「5割以上は賛成だな。特に若手層は前向きに考えてくれている」と感じ、アンケートを取っても賛成が過半数となると思い、行った。もちろん賛成が4割程度でも進めていくつもりではあった。

結果として、約7割近くの社員が新制度への移行に賛成した。反対していたベテラン社員はこの結果に驚いていたと思う。得てして、このような場合、反対する声は大きく聞こえてきて、賛成するものはほとんど声を上げないのでなかなか全体像が見えにくい。変革するリーダーはぜひそのような心理面も心に留めておいてもらいたいと思う。

芹沢:藤井さんの変革の手順は、コッターの変革の8ステップに当てはめてみてもたいへん理にかなったものである。

自立的な組織を目指して

芹沢:あらためて藤井さんが醸成したい企業文化とは?

藤井:一人ひとりがセルフマネジメントできる自立的風土だ。そのために採用にも力を入れている。地道な弊社のモノづくりに対する姿勢や働きやすさ、働きがいや“確かな技術力が身につく”ことを新卒市場や中途採用市場でPRしている。

中小企業の印象は、ほぼイコールで社長への印象だと思う。社長の印象が良ければ採用に向けてのハードルはかなり下がると思うため、私自身も積極的に発信している。また、これからはどんどん女性のメンバーを増やしたり、在宅でできる仕事は在宅で行うなど働き方も柔軟にしたい。

芹沢:次に考えられている人事施策は?

藤井:セルフマネジメントをし、社員自らがハッピースパイラル(幸せのらせん階段)を登っていくように設計した新人事評価制度を定着させ、成功を自ら体現しやすくし、変革を楽しむように進めていく。

芹沢:経営者として社会に、そして働いている従業員に対して実現したいことは?

藤井:会社としては、皆さんが安心して居続けることができる心理的安全を提供する。ただしそこに居続けられるのは、少しずつでも良いので自ら成長していける社員のみである。人生100年時代と言われているが、ほとんどの社員は70~80歳までは健康に働き続ける時代がすぐそこまでやってきている。そのことを意識できる社員を作り続けていきたい。

会社としては家族的なチームとして存続していきたい。会社に、仕事だけでなく、趣味や家族、人生なども相談できる仲間がいればとても幸せだと思う。人間的に活動している時間の半分以上を過ごす会社で幸せに過ごしてもらいたいと切に願っている。それを達成できる環境や教育を提供していきたいと思っている。

芹沢:最後に、社長は孤独とよく言われるが、この10年、グロービスのネットワークは、藤井さんにとってどのような価値があったのか? 

藤井:大変助けられている。やはり社長は孤独だ。ただ孤独に向き合う、慣れるのも社長の仕事の一つだと思っているので、そこは受け入れている。しかし悩みを相談したり打ち明けたいときはあるので、その時は同じような立場(事業承継者であり、経営者であり)にいるグロービスの仲間に相談して、とても助けられてきた。

また彼らに負けたくないという思いもあり、事業に邁進するモチベーションにもなっていた。これからも、良い仲間に出会えることを切に願っている。そのためにも自分から行動することを怠らないように心がけたい!

芹沢:たいへん貴重なお話に感謝申し上げる。

フジイ金型の前で。左から、グロービス経営大学院名古屋校で共に学んだ宮地氏(ミヤ電子社長)、佐野氏(梅花堂紙業社長)、藤井社長、芹沢講師。

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