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KSFの変化と事業継承-コロナを乗り越えた町工場社長の10年 Vol.1

投稿日:2022/09/28更新日:2022/12/24

コロナ禍の二年間、この有事をチャンスととらえ、モノづくり現場の変革に果敢に挑戦してきたグロービス卒業生(2014卒)経営者がいる。フジイ金型 藤井寛達社長だ。父親から事業継承して10年を迎え、2020年のコロナ禍で働き方を6稼4勤へ変え生産性向上に成功した。しかし、その裏には、大きな環境変化のなかで自社の強みを洞察し、強みを構築するために一貫した各種施策をブレずに実行してきた、トップの秀逸な戦略と実行力があった。本稿では、藤井社長とのインタビューから、10年間の挑戦の軌跡を追ってみたい。(聞き手=グロービス経営大学院教員 芹沢宗一郎)(全3回、初回)

リーマンショックで事業継承。どん底からの船出

―フジイ金型が手掛ける「ダイカスト金型」は、アルミを原料にした自動車部品を主力製品としている。国内金型市場1兆4000億円のうち、ダイカスト金型は約1300億円。そのうち7割の約900億円がフジイ金型のような専業金型メーカーの市場だ。藤井社長が事業を継承したのは、リーマンショックの影響が色濃く残る2012年。それから10年たちコロナ禍まで、事業環境はどう変化したのか。

芹沢:コロナ禍での6稼4勤(月~土までの6日間を稼働日として、そのうち4日間勤務するという働き方)というユニークな働き方で注目を集めたが、これは組織変革を伴うもので一朝一夕で実現できるものではないだろう。今日は、藤井社長が先代から事業を継承された2012年からどのように経営をされ、組織をつくってきたのかをお聞きしたい。

2012年といえば、リーマンショックの影響からまだ立ち直っておらず、外部環境は最悪だった。そのなかで経営を引き継がれた時はどのような思いだったのか。

藤井:弊社は、良くも悪くも中小企業のファミリービジネスであるので、経営トップとして一人で責任を負い、また就任すれば長い期間が託される。よって父や幹部社員の意見は聞くも惑わされずに、自分で軸をもって経営していこうと思った。長い時間軸で身の丈に合った利益と成長をし続ける、継続させるということを意識した。

社長就任時は38歳で、その数年後にはほぼ100%の株も所有した。よって自社の経営権も所有権も獲得し、じっくりと腰を据えて経営できる環境を手に入れた。

自身が健康ならば約30年はそのポジションにいるので、①最初の10年は先代のスタイルを勉強して真似る、②次の10年は自分独自のスタイルに挑戦して成果を出す、③最後の10年は事業承継を意識して次世代の負担になるものを整理する、という大きなビジョンの下で歩み始めた。

まさに「経営(けいえい)」とは「継栄(けいえい)」と書き表すと思っている。

金型業界のKSFの変化―安さから納期へ

芹沢:社長就任当時、リーマンショック後の金型業界の変化と自社の取るべき戦略をどう考えていたのか?

藤井:前提として、B to Bの製造業が追求する要素は行きつくところQCD(品質、価格、納期)であると考えている。

父が社長であった2012年頃までは、一定以上のQ(Quality:品質)の達成は当然で、それに加味してC(Cost:価格)が強く求められていた。当時のKSF(KSF=Key Success Factor)の「一定以上の品質の金型を安く提供する」ために、当社は、トップダウンで「無駄を省き短納期で製造し、製造コストを抑えて安く提供する」ことを徹底し、顧客からも高い評価を得ていた。

ところが、リーマンショック(2008~2010)以降は一定以上のQ達成とD(Delivery)である短納期対応のニーズが強くなってきた。これは弊社が主戦場とする自動車部品市場において開発から量産までの期間が短くなり、ユーザーである自動車部品メーカーがその対応に追われるようになったからであると思われる。つまり金型の価格が多少高くても短納期対応できれば許される市場に変化してきた。

その環境変化に対して、自社はこれまでコスト削減のために培ってきた強み―生産工程を常に改善し、短納期対応するという企業文化―を生かして成功確率(競合に勝てる確率)が最も高い戦略として、「短納期対応」を改めて目指すこととした。

芹沢:従来までは、コストをあまりかけないように短納期で対応していたという供給側の論理から、今度は、顧客のニーズに応えるために短納期で対応するという風に起点が変化したということか?

藤井:そのとおりだ。お客様のお困りごとの解決として短納期対応する。結果的に低価格で提供でき、お客様に喜んでもらえる

営業を強くし「顧客目線」を全社に浸透

芹沢:その新たな戦略を実行するために、一番重要な施策は何だったのか?

藤井:組織構造の改革だ。従来までは、営業、設計、製造3部門が部門としては同格で並列状態だったが、営業のトップは課長だったため、製造部長に比べると社内的には劣後する。それを営業トップ(No.2の専務取締役は営業部長を主業務とする)を引き上げて、営業の権限を強化した組織構造に変えた。これを2016年1月に行った。

芹沢:その狙いは?

藤井:弊社は、品質や納期に対応できるようにするために同業他社よりも金型パーツの内製化比率が高い。したがって仕事量が減ると赤字に転落するリスクが大きい。そうならないために営業による受注は非常に重要となる。

また、お客様のお困りごとを一番理解しているのも営業で、営業が強くなると全社でお客様目線が強くなり、コストや納期を意識して生産活動が営まれるようになる。顧客のニーズに応えるという戦略を実行するために、営業は重要だ。だから営業の権限を強化した。

芹沢:この新しい戦略により業績は?

藤井:2016年はじめに組織変革をしたが、2017~2018年頃には、国内の自動車市場の回復により弊社も順調に業績が伸び始め、V字回復した(下図)。

(フジイ金型提供の資料を基に編集部作成)

特に東海地区に立地することもあり、同地区のトヨタ自動車の国内自動車生産状況に依存して、右肩上がりの成長となった。もちろん需要が多いだけでは売上は伸びず、それに対応できる生産性の向上、具体的には設備投資と人員増強を先行して地道に続けてきたことが成長する需要をキャッチできた要因と考える。また右腕候補として中途採用した現専務取締役を営業部長に抜擢し、力を発揮してくれたことも大きな成功要因であったと考えている。

Vol.2に続く

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