CSV経営とは?戦略実行のための3つのポイント【企業事例付き】

CSVとは、経済的・社会的価値を求める戦略である

CSVとは、企業が本業の中で社会課題の解決に取り組み、経済的な価値と社会的な価値の両立を目指そうとする考え方です。Creating Shared Valueの略で、日本語では、「共通価値の創造」と訳されます。

2015年にSDGsが登場してから、戦略論としても注目を集めるようになりましたが、もともとCSVという言葉を使い始めたのはネスレです。ネスレは、2006年のCSRレポートの中でCSVの概念を提唱しています(参考:Nestlé “The Nestlé concept of corporate social responsibility as implemented in Latin America” p.5)。ネスレのCSV諮問委員会の一員であったマイケル・ポーターが同社の取り組みを2011年に論文としてまとめたことで広く認知されるようになりました。

マイケル・ポーターのCSVの定義では、「企業が事業を営む地域社会や経済環境を改善しながら、自らの競争力を高める方針とその実行」とされています。ボランティアや慈善事業としてではなく、ビジネスとして社会の問題に取り組もうとしていることがポイントです。

CSVと同様の概念としては、開発途上国の低所得者層を対象としたBOP(Base of the Pyramid)ビジネスなどもあります。

CSVについては、こちらの動画で詳しく解説しています。

関連動画:CSV〜共通価値の創造〜

ぜ今、CSVなのか

なぜ経営戦略としてCSVが注目されているのか、理由としては大きく2つあります。

1.SDGs達成の手段として

まず、企業の本業の中で社会課題の解決に取り組むことが求められるようになってきたことが挙げられます。SDGsが登場してから、自社の今までの活動をSDGsのゴールに紐づけてはみたけれど、実際に新しい取り組みを始めたわけではないという企業も多いのではないでしょうか。マッピングは入口としては必要ですが、それだけでは社会問題は解決しないし、新しい価値も生まれません。SDGsという壮大な目標に向けて、具体的な手段としてCSVに注目が集まるのは当然の流れといえるでしょう。

2.新規事業のアプローチとして

CSVは成長戦略としても注目されています。現在の成熟した市場では、急激な成長は見込めず、多くの企業にとって新規事業の創出は、重要な経営課題の一つでしょう。上司から「これまでにない新しい事業のタネを探してくれ」、「でも〇年後には黒字〇億円規模のいいネタを見つけてね」と言われ、頭を悩ませているビジネスパーソンも少なくないでしょう。当然、収益性が成り立つような社会課題は、これまでに事業化されていますから、そう簡単に新しいメシのタネは見つかりません。市場に残されているのは、解決の難易度が高く、放置されてきた問題ばかりです。しかし、それゆえ競争相手のいない市場であると考えることもできます。企業の成長戦略としてもCSVの実践が必要とされているのです。

CSVを実現する3つの方法

では、具体的にどういったビジネスであれば、CSVといえるのでしょう。企業は何かしら社会に貢献しているはずですが、CSVとこれまでのビジネスは何が違うのでしょうか。ここからは、ポーターの整理をもとにCSVの3つの方法を確認していきましょう。ポーターは、CSVを実現するには以下の3つの方法があると述べています。

1.製品と市場を見直す
2.バリューチェーンの生産性を再定義する
3.ビジネスを営む地域に産業クラスターを開発する

順番に見ていきましょう。

1.製品と市場を見直す

まず、企業は社会的なニーズを探る必要があります。たとえば、人々の健康促進や栄養改善、住宅の整備や金融の安定、環境負荷の削減など、世界にはいまだに満たされていないニーズが数多くあります。こうしたニーズに対して、自社の持つ技術やリソースをどのように生かすことができるのか考えてみましょう。社会的なニーズを常に探し求めることで、これまで 見逃していたような新しい市場の可能性に気づくことができるかもしれません。

新しい市場のニーズに応えるためには、製品・サービスの見直しやこれまでとは異なる提供方法を考えなければなりません。それは、決して既存製品のダウングレード版を作る、ということではありません。場合によっては、根本から製品を再設計する必要があるかもしれません。しかし、こうした要求に応えていくことで、既存の市場に対してもプラスになるようなイノベーションが生まれてきます。

2.バリューチェーンの生産性を再定義する

バリューチェーンとは、利益を生むために営まれる企業の一連の活動です。たとえば、部品や原材料などの購買、製造、出荷物流、販売・マーケティング、アフターサービスなど、一つの製品が作られてから廃棄されるまでの流れをイメージするとわかりやすいでしょう。CSVでは、このバリューチェーン全体の生産性を再定義すると説明されています。具体的には、長期的な時間軸や多様なステークホルダーの視点から生産性を考えるということです。

たとえば、環境汚染を減らす取り組みは長らくコストだと考えられてきました。しかし、技術革新により、導入コストが下がり、むしろ資源の有効活用やプロセスの効率化といった観点からコスト減に繋がることが分かってきました。調達に関しても同様です。短期的な利益を求めれば、少しでも安いサプライヤーから買おうとしますが、買い叩かれた生産者は生産性が低く、安定的な供給が難しくなる場合もあります。生活に必要な賃金をしっかりと保障することが、長期的にはバリューチェーンの強靭性につながるのです。

(参考:マイケル・ポーター『経済的価値と社会的価値を同時実現する共通価値の戦略』)

3.地域社会にクラスターを形成する

これも難解です。クラスターとは何でしょうか。クラスターとは、「群れ」や「ぶどうの房」を意味し、企業だけでなく、大学や研究機関、自治体などが、集積した状態のことです。

ご自身の企業が営む事業を思い浮かべてください。自社だけで完結していますか。違いますよね。当然、直接の取引先以外にも物流や通信を支えてくれる企業、地域のインフラ環境などのうえに成り立っているはずです。地域との関係が希薄な企業にとっては意識しづらいかもしれませんが、大事な働き手である人材を供給してくれる地域社会も忘れてはいけません。

たとえば、自社の製品に必要な部品を供給できるようなサプライヤーを育てていくことで、安定的に自社が求める品質のものを調達することが可能となります。また、地域の人材育成に取り組むことで、優秀な従業員を獲得しやすくなるようなことも考えられます。業界団体や学術機関、行政やNPOなど様々なステークホルダーと連携しながら、自社が取り組むべき地域の課題を発見し、協働していくことが必要です。

CSV事例 国内中小企業3選 

ここからはCSVを実践する企業の事例を取り上げていきます。CSVといえば、元祖となったネスレですね。グロービス経営大学院では、ネスレやトヨタのケースからCSVについて学ぶことのできる科目もあります。

 関連リンク:企業の理念と社会的価値

CSVの実践事例としては、ネスレの他にも、ユニリーバやIBM、ジョンソンエンドジョンソン、Google、ウォルマートなどが良く取り上げられます。一方で、「サステナビリティに力を入れている欧米のグローバル企業だからできるんだろう」、「資金にも余裕のある大企業にしかできないのでは?」という声も聞こえてきそうです。そこで、ここでは、皆さんの「やらない理由探し」をやめていただくために、日本国内の企業、かつ、中小企業に絞ってご紹介します。

1.環境に配慮した生産プロセスを選択した山口産業

1938年に創業した山口産業は革なめしの加工業者です。従業員数は4名の小さな会社ながら経済産業省の「はばたく中小企業300社」に選定されるなど注目を集める企業です。革製品を愛用されている方も多いのではないかと思いますが、その製造工程で有害な物質が出てしまうことはご存知でしょうか。革の製造工程では、毛や汚れを落とし、柔らかくするためのなめしという作業があります。現在、主流となっている「クロムなめし」という手法では、湿度や温度の影響で、人体にも環境にも有害で危険な六価クロムが検出されてしまいます。

そこで、同社は、天然成分である植物タンニンを抽出してなめし剤として使用することで、六価クロムが検出されないRUSSETY LEATHER(ラセッテーレザー)を開発しました。環境に有害な物質を含まないラセッテーレザーは、再利用した後、土に還すことができる環境負荷の少ないレザーです。加えて、赤ちゃんや敏感肌の人に向けた製品でも安心して使うことができる「やさしい革」でもあります。

ラセッテーレザーは、こうした高品質、環境性能が評価され、大手百貨店や有名デザイナーとコラボレーションするなど引く手あまたとなりました。2018年には世界有数のメゾンから世界で唯一のピッグスキン・サプライヤーに選定されるなど、世界的なブランドを確立しています。同社の取り組みは、人と環境への配慮から、自社の製造工程を見直し、イノベーションを生み出した成功例の一つです。

(参考:山口産業ウェブサイト

2.生産工程の可視化で市場を拡大した丸久

1959年創業の丸久は、子供・婦人・紳士服の企画・製造・卸を行う徳島県の企業です。160名ほどの従業員規模ながら、タイやバングラデシュにも子会社を持つなどグローバルに展開しています。バングラデシュの工場では、従業員の離職率、ストライキの影響で発生する渋滞によって生産ラインが影響を受けること、従業員が手で食事をすることによる商品の汚れなどの品質低下など、様々な問題が発生していました。そこで、丸久はこうした生産工程における課題を可視化し、改善に着手します。

まずは、工場で働く従業員の給料を現地の平均賃金の1.5倍に引き上げることで、求人数を増やした一方で、経験者のみを採用することで従業員の質を高めました。さらに、従業員を7つの村にバスで送迎し、同じラインに配置することで、渋滞を回避しつつ、従業員同士がコミュニケーションを取りやすいよう配慮しました。食事についても、カレーランチを毎日提供する代わりに、スプーンで食べることを義務付け、衛生管理を強化しました。

こうした取り組みを行った結果、熟練労働者の争奪戦に勝ち、優秀な人材を確保することができました。また、現地の交通事情により生産ラインが遅れることもなくなったといいます。生産性・品質が向上したことで、取引先を低価格帯から中~高価格帯へと拡大することに成功し、欧州市場へも進出しています。丸久の事例は、サプライチェーンの生産性向上が、売上の拡大にもつながった好例といえます。

(参考:丸久ウェブサイト

3.海藻の市場価格安定に取り組むキミカ

1941年に創業したキミカは、食品や医療品、化粧品などに使われるアルギン酸の製造・販売を行う企業です。アルギン酸はコンブやワカメなどの海藻に含まれています。グループ全体で400名に満たない企業規模ながら、アルギン酸の国内シェア95%を誇る業界トップ企業です。キミカは、SDGsの達成に向けて、優れた取り組みを行う企業・団体を表彰する「ジャパンSDGsアワード」でも表彰されています。キミカの取り組みを整理すると、以下の表のようになります。

キミカはCSVの三つのアプローチすべてを実現していますが、特に、地域社会にクラスターを形成する、という点では、地域のステークホルダーとの連携を通じて、持続可能なビジネスモデルを構築しており、地域社会にとってもなくてはならない存在となっています。日本企業におけるCSVの素晴らしい事例といえるでしょう。

(参考:キミカウェブサイト

CSVに対する批判

ここまで日本国内における中小企業のCSV事例を紹介してきました。今後はこうしたビジネスのあり方が主流になっていくと思われますが、一方でCSVに対する批判もあります。否定派の主張としては、大きく以下の三点です。

1.CSVを規定する明確なガイドラインがない
2.ビジネスが生み出すプラスの影響のみを強調しており、マイナスの影響を無視している
3.CSVが実現されているのが、一部の事業のみで、全社的な戦略になっていない

1.CSVを規定する明確なガイドラインがない

ガイドラインの不在については、グラミン銀行を創設し、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏も同様の指摘をしています。ガイドラインがあるにこしたことはないのですが、その事業がどのような社会的価値を生み出しているのか、わかりやすく伝えていく指標の方がより重要です。社会的インパクトを示す指標を設定することで、売上だけでなく、その製品やサービスにより恩恵を受ける人の数や環境的な価値を定量的に示すことが可能となります。

2.ビジネスが生み出すプラスの影響のみを強調しており、マイナスの影響を無視している

CSVは、事業によって生み出されるポジティブな側面にフォーカスしがちです。しかし、どれだけ社会に善い事業であったとしても、そこで働く人の労働環境が劣悪な場合や、製造過程において環境破壊を引き起こしているようであれば、当然、CSVとはいえません。自社のビジネスが生み出しているマイナスの影響にも向き合い、これを可能な限り小さくしていく努力が必要です。

3.CSVが実現されているのが、一部の事業のみで、全社的な戦略になっていない

この指摘もその通りで、全社の売上の10%を占める事業だけでCSVを実践していたとしても、残りの90%で環境や人権への配慮を怠っているのであれば、ウォッシュでしかありません。ポートフォリオマネジメントの中にサステナビリティの観点をしっかりと根付かせ、全社戦略としてCSVを実践していくことが求められています。

CSV経営と今後の潮流

戦略的にCSVに取り組む「CSV経営」を掲げる企業も出てきました。今後、企業がSDGsを達成するための具体的な手段として、CSVに取り組む企業は益々増えていくでしょう。2030年のSDGs達成、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、企業のサステナビリティへの対応が迫られる中、社会的価値と経済的価値を両立するCSVが、これからの企業のスタンダードとなるでしょう。

CSV経営について学ぶ

グロービス経営大学院では、ケースを通じて、CSVやCSRを通じた価値の創出と経営理念の関係について学ぶことができます。自社がCSVを実践するために、まずは、自社の製品・サービスが顧客や社会に対して、どんな価値を提供できているのか、改めて考えてみることから始めましょう。

記事で読む:知見録「社外取締役に求められる変化とCSV経営―第2回コーポレートガバナンス・サミット前編」 

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