映画「エターナルズ」の評価 ダイバーシティとポリティカル・コレクトネス―海外ポップカルチャーから学ぶ世界の価値観#4

エターナルズ ポリティカルコレクトネスダイバーシティの見える化は欧米の新常識

企業や組織が、その所属メンバーを何らかのビジュアルで外部に示す際には、ダイバーシティ(多様性)をひと目で分かるようにする。そうでなければ、差別主義者と指摘されかねない。これは、特にアメリカのビジネス界においては「常識」となった考え方です。

この価値観は、ビジネスだけでなくエンターテイメントにも反映されています。それを今回とりあげる映画「エターナルズ」で見てみましょう。エターナルズ ダイバーシティ ポリティカルコレクトネス

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)は、累計1兆円超のエンターテイメントビジネスであり、アメリカ人のファンが多く、愛国キャラクターも登場する「ザ・アメリカ魂」的シリーズです。2021年公開の映画「エターナルズ」は、その作品群の一つです。公開前から、中国出身のクロエ・ジャオ[1]を起用した監督人事が話題となりました。これだけアメリカ人のファンが多いなかでの、この人選[2]にはチャレンジ精神を感じます。

その挑戦は、本作のキャラクター造形にもあらわれています。かつては白人男性の独壇場だったスーパーヒーロー映画は、2010年代以降大きく変わっていく流れのまっただなかにあります。人事の専門家として時代の潮流を理解するために、私はMCUの作品を見ています。

エターナルズにおける「ダイバーシティ」

「エターナルズ」のストーリーを要約すれば、10人の超人スーパーヒーローチームが外敵から地球を守るために戦う話です。

原作が書かれた1970年代の時点ではメンバーはほぼ男性でしたが、映画「エターナルズ」では、(生物学上の)性別で見ると、男性5名、女性5名。人種的には白人の他に、アフリカンアメリカン、ヒスパニック系・アジア系、さらに子供やゲイや聾唖のメンバーも含まれています。

リーダーにはアジア系の女性が指名されています。これが今の時代の一つの空気であると受け止められます。メンバー内のある白人男性は、戦闘力は一番強い設定ながら、リーダーに指名されず鬱屈しています。ゲイの黒人男性は科学者で高い知性を持つ設定となっています。

監督自身は、多様性に富んだキャスティングや設定は押し付けられたものでなく自分自身で考えた、と表明しています[3]。このような設定となった背景として、制作会社側と監督がベースとして持っている考え方が、ポリティカル・コレクトネスです。

エターナルズ ポリティカル・コレクトネス

背景にある「ポリティカル・コレクトネス」とは

ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ・PCとも略される)とは、特定の集団(たとえば、男性/女性、人種、性的嗜好、宗教など)が、差別的に扱われない、脅かされないことをめざす運動です。狭義では「ことば」の見直し、広義では少数集団が排除されない「環境づくり」までを含みます。

「ことば」の問題として、セールスマンをセールスパーソンと言い換えたり、スチュワーデスがキャビンアテンダントと呼ばれるようになったりしたのはこの流れによるものです。セールスマン、と言ってしまえば、営業は男性の仕事であり、女性のものではないという排他的なニュアンスが含まれます。このように考えて使うことばを性別的に中立化していこうとする運動です。

加えて、先に述べた定義に立ち返れば、ポリティカル・コレクトネスとは、単に言葉の問題ではなく、性別による賃金格差や昇格差別の是正運動、あるいは都会と地方の格差の問題への取り組み、なども含まれるという点も意識してください。単なる言葉の問題と小さく捉えるのでは不十分です。

ポリティカル・コレクトネスは、特にどの集団を優遇する、下げるといった思想ではありません。しかし、欧米においては歴史的に白人男性が支配的であったため、現実的には白人男性の存在感を弱める方向に作用しているのが実情です。

MCUが過去10年で「多様性(ダイバーシティ)」の拡大を進めてきたのも、このポリティカル・コレクトネスの考え方と関係しています[4]2021年の「エターナルズ」は、MCUヒーロー映画が白人男性中心主義からの脱却してきた流れの現時点での到達点です。日本人のビジネスパーソンが、2020年代前半の今のポリコレについての空気感を知るためのよい「ものさし」となるでしょう。

「ポリティカル・コレクトネス」の潮流とそれへの批判

ポリティカル コレクトネスポリティカル・コレクトネスは、アメリカにおいて数十年前(1960〜70年代)から本格化している歴史の古い運動です。その後、ソーシャル・ネットワーキング・サービスの発展や保守的価値観を強調したトランプ大統領時代などをへて、現在では賛成派・反対派の意見対立が激化している状況です。一方で「エターナルズ」が制作された事実が象徴するように、エンターテイメント界やビジネス界は、基本的な流れとしてのポリティカル・コレクトネスを弱める様子はみえません[5]

意見対立、と紹介しましたが、この運動に対しては古くから反対意見も存在しています。たとえば、過剰な言葉狩りである、歴史と文化を軽視している、少数派の中でも考えは様々である(たとえば、私は女性であることで不利益を被ったことはない、とする女性も存在する)などの意見があります。

推進派・批判派どちらかが絶対的に正しいという問題ではありません。ただし、それぞれの論理を理解し、自分自身が一定の見識を持たないと、部下との人間関係が適切に築けない、あるいは、ビジネス上重要な判断を正しく行えないような場面は、これからの日本でも多くなると予想します。基本的なポリティカル・コレクトネス推進の潮流、と、それに対する批判、双方を理解することが、これからのビジネスリーダーには必要ではないでしょうか。

作品としての「エターナルズ」もまた少なからぬ批判に直面しました。次回はこの作品への反響を紹介しながら、世界の価値観の現状をさらに掘り下げます。

関連おすすめ作品

TVシリーズ「ザ・ボーイズ」(Amazon Prime Video)

スーパーヒーロー映画とそれにまつわる商業主義・虚飾を思いきり茶化すTVシリーズです。マーベル映画が教科書的な王道をいく「A面(表面)」だとすれば、こちらは「B面(裏面)」。製作者達は、ポリコレの推進側なのか否か、視聴者の理解力が試されます。ビジネスネタ・マーケティングネタなども多くビジネス系の方にお勧めですが、とにかく映像と話が過激。いわゆる18禁です。ご注意を。

<参考>
[1] 2021年に第93回のアカデミー賞監督賞受賞。しかし、エターナルズの監督への起用はその前に決定していました。
[2] 監督決定の経緯については、クロエ・ジャオありきではなく、他にも以外にも複数の候補がいたこと、また、クロエ・ジャオ本人がMCUのトップ(ケビン・ファイギ)に対して積極的にプレゼンテーションをして監督の座を獲得したことなどが報じられています。https://www.gamesradar.com/eternals-pitch-chloe-zhao-kevin-feige/
[3] 『エターナルズ』多様性に富んだキャスティングは「押し付けられていない」 ─ クロエ・ジャオ監督のこだわり、出演者が明かす https://theriver.jp/eternals-diversity-not-forced/
[4] ただし、単なる政治的な意図だけでなく、ビジネスとして映画の受容者である消費者の属性を拡大するために、主人公を多様化していった可能性も十分にあります。
[5] 一例として、米国アカデミー賞はノミネート作品の条件として多様性確保基準を2024年から新たに導入すると発表しています。

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