未来の食はパーソナライズ化に向かう#2 ~「地球」「体」「心」のバランスをとるための難所とは~

第1回ではDXにより解決できる食にまつわる社会課題の現状について取り上げました。そして、DXによって「地球」と「体」の健康と「心」の豊かさの3つのバランスを保った、未来の食のあるべき姿や消費者が体験できる一人一人にパーソナライズされた未来の具体的な食シーンと、サプライヤーサイド(食に関わる全て)の動きを紹介しました。今回は、このような食のパーソナライズ化された世界を実現するために、サプライヤーサイドに求められる「難所」を中心として解説します。

※本稿は、グロービス経営大学院教員の垣岡淳の指導のもと、多様な業種で構成された5人の社会人大学院生(福野、宇田、北川、小林、吉田)が調査・研究を行った結果に基づいています。

1.サプライヤーサイドに求められるもの

食のパーソナライズ化された姿における未来の食のワンシーンを前回紹介しました。「地球」と「体」の健康と「心」の3つのバランスを保ちながら、これを実現する上でのサプライヤーの動きを整理してみます。

①地球に優しく

消費者のそれぞれの生活拠点地域における食材の生産量や消費量を企業間でデータをもとに把握し、地域の資源を最大限活用します。これにより、注文された料理のレシピに従いながらも、地域全体での廃棄を最小限にするなど、環境を優先した形で調理を行います。

②体を快適に

一人一人の直近1週間の食生活のデータ、アレルギーなどの体質のデータ、さらには健康診断による最新の健康データをもとに、食材の選択や調理、味付けを行い、体を優先した食事を実現します。さらには個人の嗜好や最近の拘りなども踏まえた食事の提案を行います。

③心を豊かに

食事をするシーンや背景を汲み取りながら最適かつ楽しめる体験をコーディネートし、食事を楽しむ方法を提案しています。

サプライヤーにとっては消費者への理解はもちろんのこと、サプライヤー自身が扱うモノやバリューチェーンへの理解がこれまで以上に必要となります。前者においては食の好みだけでなく、体質や健康状態、その日の気分や1週間の食事内容など広範囲な情報をもとに理解を深める必要があります。また、後者においては1社で取得できる以上の膨大な情報が必要となります。各社が所有するデータを企業間ないし業界間で連携し、協調することで人と地球の健康を守り、心の豊かさの領域では競争力を高めていくことがポイントになると想像できます。

このために、大量生産大量消費型のマス・カスタマイゼーションが残りながらも、食業界のバリューチェーンのあり方といった業界構造、組織や業務プロセス、ビジネスモデルのような既存の仕組み、業界・企業の側にも、変革が求められることが考えられます。さらに、消費者の協力も必要不可欠であり、参加型で食の体験の恩恵が受けられることで、消費者とともに好循環かつ効率的なデータとモノの流れを構築し、消費者とサプライヤーサイドの行動をともに引き出す必要があります。

 図1 サプライヤーサイドに求められる変化(筆者作成)

2.未来の食のパーソナライズ化に向けた難所

未来の食のパーソナライズ化に向けて、取得するデータの見極めと拡大に加え、データを取得してから消費者に価値提供するまでのプロセス、活用する出口、さらには価値提供による行動変容まで、それぞれをアップデートする必要があります。中でも特に難所となると考えられるのが、次の4つの観点です。

 図2 未来の食のパーソナライズ化に向けた難所(筆者作成)

①データ取得

1つ目のデータ取得の領域では、健康・行動・嗜好の個人データに加え、サプライヤーサイドの材料、商品、レシピなど広範囲にデータが必要となります。また、一人一人に寄り添ったパーソナライズのために個人データを時間軸で取得し、トレースできる形で蓄積することやサプライヤーサイドも含めたリアルタイムな情報も必要になります。

②外部連携

2つ目の外部連携の領域では、前述の各データは1社のみや食業界のプレイヤーだけでは取得が難しいものもあり、企業間または業界間でデータ連携するための協調が重要となります。一方で、競争している企業同士からデータを集めることは利益相反になり、インセンティブがないことが一番の難所と私たちは考えています。

③データ分析・加工

3つ目のデータ分析・加工の領域では、インサイトの理解や嗜好の傾向から予測する好みの提案、そしてリアルタイムに心理や状況、シチュエーションを捉えた分析がポイントになると考えています。この領域はデータを活用した消費者サービスの創造の領域であり、競争領域になると考えます。

④行動変容

最後の行動変容の領域は、環境に良い、体に良い、便利とわかっても使用してくれない状況です。そのため消費者への啓蒙(プロモーション、ルール導入、インセンティブ)を行うことで、顧客体験につなげていけるよう企業だけでなく、他業界、行政も含めて協調していく必要があります。この好循環なループを構築し、回すことで、消費者も企業も地球もより良い方向へと進むと考えています。

私たちの考える未来の食のパーソナライズ化の実現に向けて、1企業単独の努力だけでは限界が想定される「外部連携」、そして提供する価値をもとに消費者の「行動変容」を引き出す部分が大きな難所になると捉えています。次回以降、この2つの難所をどのように乗り越えるかに焦点を当て研究に取り組んでいきます。

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