探求:TDKの技術経営 vol.5 コアは何か、開発テーマの創出法

近年グローバル企業として急成長しているTDK。シリーズ「探求:TDKの技術経営」ではここまで、グローバルでの研究開発を進めるうえで重要となる社是の役割や、ベンチャー精神の意義などについてTDKの松岡大 執行役員(前:技術・知財本部長、現:Chief Officer of Quality, Safety and Environment)にお話しを伺ってきました。前回のvol.4「技術と事業の『目利き力』の磨き方」では、人的ネットワークの必要性についても触れていただきました。最終回では、TDKが開発テーマをどのように創出しているのか、グロービス経営大学院教員の金子浩明が松岡執行役員にインタビューをします。(全5回の最終回)

ボトムアップとトップダウン

金子:前回は、他社との交流を通じて若手主体でアイディアソン的な取り組みをされているという話を伺いました。これはテーマ創出のひとつの手法だと思いますが、TDKでは新たに研究テーマを決める際、どのように決めているのでしょうか。

松岡:テーマの決め方は2つあります。ボトムアップとトップダウンです。トップダウンは、社外の方々とお会いしている中で私が「やったほうがいい」と思うテーマを提示するやり方です。ボトムアップは若手の人たちから、やりたいことを提案してもらう方法です。そうして出てきたテーマは、ステージゲート方式(研究開発の推進・中止を段階的に判断する手法)に乗せます。途中でプロジェクトが中止になり、つらい思いをする人もいますが、頭ごなしに否定することはしません。基本的にはFS(フィジビリティ・スタディ:実行可能性の調査)まではやります。だって、わからないですからね。

金子:FSを進めるうえでのルールのようなものはありますか?

松岡:1年なら1年という期限を区切っています。1年で何か見えてくることもありますし、見えないときもあります。キラッと光る何か、「これは将来いけそうだね」があれば、形を少し変えてテーマ化する場合もあります。このあたりはフレキシブルにやっているのが正直なところです。経営トップからすれば、「これでいくら儲かるのか?」ということが重要ですが、幸いにして当社は、ビジネスの判断に乗せる前の少人数でのFSが認められています。極端にいえば一人でFSをやることも可能です。

金子:一人でFSをやるとなると、相応の経験や実力が求められます。

松岡:この人だったら、何かやっていても文句を言われないというのはあります。そういうカルチャーです。自由度が大きいと思います。

金子:ボトムアップ提案は、どこからアイディアを持ってくるのでしょうか。技術シーズを起点として、テーマを起案するなど、いろいろなやり方があると思いますが。

松岡:新事業創造研修のようなことをしたときは、社会課題から入ろうとする人もいました。実際には、技術シーズと社会課題の両方です。割合としては、技術シーズ起点が多いと思います。コア・コンピタンスが生かせていないものは、難しいと思います。あまりにも突飛なものを世の中にリリースしたところで、誰も受け入れてくれないですよね。たいていは、既に世の中に存在しているものに、ちょっとだけ味付けするようなものが売れるんです。売れることが成功だとすれば、やり方としては味付けの変化で勝負するのが無難です。

ベンチャー投資で広がる世界

金子:ニーズ起点の意識は持ちつつ、幅広い世の中のニーズからテーマのアイディアを持ってこようとすると、何を見ていいのか分からなくなるのではないか、という気がします。

松岡:例えは悪いかもしれないですけど、武器をたくさん持っているほうが勝つんですよ。最後は。だから、やはり自分が強いところで勝負しないと競争に勝てないです。それは間違いないと思います。

金子:ボトムアップではなくトップダウンでテーマを決める場合は、どのように現場と連携させるのでしょうか?  例えば「大口顧客がこれを望んでいる」という話があれば、事業部側で「ぜひやるべきだ」という話になりますが。

松岡:当社ではコーポレート・ベンチャーキャピタルの部門があります。我々の長期の戦略に則った形で、様々な世界のベンチャー企業を調べる部門です。そうするとベンチャーが、例えば量産技術が足りないなどのニーズを持っていることがわかります。そういう課題を把握しているので、いざ当社とマッチングすることになった際に、私から研究員に対して「ちょっとお前(課題解決を)やってくれないか」と、ポロッと話したりもします。

トップダウンと言うよりは、ベンチャー企業とつなぐといった感じかもしれないですけど、両社にとってwin-winになるわけです。ベンチャーにとっては投資をしてもらえる上に製造技術も含めてサポートしてもらえる。ハッピーなんですよね。

金子:社内でゼロからベンチャー的な事業を生み出すよりは、効率的ですね。

松岡:私の夢として、新たなベンチャー企業を創出したいというのがあります。何人かにスピンオフを勧めていますが、「まだちょっと早い」ということで、実現していません。あと2年ぐらいしたら、何とか実現するのではないかと期待しています。

金子:それは面白いですね。ベンチャー企業を買収するだけではなくて、社員がベンチャーとの仕事を通じて外に出ていく、そうやってTDK発のベンチャーが出てくるようになる。実現すれば、ベンチャースピリッツを持った人が入ってくるようになりますね。

松岡:当然ですが、そこには会社は出資します。本当に上手くいったら、さらに出資をする。

金子:競合企業と業界内で同質化競争に陥らないためには、企業の個性の違いを生かした経営が重要だと思います。そのためには、社是、社訓を伝えていくことが必要ということですね。

松岡:ベンチャースピリッツは、会社に入る前の影響が大きいと感じます。私は幸運にも、事業を創ってきたキーパーソンたちを知っています。私ができることは、ハングリーな時代に育っていない若い社員たちの心に少しでも火をつけるために、創業時の理念を伝えていくことだと思っています。

第5回のポイント
●ボトムアップのテーマは、やる前から否定せず、FSまではやらせてみる
●トップダウン型のテーマには、コーポレート・ベンチャーキャピタルを通じて探してきた、ベンチャー企業との協業の話もある
●その仕事を若手に任せることで、TDK発のベンチャーが生まれることに期待

金子:今回のインタビューを通じて、TDKが創業時からベンチャー精神を大切にしており、それが今も息づいていることが理解できました。そのために社是、社訓の伝承が重要であり、事業を創るのは「人」だということも分かりました。全5回にわたり貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

取材協力:池田 恒一郎(TDK株式会社)、文・編集:金子 浩明(グロービス)

 

※シリーズ「探求:TDKの技術経営」の過去の記事はこちらです。

vol.1 研究開発部門のグローバル戦略とは

vol.2 生き続ける「社是」の役割

vol.3 新事業創出の困難とベンチャースピリッツ

vol.4 技術と事業の「目利き力」の磨き方

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