松嶋啓介×伊藤羊一(1)新しいコンセプトを作るにはカオスが必要 

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活躍中のリーダーたちにリーダーとして目覚めた瞬間を問い、リーダーシップの出現メカニズムを解き明かす本連載。第14回は、フランス・ニースと東京・神宮前にレストランを開き、両国でミシュラン1つ星を獲得するなどして活躍、さらに地産地消や食を通じた文化の継承にも精力的に取り組んでいる松嶋啓介さんにお話を伺いました。(文: 荻島央江)

<プロフィール>
KEISUKE MATSUSHIMA オーナーシェフ 松嶋啓介氏
1977年福岡県生まれ。小学生の頃から料理人を夢見る。高校卒業後、専門学校「エコール 辻 東京」で仏料理の基礎を学ぶ。20歳で渡仏。各地で修業を重ねた後、25歳の誕生日に、ニースに「Restaurant Kei’s Passion」(現在の「KEISUKE MATSUSHIMA」)を開く。オープン3年目に『ミシュラン06年版』で一つ星を獲得。外国人シェフとしては最年少。2009年、東京・渋谷に「KEISUKE MATSUSHIMA」をオープン。2010年、フランス政府から日本人シェフで初めて「フランス芸術文化勲章」を授与された。

「コンセプト」「ディテール」「ロジック」の3角形

今日は、南仏の代表的な料理、野菜の煮込み「ラタトゥイユ」を作りながら、僕が日ごろ考えていることなどをお話したいと思います。

僕は、ほとんどの事柄が「コンセプト」「ディテール」「ロジック」の3つで説明できると思っています。ラタトゥイユに当てはめるなら、コンセプトは「食材」であり、「食材の組み合わせ」。ナスとパプリカとズッキーニ、タマネギとトマト、ニンニク、タイムを使います。

ラタトゥイユは夏の食べ物です。それは、夏に収穫される野菜で作るから。(ラタトゥイユで使う野菜が)今は1年中取れるようになりましたけど。長年、受け継がれてきたレシピはすべて、その土地の喜びであり、その土地に生きる人たちのノウハウなのです。

だけど、最近インターネットでラタトゥイユを調べると、材料にニンジンやコンソメスープと書いてあるレシピがある。それは、ラタトゥイユではなく、ラタトゥイユ風。レシピが間違って伝わると、どうなるか。それこそ日韓のような歴史認識問題に発展するわけです。コンセプトが崩れると、どれだけ危険かを、料理を作る人も食べる人も理解しないとまずい。

ディテールは「調理の技術」「食材のこだわり」。どこ産のナスとかですね。ロジックは「おいしくなる理由」です。おいしくなる理由は2つあります。

1つ目が、「うま味」です。うま味は、人間が舌の上で感じる5つの基本味のうちの1つ。長い間、基本味は甘味、苦味、酸味、塩味の4つでした。うま味が、これに続く基本味として国際的に認められたのは1990年代と、わりと最近のこと。日本人研究者が発見したので、アルファベットで「umami」。それが世界の共通言語になっています。

ラタトゥイユで使うニンニク、タマネギ、トマトには、うま味成分であるグルタミン酸がたくさん含まれています。これが料理をおいしくする。しかも、うま味が何種類も足し算されていると、掛け算されて、味がどんどん膨らんでいきます。

うま味は植物性、動物性を問わず、いろいろな食材に含まれています。野菜のほか、保存食にも多く含まれています。日本だとかつおぶしや昆布、ヨーロッパならベーコンやアンチョビなどがそうです。

人間はうま味に服従しているんですよ。人間が最初に口にするものは何だかわかりますか?

母乳です。母乳には、うま味成分のグルタミン酸がたくさん含まれているんですよ。人間は、そのグルタミン酸を摂って大きくなっていく。母乳を飲むと、赤ちゃんはおなかがいっぱいになって泣き止みますよね。正確には、おなかがいっぱいになったから泣き止んでいるのではなくて、グルタミン酸を摂るから泣き止むのです。グルタミン酸は、お母さんの羊水にも入っていますから、きっと落ち着くのでしょう。どうですか? 人間はうま味に服従していると思いませんか。

うま味の説明が長くなってしまいましたが、おいしさを増すもう1つの理由は、「薬味」です。食材には、いろいろな効用を与えてくれる薬味があります。例えば、赤パプリカなら疲労回復に効果あり、といったようです。おいしい料理には、必ずと言っていいほど、うま味と薬味が含まれていますよ。これさえ押さえておけば、おいしい料理が作れます。

ディテールからアプローチ


なぜ僕がヨーロッパで認めてもらえたのか。答えはディテールにあります。

フランス語で料理人を「キュイジニエ」と言います。キュイジニエは「キュイッソン(火入れ)」と「メトリゼ(マイスター、調整する)」という言葉を組み合わせた言葉で、すなわち火を調整できる人を指します。ヨーロッパは日本と違い、食材を加熱して食べることが多かった。加熱により味を加えたり、素材の味を引き出したりすることが、料理人の役目だったというわけです。

フランス料理が火入れにこだわる一方で、日本の料理人は切ることを大事にします。だからよく包丁を研いでいますよね。実際、例えば刺身などは切る角度や厚さを違えると、醤油の付く量や口への入り方が変わり、味や歯ごたえが変わります。

南仏ならではの気候、風土があってラタトゥイユが生まれた。そこに日本人のフィルターを通したらどうだろうと考えた。そこで僕はラタトゥイユのコンセプトとロジックはそのままで、食材の切り方、厚さなどを変えることでディテールをイノベーションさせました。

本来ラタトゥイユは、2、3センチ角に切った食材を鍋に入れ、少し炒めたらふたをして、オーブンに入れたら、はい終了。煮るというか、蒸し煮にするだけ。今日、僕が作るラタトゥイユは「切る」「炒める」「煮合わせる」という作業があり、単に煮るだけじゃない。

僕はこう変えました。野菜はすべて、炒め終わったときに大体同じくらいの長さ、厚さになるように薄く細かく切り、食材ごとに炒めます。

なぜ別々に炒めるのかと言えば、それぞれに必要とされる時間が違うからです。すぐに火が入るものもあれば、火が入りにくいものもある。固さや糖度も違う。一緒に入れると、ある素材は火が十分に通っておらず、別の素材は炒めすぎで味が抜けてしまいます。

普通ラタトゥイユは素材がクタクタになりますが、別々に炒めるこのラタトゥイユの作り方だと成分が逃げず、シャキシャキとした食感が残ります。あえて薄く切っているのは、食感を楽しむためなのです。

最後に、すべての食材を一緒に煮合わせていきます。こうして一つひとつの素材に向き合って、それぞれの特徴を生かしながら味をつくっていくと、ラタトゥイユ味ではなく、ズッキーニの味もすれば、ナスの味、パプリカの味もする。くさみは取れ、素材本来の持つ甘みが引き出される。それぞれの味が際立ちながら、まとまりのある個性派集団になるのです。

ここまで丁寧にしなくても、適当に切って放り込でしまえば、ラタトゥイユは作れますが、単なるラタトゥイユ味にすぎない。僕は1つのメニューでいろいろな味を味わってほしい。

我が家では、夏になると週に一度の割合で、ラタトゥイユが食卓に上がります。休日は、子供と市場に食材を買いに出掛け、一緒に作ることもあります。丁寧に作っている分、これだけで大満足。あとはパンとロゼワインがあればいい。

コンセプトを生み出すにはカオスが必要


コンセプト、ディテール、ロジックの考え方は、新しいものを生み出すとき、進化させるとき、再編するときに使えると思います。

僕の作るラタトゥイユは、食材の組み合わせというコンセプト、うま味と薬味の組み合わせというロジックは保たれながら、イノベーションがなされている。イノベーションを目指すなら、この2つを変えては絶対に駄目。

僕が前にラタトゥイユを振る舞ったら、勝手にカレーを入れて「おいしかった」と言っていたやつがいたんだけど(笑)。確かにやってみると、これがうまい。ただ、本来守るべきコンセプト(=食材)が変わってしまっているから、イノベーションとは言えない。新しいコンセプトをクリエーションした、というのが適当かもしれません。

僕自身はイノベーションを、ちょっとしたディテールの進化と捉えています。例えば、iPhone6から6sへの変化がそれに当たります。

最近、日本で「イノベーターを育てる」とさかんに言われていますけど、本当の言葉の意味を分かっていない人が多い気がします。

クリエーターとイノベーターとリノベーターでは立場も役割も全く違う。クリエーターは0から1を生み出す人、イノベーターは1から3、リノベーターは3から4に行けずに悩んでいる人たちに対して、一度0を見せることで、一気に5へ持っていく人です。

新しいコンセプトを考えるのにはカオスが必要です。これがないと新しいコンセプトは生まれない。日本には多様性がないし、カオスにもなってない。企業の場合なら、組織の垣根などをなくして、カオスをつくることが必要なのかもしれませんね。

※後編は6/22に公開予定です

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