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松嶋啓介×伊藤羊一(2)コンセプト×ロジック×ディテールで戦略を読む

投稿日:2017/06/22更新日:2019/04/09

リーダーシップの出現メカニズムを解き明かす本連載。前回は料理人・松嶋啓介さんに、ラタトゥイユを作りながら料理の背景にある3つの軸とビジネスとの関係について語っていただきました。後編は、なぜこうした軸に気付くことができたのか、それをどうやって仕事に活かしているのか、語っていただきました。(文: 荻島央江)

<プロフィール>
KEISUKE MATSUSHIMA オーナーシェフ 松嶋啓介氏
1977年福岡県生まれ。小学生の頃から料理人を夢見る。高校卒業後、専門学校「エコール 辻 東京」で仏料理の基礎を学ぶ。20歳で渡仏。各地で修業を重ねた後、25歳の誕生日に、ニースに「Restaurant Kei’s Passion」(現在の「KEISUKE MATSUSHIMA」)を開く。オープン3年目に『ミシュラン06年版』で一つ星を獲得。外国人シェフとしては最年少。2009年、東京・渋谷に「KEISUKE MATSUSHIMA」をオープン。2010年、フランス政府から日本人シェフで初めて「フランス芸術文化勲章」を授与された。

オリジナリティとは、オリジンに戻ること

伊藤: 前回お話しいただいた「コンセプト」「ディテール」「ロジック」の3角形は、松嶋さんオリジナルの考え方ですよね?

松嶋: そうです。経験を積んでいく中で固まりましたが、きっかけは、ニースに「Restaurant Kei’s Passion」を出したことです。

オープンして最初の1年間は、今まで修行してきた店の料理を提供しましたが、2年目からはオリジナルメニューをそろえました。当時は、常に新しい料理、新しい料理を出し続け、クリエーションばかりしていた。ただ、どこかに違和感があったんですよね。

伊藤: クリエーションばかりしている自分が何か違うなと。

松嶋: 「シェフの創造力があふれる料理」といったフレーズが心地よく、「俺ってかっこいいな」と思っていた。松嶋啓介という料理人のクリエーションはこれだ、と。でも、それは個人的なエゴでつくったもの。このままじゃ駄目だなと。

その頃、料理人として調子に乗っていたんですよ。僕は(成功するのが)早かった。24歳で店を出して、28歳で(ミシュランの)星を取りましたから。ブイブイ言わせていました。

伊藤: それでどうされたのですか。

松嶋: ニースの歴史を掘り下げようと、車で移動しながらローマやアテネに行きました。

伊藤: どうしてまた、ニースの歴史を掘り下げようと思われたのですか。

松嶋: 同じ福岡県出身で、スペイン・バルセロナにあるサグラダ・ファミリアの主任彫刻家を務める外尾悦郎さんの影響です。外尾さんとは星を取って1、2年目くらいに人の紹介で知り合い、今は家族のような付き合いをさせてもらっています。

サグラダ・ファミリアをつくったガウディは「オリジナリティとは、オリジンに戻ること」という言葉を遺しているそうで、外尾さんに「独創的なものをつくりたいなら起源を見なさい」と言われたことが大きいですね。

それ以後、何かを始めるときはいつもオリジンを調べます。オリジンにさかのぼると、イノベーションがしやすくなります。

伊藤: なるほど。それで、ニースのオリジンはどのように見つけられたのですか。

松嶋: 昔からニースはパッサージュ、人が集まるところで、みんなここに癒やされに来ていることが分かった。では「癒やされる料理とは何か」と掘り下げて、今のような味にたどり着きました。

要は、日本人らしいディテールへのこだわりを発揮して、自然の力を引き出すような料理をつくる。今の時代、簡単、時短な料理が多いけど、もう一度、原点にかえってやさしさを伝えることが、僕の仕事かもしれないと。

それまではどちらかといったら、食材に働きかけるのではなく、ねじ伏せていましたね。

企業の戦略を読み解く

伊藤: 「コンセプト」「ディテール」「ロジック」は、どういう順番で考えるのが正しいと考えられますか?私は、なんとなくコンセプト→ロジック→ディテールという順番で考えてしまいそうなのですが。

松嶋: コンセプト、ディテール、ロジックの順です。これでさまざまな企業の戦略が読み解けるんですよ。これが面白い。

僕が、ネスレ日本の「ネスカフェ レギュラーソリュブルコーヒー」のCMに出ているのを知っていますか。あのCMに出たときに、CEOの高岡(浩三)さんと話す機会があって、いろいろなことが分かった。まさにネスレはコンセプト、ディテール、ロジックの3段階で、消費者とコミュニケーションをとっていたんです。

第1段階、ソリュブルコーヒーを発売したときは、コンセプトのコミュニケーション。コンセプト(concept)を分解すると、con(共有)とcept(キャッチする)。だから、新しいコンセプトを掲げるときは必ず、多くの人が共通して理解できるキャッチなものをつくらないといけません。

そこで「ネスレのインスタントコーヒーが生まれ変わり、ソリュブリュコーヒーになりました」というCMを全国に流した。

第2段階は、ディテールのコミュニケーション。豆のこだわりや、私たちは豆をこうして作りました、豆をこう挽きましたと訴えかける。そこを補強するためにバリスタを登場させ、「このソリュブリュコーヒーの香りは素晴らしい」と語ってもらった。こうして商品の価値を伝えていったわけです。

第3段階、ロジックのコミュニケーションが、僕らが出演したCMです。僕と「ラ・ベットラ」の落合務さん、「菊乃井」の村田吉弘さんの3人が登場して、「うちのお店でも使っています」という。

まずコンセプトを理解したら、ディテールを攻める。ディテールをずっと攻めていると、ロジックに出合える。物事を伝えていくのも、理解をしていくのも、この順番なのでしょう。

だから組織や人を動かそうと思ったら、トップはまずコンセプトを言い続け、隅々まで浸透させないと駄目だと思う。僕自身もずっとコンセプトを言っている。なかなか分かってもらえないというのが、僕の経営者としての最近の悩みです(笑)。

人はロジックで動かない

松嶋: 愛情にも友情にも「情」とあるように、人間関係は情けです。やっぱりこれがないと駄目。僕は自力で何でもやるし、ロジカルに物事を考えられるほう。いつも自分の物差しでものを考え、ロジックで人を動かそうとしていました。「こうやったほうがいいよ」「このほうが簡単だから」って。

でも、スタッフは必ずしもそうしてほしいわけじゃない。今はスタッフへの接し方を少し変えました。見守ってあげて、教えてあげないことには、人も会社も成長しないってことに気付いたのです。

例えば、スタッフからメニュー提案をしてもらっています。僕のほうでアレンジもしますが、自分のアイデアが生かされたとなればうれしいし、やる気も断然違う。その料理を一生懸命作り続けてくれます。

僕自身、今は情けない男ではなく、情けのある男になりました(笑)。

伊藤: 松嶋さんはこれから、どんな方向に向かわれるのですか。

松嶋: これまでの経験や自分なりの気づきが何かの役に立つなら、今日のように多くの人にシェアしていきたいと思っています。そのために大学をつくろうかなと今、考えているところです。

あと個人的には世界中にレストランをつくって、お客さんにおいしいものを食べてもらって、人を気持ちよくさせて、スパイのようにいい話を聞き出す人生にしたい。僕が次に店を出したいのは、ジュネーブとロンドンとシリコンバレーと上海。上海はもう具体的に動いています。

レストランって本当に面白い。へたに会社をつくって勝負するより、そのほうが手っ取り早そう。人脈もつくれますから。フランスのことなら、日本の政治家よりずっと詳しいですよ。

<インタビュー後記>

松嶋啓介は、やんちゃ坊主です。 

ラタトゥイユを作りながら「料理はね、材料が大事なんですよ」と言って、いたずら坊主のように、ニコッと顔で合図を送ってきます。料理を食べ終わると、「どうだい?」って顔をしてきます。突然ニースから、メッセンジャーで何の説明もなしに「いいから読めよ」という感じでWEBの記事が送られてきます。それがみな、素敵な記事なんです。 やんちゃ坊主がそのまんま大人になった感じです。 いや、大人になっていないのかな。 

その啓介さんが語った、「コンセプト、ディテール、ロジック」。これを聞いたとき、私は、背中に強い電流が走るくらいの衝撃を受けました。最初は「コンセプト、ロジック、ディテール」という順番なのでは、と思ったんです。 ですが、「いや違うんだ、コンセプト、ディテール、ロジックなんだ」ということで、具体的な説明をしていただいたのですが、まさにその通りだなと。現場で自分自身はどうやっているか思い起こすと、その順番で考えるのがものすごく説得力あるし、確かにいろんな戦略がこれで語れます。コンセプトとディテールという両極を極めて、その間をロジックでつなぐということですね。 

そして、クリエーション、イノベーション、リノベーション、こういう言葉の意味を正しく理解して使おうよと。その通りですよね。啓介さんは、常に「そもそも」に立ち返って話をされます。そもそもに立ち返るから、それぞれ何が違って、何が必要なのか見えてくるわけです。 

「世界中にレストランをつくって、お客さんにおいしいものを食べてもらって、人を気持ちよくさせて、スパイのようにいい話を聞き出す人生」って、考えただけで面白すぎます。さすがやんちゃ坊主だなと。でも戦略的だなと。

本当に魅力的なLeader(=導く人)です。こういう活動を、様々な場所でされていらっしゃるので、ぜひ、生の啓介さんに触れてみてください。普段はニースにいらっしゃるのですが、時々、日本に帰ってらっしゃいます。

啓介さん、ありがとうございました。 

<KEISUKE MATSUSHIMA> 
http://keisukematsushima.tokyo

前編はこちら>>

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