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今村久美×伊藤羊一(1)自信がなかった私の高校生活がカタリバの原点

投稿日:2017/02/03更新日:2021/10/08


活躍中のリーダーたちにリーダーとして目覚めた瞬間を問い、リーダーシップの出現メカニズムを解き明かす本連載。第12回は、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」や、10代の子どもたちの日常に寄り添い、やる気を育む「サードプレイス」の運営など、ナナメの関係と対話を軸とした教育活動を行うNPOカタリバの今村久美氏にお話を伺いました。(文: 荻島央江)

<プロフィール>
認定NPO法人カタリバ 代表理事 今村久美氏
1979年生まれ。慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は被災した子どもたちに学びの場と居場所を提供する「コラボ・スクール」を運営するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。ハタチ基金 代表理事。2015年より、文部科学省中央教育審議会 教育課程企画特別部会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員会委員。

対話とナナメの関係

伊藤: まずカタリバの活動内容について教えてください。

今村: カタリバは、どんな環境に生まれ育っても未来は自分でつくりだせると信じられる社会を目指して、日本中の思春期世代がナナメの人間関係と本音で語り合える対話の場を手にすることができるよう活動しています。

学校の先生とも親御さんともあまり話をしなくなる思春期の子たちが、多様な大人に出会い、対話を通じて「この人たちみたいになりないな」と思う。そんな機会が、彼らの内発性を刺激するのではないかと考えています。

伊藤: 「対話」と「ナナメの人間関係」がポイントというわけですね。タテでもヨコでもなく、ナナメの関係に着目したのがすごい。

今村:タテとヨコの関係は、とても重要です。でも、もっとゆるやかな関係性でつながった人が自分を導いてくれることだってある。今の日本はそうした余白のような存在に出会うチャンスがどんどんなくなってきているように感じます。

特に思春期の子たちの中には、可処分時間の多くを過ごす学校で居場所が見つけられず、苦しんでいる子も少なくありません。この時期ならではの「あの人よりも自分はこんなところができてない」とか「あの人はモテるのに、自分はモテない」といったラベルを自分で自分に貼って苦しんでいる。それが友達というヨコの関係の中で助長されていることが多い。

そんなときに「悩まなくても大丈夫だよ。君だけじゃないよ」と、自分を俯瞰して見えるような視点で見方を広げてくれる人がいたら、彼らはもっと自由になれるはず。そうした気づきは、人間関係にまつわる悩みも乗り越えていける力になるんじゃないかと思うんです。

友達同士の関係は、人格を形成していくうえで大切で欠かせないもの。競い合ったり、自分と比べ勉強ができる子や上手にリーダーシップを発揮している子がいたりして、確かにストレスはかかりますが、その分、自分の成長意欲がかき立てられるし、何より楽しい。

でも、それだけではしんどいから、ふわっとした余白をナナメで支え合うという部分が裏のシステムとして動くのがいいと思うんです。

伊藤: 親や先生ではなくて?

今村: 親や先生は子どもたちの一番の理解者であり、応援者です。でも、子どもの立場からすれば自分の変化を一番知られたくない存在でもあります。とくに思春期の世代は、体の変化や性的な欲求の芽生えなど、親には知られたくないことが増えてくる時期です。評価者という立場にある先生にも、自分でも戸惑うような心身の変化を知られたくないと思うのは素直な気持ちです。子どもたち自身が隠そう隠そうとしているのですから、親や先生は理解したくてもできない状態になってしまう。そんなデリケートな時期だからこそ、親や先生のように利害関係がなく、ゆるいつながりの中で関わることができるナナメの関係がいいんじゃないかなと。

伊藤: 友達や親、先生は必要だけど、ナナメの関係もあるといい。

今村: それも例えば同じ高校のちょっと上の先輩というより、異なるコミュニティーとルール体系の中で生きている人との関わり合いがいいと思っています。高校生同士だとあまり変わりがないけど、高校生と大学生、大学生と社会人だと全く世界が違いますよね。

伊藤: ルールが違うことが重要なんですね。

今村: 重要だと思います。でも年齢は近いほうがいい。高校を訪問するときは、大学生や社会人でも若手の人を連れていきます。そのほうが相手も努力の過程にあることが分かりやすく、本音の対話がしやすい。大人になると、甘えているんじゃないよ」と説教をしがちなので。

どうしたら心をわしづかみにできるか

今村: 私たちはナナメの関係として、学校を訪問するボランティアたちを「キャスト」と呼んでいます。これまでに全国約1300の高校、約22万人の高校生に「カタリ場」を提供してきました。最近は学校に働きかけるだけでなく、学校の外にサードプレイスをつくるという活動もしています。ここ数年、自治体による10代の子たちのためのサードプレイス事業が増えていて、私たちも文京区や足立区、東北・熊本の被災地と島根で、ナナメの関係の人と日常的に出会えるような場所をつくっています。

伊藤: 今さらですが、語るからカタリバというネーミングなんですよね。

今村: そうです。しゃべるというより、本音で一歩踏み込んだところを語る。

伊藤: 本音で対話するのって、ハードルが高い。特に高校生だと心を開いてもらうのは難しいのではないですか。

今村: 難しいと思います。できるだけ年の近い先輩の力を借りるのはそのためです。人って自分との共通点を見つけると、「私もそう思っていました」と言葉にしやすい。思春期の子たちに自分の気持ちをさらけ出してもらうには、「自分にはこんなことがあった。苦しいけど頑張っているんだよ」と、ちょっと年上の先輩がまず胸襟を開くこと。そこから対話が始まるのかなと思います。

伊藤: キャストの人たちも大変ですね。

今村: 高校生たちは結構辛辣なので、商品プレゼンみたいなノリで話してきたら、「なんだ、この人は。何を言っているか分からない」みたいな感じで終わってしまう。せっかくの機会が生かされずもったいないので、高校生の気持ちをわしづかみにするような言葉を語れるように、事前にトレーニングを受けてもらっています。これは「キャストラーニング」と呼ぶもので、研修プログラムとして企業にも販売しています。

ここではプレゼンテーションの指導をしているわけではありません。まず自分には今までどんな原体験があったのか、モチベーションの源泉みたいなものを確認していきます。そのうえで自分の人生にとっての転機、自分のイケていなかった時間はどうだったのかを言語化し、1つのストーリーにまとめていく。最終的には15分くらいの紙芝居にします。

伊藤: 中高生だけではなく、キャストにとっても学びになりそうですね。今村さんは大学在学中の2001年にカタリバを立ち上げています。そもそも「これだな」と思ったきっかけは。

今村: 私自身、自分に自信がない高校生活を過ごしていました。勉強はさほどできないし、足も遅い。いかに中間を維持するかということに明け暮れた高校生活でした。誰もが持っている、「私だって変わりたい」という気持ちを抑えて、周囲の目ばかり気にしていましたね。

そんな環境を出たくて大学に進学しました。幸い、とても自由で多様性があるキャンパスで、私は羽が生えたように新しい生活を謳歌した。高校時代の同級生たちも私と同じように、様々な不自由さから解き放たれているのかと思ったらそうではなかった。多くの人が「大学生活はつまらない」と言っていて、それが衝撃でした。

一部の持てる者が持ち続ける世の中ではないですが、私は自分がとても恵まれた環境にあることに無自覚でした。一部の人たちはよりイノベーティブになることに邁進しているのに、多くの人は「毎日つまらない」と思いながら生活をしている。このギャップに泣けてきた。それが二十歳の出来事でした。

それもあって大学3年、4年は悶々と過ごしました。4年生になって、2つのコミュニティーの行き来を許してもらえた立場の私が知っているこの感覚を形にしていきたいと考えるようになりました。もっと自分を好きでいいとか、自分が楽しいと思えることに熱中していい、そうして自分を高めていくことはすごく楽しい、と当たり前に思えるような仕事をしたいと漠然と思ったんです。

伊藤: それに気付いて、さらに行動できるのはすごい。何かに突き動かされる感じなのですか。

今村: 私は就職氷河期世代なのですが、時代の流れに後押しされた感もあります。いい大学に入って、いい会社に入れば幸せになれるのかと思っていたけど、割に合わない人生を背負わされそうなこの状況って何だろうって。そんなふうで就職活動に集中できなかったというのもありました。

親友の1人がテレビ局、もう1人がリクルートに内定して、後輩は口々に「先輩、すごいですね」と言っていた。一方で、「久美さんは?」と聞かれたので、「NPOをやろうと思っている」と答えたら、以後、その話題に触れられなくなり、つらかったですね。

伊藤: でも思いがあるから。

今村: そんなかっこいいものじゃありません。4月1日は最悪でした。みんなは入社式なのに、私1人だけベッドの中。情けない気持ちでいっぱいでした。

設立以後もバイトをしていた

伊藤: いつぐらいに自分がイメージしていた形になったのですか。

今村: 最近になってやっと思っていた仕事ができるようになってきているかなという感覚です。広く日本中の思春期世代に、ナナメの人間関係と本音で語り合える対話を届けるためには、学校の学習カリキュラムに取り入れてもらうことが一番だと考えました。だから最初に高校へアプローチをしたのですが、全くうまくいきませんでした。

カタリバという以前に、まずNPO法人とは何かから説明しなきゃいけなかった。ご存じのようにNPOは1998年に始まった法人格ですが、広く認知されてたのは東日本大震災以降だと思います。当初は全くアポイントが取れませんでした。教員免許を持っていない人が学校で生徒に接するなんて、誰も想像すらしていなかった頃のでしたから。「好きでたまらないことをやっている人を出会わせることが、生徒たちの動機を突き動かします」などと熱っぽく話しましたが、全く伝わりませんでしたね。

初めて受注したのは、活動を始めて2年後ぐらい。ある高校の先生から電話がかかってきて、「生徒のやる気を引き出すことをやりたい。カタリバさんに託してみたい」と言ってもらったときは本当にうれしかった。ただその後も受注は年1校程度しかなかったので、ずっとバイトを続けていたんですよ。

伊藤: 僕は今村さんに初めて会ったのは2009年くらいかな。その頃はもうカタリバって有名でしたよね。

今村: それは私たち自身の力で有名になったわけじゃありません。当時、ソーシャルビジネスという言葉が流行り、“いまどき変わった若者”として、それこそ『TIME』の表紙とか数多くのメディアで取り上げられたからです。「まだ何の実績もないけど、取り上げてもらわないと次にいけない」みたいな葛藤があって、まあ大変でした。

伊藤: 試行錯誤を重ねながら、よくここまで続けてきましたね。

今村: もう後に引けなかったみたいな感じです。
 

※後編はこちら

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