社内政治の傾向と対策を考える本連載。今回は、社内ポジションが勝る上司に勝ちにいくパターン4「上司に戦いを挑む」を考える。ケースの主人公はグロービス経営大学院生の山口さん(仮名)だ。
パターン4: 上司に戦いを挑む(1)
【ケース】
山口は、IT企業で高い実績を上げた後、外資系のIT機器開発企業D社に転職した。D社はこの業界では後発だったが、クラウド化の波に乗り製品が爆発的に売れていた。
だが、山口は「各社の機器導入が一巡すれば、市場は踊り場を迎える。それに備えて今から次の一手を打っておくべきだ」と考えていた。単なる機器販売ではなく、ユーザーの課題/ニーズを丹念に聞いてソリューションを提案する いわゆる上流コンサルティングだった。競合他社は、まだそこまでに至っていない。そして、山口が前職で高い実績を上げられたのは、コンサルティング・セールスを得意としていたからだった。
山口はD社日本法人トップの村中にこれを提案した。しかし村中は、IT機器市場でカバーできていないクライアントがまだ多く残っていること、自社にコンサルティング・ノウハウの蓄積がないことなどを理由に山口の提案を却下した。
山口は諦められなかった。トップに自分の考えを認めてもらうには、トップの期待を大きく超える圧倒的な実績作りが必要だと考えた。そして、難攻不落の大手企業E社からの受注獲得を目指すことを決めた。
山口は、E社のキーマンや意思決定プロセスを細かく調査した上で、戦略的に営業を進めていった。なんとか、E社のアカウントを開くことに成功した山口は、経営者には売上UP、マネジメント層にはテクノロジー効果と価格の正当性、現場には使いやすさなどValue Propositionを意識したコンサルティングをE社に行い、グローバルシステムのグランドデザインを提案させてもらう機会を得た。山口が描くコンサルティング事業のモデルを自ら実行して見せたのだ。
山口の提案はE社の経営陣から絶賛され、E社に常駐するほどの信頼関係を築いた。村中は山口の功績を称え、1階級昇進させた。
上司を動かすリレーション・パワーを獲得せよ
【講師解説】
「事業の成長が鈍化する前に、次の手を打っておくべきだ」という山口の主張は正論である。だが、部下には見えない様々な制約条件やプレッシャーの中で、上司は葛藤し、ベストな選択をしようと戦っている。
部下から見ると、その優先順位に納得できないことも少なくないだろうが、そのような状況で単に上司に正論だけをぶつけても状況を変えることはできない。
どちらか一方では駄目だ。この両方を満たしている必要がある(注1)。
山口のパーソナル・パワーは、コンサルティング能力や戦略的営業スキルといった強みだ。これらを活かして大口顧客からの受注を獲得した。その実績、そして顧客との間に構築した信頼関係こそが村中に対する大きな説得力、すなわちリレーショナル・パワーになったのだ。このパワーは社内で山口しか持っていないので希少価値も高まった。トップの村中も山口に大きく依存せざるを得なくなったのだ(注3)。
ただし、山口の属人的な力によって顧客との関係性が構築されている状態は、経営観点からすると継続性のリスクを負うものであることは付記しておかなければならない。
(注1)ジョン・P・コッター「上司をマネジメントする」 May.2010 Diamond HBR
(注2)3つのパワー源泉(McGinn and Lingo)
ポジション・パワー(公式の力): アサイン権限や、許可、予算、報酬、情報、材料を握っている、など
パーソナル・パワー(個人の力): 信頼性、専門性、実績、カリスマ、魅力、スタミナ、 コミュニケーション力、など
リレーショナル・パワー(関係性の力): 提携する、頼れる、互恵性(多様なネットワークの中心にいて、精神的支援、助言、情報、資源を得られる力)、など
(注3)相手への影響力 = 自分のパワー源泉の大きさ × 相手の自分への依存度 と考えることができる。したがって、自分のパワー源泉を高めるだけでなく、それに相手が依存している状態を作らないと影響力は高まらない。
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