なぜか「にしおかあ~っ、すみこだよお~」にひかれてしまった。SM女王の衣装をまとう“Sキャラ”、もう一方でひたむきにマラソンを走る“Mキャラ”、SとMを持ち合わせている魅力に加え、彼女はもう1つのキャラを持っていたのだ――。マーケティング・コンサルタントの郷好文氏が、「にしおかあ~っ、すみこだよお~」の魅力を語る(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年4月24日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。
2008年2月に行われた、東京マラソンのテレビ中継を観ていた。“どげんかせんといかん知事”や女子アナ、芸能人が次々にゴールする中、マラソン初挑戦ながら4時間45分35秒という好タイムでゴールしたのは、にしおかすみこさん。1万4014番目のゴールインだった(公式ブログへの書き込みによる)。
マラソン中継の合間に映された、にしおかさんの苦節時代の映像に筆者は吸い込まれてしまった。ネタ作りのためキャラを13パターン作ったがウケず、14個目の“女王様ドSキャラ”がブレークした。その姿と、マラソンに備えて、ボンテージでもムチでもなく、ジャージでまじめに練習という落差にひかれたのだ。
マラソン後、「途中からスタッフやカメラマンとはぐれて、迷子になったんですよ。芸人だっていうことは、最初から忘れていましたね」と寄稿した手記や、「14年間、休んでいたようなものなので」という彼女のブログにあるつぶやきにも好感をもった。「そこをウリにするテレビ局や所属プロダクションのイージーターゲットですよ」と指摘されそうだが、まさにその通りなのだ。
ドSキャラで売る彼女が“実はドMです”という、開脚大前転のようなイメージの転がりっぷりに、筆者はあっさりひかれてしまう。チャーミングな彼女のボンテージ衣装(最近まで一張羅だったという)と、マラソンランナーとしてひた走るゼッケン姿が重なり、“ドSと見せかけて、実はドM”かもしれないと、ふと思ったのだ。
ボンテージとマラソン、まさにSとMのセット!「イジめてあげようか?」というSの心理と、「(42.195キロメートルも走って)自分をイジめたい」というMの心理がセットになっている。
そう考えると彼女と東京マラソンのセットは象徴的だ。お笑いキャラはドSだが、素性はドMというイメージ戦略の一端とも読める。そこまで計算づくなのだろうか。
人気者は転じてドSで炎上、かたやドM運動・ドMグッズも流行中
計算があるかどうかはともかく、私たち自身が“ドS、実はドM”という心理の間で揺れる存在なのだ。
気軽に、というと少し語弊があるが、匿名で全員参加ができるドS行動に“ネットの炎上”がある。最近ではその態度や発言をめぐり、沢尻エリカさんや倖田來未さんがネット掲示板であらん限りの罵声を浴びて燃え上がった。わざわざ書き込みをしなかった人も「あの態度はダメ」とか「同性への思いやりがない」と思ったはず。そんな空気が波動して、2人は世間様のドS攻撃に身をさらされた。
もっともキャラの違いなのか、燃え方は違った。倖田さんへは広く容赦ない燃え上がりだったが、コンサートで謝罪したことにより、火は鎮火した感じ。一方、沢尻さんへは、いまだに火がくすぶっているようだ。態度にも倖田さんは「まだイジめるの? 涙がとまらないワ」、沢尻さんは「まだ私をイジめるの? 受けて立つわよ」という感じがある。
さて、かたや、昨今のマラソンブームでつくづく思うのはドM人口が増えているということ。先日会った元同僚はたびたびトライアスロンに出場し、数年前の“お腹の丘”はすっかり平地になっていた。筆者も時々自転車に乗って、向かい風に挑むのがイヤではなくなってきている。
昨年から流行しているマサイ族の歩行用具、「マサイ・ベアフット・テクノロジー」のスニーカー(写真左)。履いて歩くとその不安定さに最初は転びそうになるそうだ。グラグラして歩けなくて、しばらく筋肉痛に悩まされるのに、なんと1足3万円もする。
メタボリック退治の「BONELESS BELT(ボンレスベルト)」(写真右)は、マサイの靴よりお手軽にメタ肉をイジめる。それにしてもなんてグッとくるネーミングでしょうか。
MBTカジュアル 22w(3万3600円)
ボンレスベルト(3800円)
ドSもドMもニュートラルにする心理とは
さて、ここで登場するのが苦痛をしのぶシンガー、浜崎あゆみさん。内耳性突発難聴で左耳の聴覚を失いながらも、デビュー10周年記念ツアーを強行中。公式ウェブサイトで「限界まで歌い続ける」と語る。その姿勢がファンの心を打っているようで、ツアーは連日満員、各地で追加公演が行われている。勢いはかつてほどないと言われた浜崎さんだが、今はファン層を広げているようだ。
それはドSとドMをニュートラルにする心理、“アゴニー(苦痛)心理”が働いているから。あ、ちなみにこれは私の造語。
私たちは、苦痛をいとわない人が好きだ。苦節◯年の人を応援したくなるほど、人のアゴニーが好きなのだ。その構造を描いたのが下の図
アゴニー心理が盛り上がるには、苦節・苦痛が天然モノであることが条件だろう。ヤラセはもちろん論外だし、ファン心理コントロールが透けて見えると炎上の着火剤になる。アゴニー心理は、イジめたい心理とイジめられたい心理という、実に危ういバランスの上にある。だがここにハマったときはブームが起きる。
なぜ筆者は、にしおかすみこを好きなのか? そのワケが見えてきた。ステージではドS、化けの皮をはがすとドM。苦節14年(14個目のキャラ、1万4014着の完走など、なぜか14に縁がある)というアゴニー(A)がフルセット、まれな存在だからである。
それに比べて倖田さんはM寄り、沢尻さんはS寄り、浜崎さんはA寄りでフルセットではない。特にアゴニーだけでは「人の噂は七十五日」というように長続きしない。
最近、にしおかさんは「ドSのキャラには限界を感じている」と発言している。だがその人気、SとMとAの三点倒立で成立している。Sなしでは化けの皮がはがれて、三点倒立からゴロンとでんぐり返しになっちゃって「森光子」ですよ(注:ご自身のブログにあるネタ)。
ここまでにしおかさんのことを好きなように書いてきたが・・・「お前、こんなこと書いて満足かぁい?」とムチを打ってツッコまれたらどうしよう。
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