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労働組合の役割は終わったのか?

投稿日:2016/08/09更新日:2019/04/09

日本の労働組合の組織率(労組に参加する労働者の比率)が下がり続けています。すでにバブル経済の頃には25%にまで下がっていましたが、近年はさらに下がり、17%程度とされています。いわゆる「ブラック企業」の問題が指摘されているにもかかわらず、なぜこの傾向は続いているのでしょうか?そもそも労働組合はもう不要なのでしょうか?

労働組合が衰退してきた理由としてはいくつかのことが指摘されています。

1)  社会が便利になったおかげで労組に頼らなくてもよくなった

日本の会社員の賃金はそれほど上がっているわけではありませんが、世の中が便利になったおかげで、そこそこの生活はできるようになりました。そうした中、組合費を払ってまで労組に参加することのインセンティブは下がっています。また、自分が参加しなくても、労使交渉の恩恵を受けられるのであれば、フリーライドしようとする人間が増えるのも当然とも言えます。

2)  非正規社員の割合が増えた
テクニカルにはこのインパクトが大きいとされます。日本では正社員が組合員の主要メンバーでしたが、その比率そのものが下がっているのです。

3)  特定の政治活動との結びつきが忌避されるようになってきた
歴史的に労働組合は特定政党との結びつきが強く、それに嫌悪感をいだく若者も増えています。

こうして見てくると、労組が衰退するのも仕方ないとも言えますが、労組は本当に役割を終えたのでしょうか?確かにかつてのような、経営者の自宅にまで押し掛け、数日間も実質軟禁状態にするなどは明らかに行き過ぎですし、そうした労組は不要でしょう。また、いわゆる御用組合として経営側の代弁者としてしか機能しない労組も存在意義は低いと言えます。

しかし、労組にもまだまだ新しい役割を期待する向きはあります。換言すると、労組は別の役割を果たす組織としての転換が求められているということです。

その典型は、経営者に対するガバナンス組織としての役割強化です。ガバナンス組織としては社外取締役や各種委員会、「もの言う株主」などがありますが、基本的には経営者目線です。経営者はそもそも競争を勝ち抜いた人間であり、「強者の論理」、たとえば優勝劣敗などを良しとすることが多いものです。いま挙げたようなガバナンス組織のメンバーもその意味では同類で、やはり「強者の論理」に基づいて行動しがちです。その中にはあまり管理職未満の組合員の視点はありません。

激化するグローバル競争を考えると、企業、さらにはそこで働くビジネスパーソンが強くなくてはいけないのはある意味当然です。しかし、現実的にすべてのビジネスパーソンが競争心を持ち、強くなれるかというと、それは非現実的です。特に非管理職の従業員に優しくできない会社は、長い目で見ると高い競争力を維持できない可能性が高くなることが指摘されています。投資銀行やコンサルティングファームなど、「Up or out」で常に優秀な人間を補充できる企業は例外です。基本的に、人間は弱いものと考えておく方が現実的です。

ある調査によると、日本人は他の国に比べても会社や仕事を嫌っている人間の比率が高いとされます。実は労働条件が良くないにもかかわらず、同調圧力などで仕方なく働いている人間が多いことが想像されます。適切なガバナンスが働かないと、この傾向はますます強まりかねません。これでは強い企業は実現しません。

おそらく、「弱い」従業員にとっても働きやすい会社は、あらゆる従業員にとって働きやすい会社のはずです。ダイバーシティが増してきた昨今においては、このことは非常に重要な意味を持つでしょう。これは優勝劣敗を否定するものではありません。ある程度の社内競争がないと企業としての強さが実現しないのも事実です。しかし、「弱者」の視点が弱すぎる企業はトータルとして強い企業になれないということです。

では、労組がこうしたガバナンス組織として機能するためには何が必要でしょうか?結論から言うと、労組の主要メンバーこそMBAに代表される経営学を学ぶべきです。経営者がどのような視点で経営を行っているかが分かりますし、経営の仕組みを知ることで効果的な提案もできます。話がすれ違うことも減るでしょう。また、企業にとってリーダー候補の厚みを増すという効果も期待できます。

冒頭に、フリーライドが労働組合組織率の原因の1つと指摘しましたが、フリーライドは往々にして「共有地の悲劇」を招きます。皆が人任せにするせいで、全体として不幸になってしまうというメカニズムです。経営サイドと経営視点で議論し、組織全体の競争力と幸福度を実現できるようなロールモデルが労組側に登場することは、そうしたフリーライドに頼らない当事者を生み出す可能性もあります。

ここまで述べてきたことはあくまで私案ですが、いずれにせよ、日本経済が大きな転換点を迎えている今、労働組合にも抜本的な変革を期待したいものです。
 

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