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サントリー伊右衛門茶…映画としてのTVCM

投稿日:2009/05/07更新日:2019/04/09

映画「おくりびと」*1が記録的なヒット*2となった。この映画のテーマは「死」である。もっと言えば「死」を通して「生」を描くことである。本来「死」と「生」は表裏一体であり、切り離しては存在しえないものである。ところが、現代では「死」は意図的に隠されることが多く、結果として「生」の意味も見えにくくなっている。そんな中、納棺師*3というユニークな視点から「死」と向き合い、「生」を浮き彫りにしたところに、この映画の最大の価値がある。ここでの納棺師は、「死」という主題を描くためのフィルターにすぎない。だが、この映画がヒットして、納棺師の希望者は急増したという。つまり、「おくりびと」は納棺師の宣伝を意図していないのに、結果として、効果的な宣伝になったわけだ。

2004年に始まったサントリーの緑茶「伊右衛門」のテレビCMシリーズ*4にも、「おくりびと」と同じ構造が見て取れる。

まるで歴史ドラマの一シーンのようなCMの中で、もっくん扮する伊右衛門は、寝食を忘れて納得ゆくまでお茶づくりに打ち込む。その陰で妻の宮沢りえが夫を支える。やがて伊右衛門の努力は報われる・・・このCMの主題は、「ひたむきに仕事に打ち込むことの尊さ」であり、伊右衛門茶はその主題を描くための素材である。このCMを観たビジネスマンは、そこに自分自身の姿を投影する。実際、多くのビジネスマンは、今の仕事で本当に報われるのだろうか、という疑問や不安をいだきながら仕事に打ち込んでいる。そんな気持ちをこのCMは受け止め、「あなたの生き方は間違ってはいない」と語りかける。それこそが、このCMが視聴者に提供する価値である。ここでは、伊右衛門茶はメッセージを伝えるためのモチーフに過ぎず、あくまで脇役であるが、結果として伊右衛門茶の効果的なプロモーションになっている。

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私たちは日々多くのコマーシャル・メッセージに接している。ところが、その中で記憶に残るものはほとんどない。試しに、皆さんが過去1週間に観たTVCMの中で印象に残ったものを思い出してみてほしい・・・せいぜいソフトバンクの犬のCMくらいではないだろうか?逆に言えば、その他大勢の広告はお金を無駄に費やしているとも言える。では、多くのTVCMが記憶に残らないのはなぜだろうか?

それは、多くのTVCMが、私たちの「人生の関心事」でなく、売り手である「企業の関心事」をテーマにしているからである。例えば、お茶のCMであれば、味の良さ、産地、品質などを語るのが一般的である。だが、それらは、あくまで売り手の関心事であって一般の人々の関心事ではない。私たちは、私たちの生身の人生を、色々なことに関わりながら生きている。その中でお茶に関わる部分はほんの一部に過ぎない(もちろん、お茶の関係者やマニアは別)。お茶についてあれこれ語られても、もともと関心が無いのだから聞く耳を持てない*5。結果として、お茶の品質の良さを訴求するCMは、頭の中を素通りしてしまう。

CMは、売り手の関心事でなく、私たちの関心事をスタート地点とすべきである。私たちの共通の関心事とは、たとえば「仕事」「恋愛」「夫婦」「親子」などである。これらは、生きてゆく上で誰もが向き合わねばならないことであり、喜びと苦しみ、笑いと涙の源泉となる。言い換えると「生きる」ことそのものである。それを主題にして初めて心に残るCMにすることが可能である。商品を主題にするのではなく(売り手は、そうしたくてたまらないだろうが、そこはぐっと押さえ)、あくまで主題を描くためのモチーフとして登場させることで、結果として共感を得ることができるのである*6。

「顧客にとって最大の関心事は、自分自身の人生である」「顧客にとって自社商品は、彼らの人生のほんの一部を彩る脇役にすぎない」。残念ながら、この当たり前の原則を理解している企業は少ない*7。だからこそ、サントリー伊右衛門茶のCMは輝きを放つ。

*1 主演:本木雅弘、広末涼子、監督:滝田洋二郎、脚本:小山薫堂による映画で、第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。
*2 観客動員数は、劇場公開から26週目で456万人を突破した。
*3 「納棺師」は、この映画の原作『納棺夫日記』の作者青木新門氏の造語である。
*4 伊右衛門茶CMサイト
*5 逆に、元々すごく関心があった商品であれば、そのCMには注目するとは言える。
*6 「サントリーウイスキーオールド」のCMを観れば、このアプローチの有効性を感じていただくことができるだろう。
*7 その理由は、売り手にとって自社商品は、人生の大部分を占める関心事であるからだ。

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