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サザンオールスターズ(2)…「降臨」と「巡礼」のプロモーション・ミックス

投稿日:2008/02/27更新日:2019/04/09

先回は、サザンオールスターズ(以下SAS)の人気の秘密を曲作り、4Pで言えばプロダクト戦略の視点で検討した。ただ、いくら魅力的なプロダクトでもその価値を伝えなければ売りにつながらない。今回は、商品価値の伝達、つまりプロモーション戦略*1の視点から考えてみたい。

(1)「降臨型」プロモーションとしてのテレビ・タイアップ
下の表は、テレビCMあるいは番組に採用されたSASの楽曲リストである。実はこれらはほんの一部で、テレビとタイアップしたSAS(あるいは桑田圭佑)の楽曲数は100曲近い。シングルカットされた新曲のみならず、実に多くの楽曲がテレビとタイアップしていることに驚かされる。

テレビCMソングまたは番組テーマソングに採用されたSASの楽曲(一部)

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たとえるならテレビは「降臨型」*2のプロモーション・メディアである。テレビの電波は、私たちの日常生活の中に空から降ってきて、圧倒的多数*3の人々に繰り返し、一方的*4に情報を送り込む。今回のテーマで言えば、SASの楽曲を一方的に聴かせ続けるわけである。

それは聴き手の興味の有無には関係なく、しかし、何度か繰り返されるうち、それらはSASに興味のなかった人の耳にも馴染むようになる。そして、やがて何かのきっかけ*5で興味を喚起する。この、「関心のない人」を「関心のある人」に変える力こそがテレビのパワーの本質であると私は思う。

話は少しそれるが、よくインターネットとテレビは融合すると主張する人がいる。しかし私は、そうはならないと思っている。というのも、ネットとテレビは視聴の態度が全く違うからだ。既述したように、テレビは受動的で一方通行のメディアである。テレビは、時には料理をしながら、食事をしながら、何か別のことをしながらでも視聴できる。一方のネットは能動的で双方向のメディアである。アクセス者(ネットユーザを「視聴者」とは言わない)は、何かの目的をもって主体的にネットに関わる。なので、元々関心を持っている人を引き付けることはできても、興味のない人に興味を持たせる効果はほとんどない。そこが、テレビとネットの最大の違いである。

(2)「巡礼型」プロモーションとしてのライブ
関心のない人を関心のある人に変えるという強い力を持つ一方、テレビにはファンとの関係を構築するパワーはない。それができるのが「ライブ」である。ライブは、いわば「巡礼型」*6のプロモーション・メディアだ。基本的には既にファンとなった人だけが、「聖地」であるライブ会場に「参拝」する。そして、そこで経験を共有することで、ファンとの関係は深まってゆく。
SASの場合、1984年の「縁起者で行こう」と題するカウントダウンライブ開催以来、大晦日に「年越しライブ」を行うのが恒例となっている*7。そのチケットは、ファンクラブの中でも争奪戦になるほどのプレミアムになる。
年越しは、1年の中でも特別な日*8の一つである。なので、年越しライブは、普段のライブとは違う「特別なライブ」になる。(普段のライブと年越しライブの違いは、たとえば普段のデートとバレンタインデー当日のデートとの違いのようなものか)。そして、SASと一緒に新年のカウントダウンを叫んだファンの中から、新たにコアなSASファン=SAS信者が生まれる。

(3)「触媒型」プロモーションとしての「口コミ」
年越しライブが生み出した、SAS信者は、今度は「口コミ」の中心的なメディアになる。
信者が熱く語る年越しライブの興奮は、潜在的ファンを顕在的ファンに変える触媒*9の働きをする。また、信者に限らず、普通のSASファンも触媒になることがある。たとえば、テレビでTBS系「ウンナンのホントコ!」の「未来日記」を視聴していて「TSUNAMI」が耳に馴染んでいた人が、カラオケボックスで友だちがTSUNAMIを熱唱するのを聴いたのがきっかけで、SASへの関心が顕在化するように。それもまた口コミの触媒効果*10である。

SASのプロモーション手法とファン開拓のプロセス

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上の図は、「降臨」から「巡礼」「触媒」に至るSASのプロモーション・ミックスを図示したものである。テレビとのタイアップで潜在ファンを開拓し、ライブでファンとの関係を築き(または深め)、そのファンが触媒となってテレビが開拓した潜在ファンをファンに変化させる、というサイクルである。

SASは、「勝手にシンドバッド」で三ツ矢サイダーのCMとタイアップして以来30年間、意識的にこのサイクルを回し続けてきたと考えられる*11。このサイクル、音楽業界に特有な部分もあるが、ノンユーザ→ユーザ→ヘビー・ユーザという顧客の開拓段階に合わせて最適なメディアを選択するプロモーション・ミックスという視点で捉えれば、実は他のビジネスにもあてはまるのではないだろうか。

 

*1 プロダクト戦略が「価値創造」戦略であるとすれば、プロモーション戦略は「価値伝達」戦略である。価値伝達は、顧客との関係構築のために不可欠な要素である。
*2 これは私が勝手に呼んでいる呼称なので、世間には普及していません。
*3 たとえば、視聴率20%の全国ネットのドラマに1本のCMを1クール(3カ月)流せば、延べ2億人以上に到達することになる。
*4 「放送」とは、文字通り情報を「送りっ放し」にすることである。
*5 この「きっかけ」になるのが「口コミ」である。
*6 これも、私が勝手に呼んでいるだけ。ウェブも、顧客が主体的に関わる点で「巡礼型」のメディアである。その証拠に、「サイトを訪れる」といった表現を使う。
*7 1984年の「縁起者で行こう」(新宿コマ劇場)の次に行われたカウントダウンライブは1989年。このときから場所を横浜アリーナに移し、以来、ほぼ毎年、継続的に開催されている。
*8 他に特別な時といえば、クリスマス、バレンタイン、誕生日などか。
*9 「触媒」とは、それ自身は変化せず、他の化学変化を促進するもの。「口コミ」は、人の心理変容を促すまさに最高の「触媒」だと思う。
*10 「口コミ」には、「友だちの歌を聴く」経験など間接的な推奨も含まれる。それは、時に直接的な推奨よりも効果的である。
*11 SASが、30年近くこのサイクルを回し続けることができた理由の一つは、「不易流行」の曲作りにある(マーケティング・アノマリーズVol.6参照)。

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