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アマダナ6300円の計算機…ホリスティックなチャネル戦略

投稿日:2008/01/07更新日:2019/04/09

今や、計算機は100円ショップでも買える。カシオ計算機、キヤノンなどナショナルブランドの計算機でさえ、1000円台で買える。携帯電話にも計算機が付いている今、計算機そのものへのニーズが低くなっている。ところが、アマダナ*1では、6300円の計算機が売れている。計算の正確さ、処理スピードなど、計算機としての基本機能は変わらない。画期的な独自機能があるわけでもない。では、なぜアマダナの計算機はプレミアム価格で売れるのか?

その秘密は、家電の主要チャネルである量販店でなく直営店で売るというアマダナのチャネル戦略にあるのでは?という仮説のもと、12月初旬のある夜、久々に表参道ヒルズにあるアマダナショップ*2を訪問することにした。路面階にあるジャン=ポール・エヴァンの一切れ399円(一箱4788円!)のチョコに目を丸くしながら、地下3階のアマダナショップに向かった。

間口5メートル、奥行き5メートルほどのショップは、シックな木目を基調とし、照明も明るさを押さえている。昨今の量販店が蛍光灯で昼間のように明るいのとは対極的である。フロントのショーケースに、宝石か高級腕時計さながらに燦然とディスプレーされているのは計算機だった。中に入れば、目玉の計算機がやはりガラスケースに展示され、その横には何色ものカラーバリエーションがある専用本皮ケース(5150円)が並ぶ。他には、6300円のキッチンタイマーや木目調携帯電話が、芸術作品のようにディスプレーされている。店員に、6300円と5150円の計算機の違いを聞いたら、両者を取り出し、「キーを押したときの感覚が違うんですよ」とのこと(私も押し比べてみたが、その差はとても繊細なものだった)。

しばし店に滞在しながらアマダナの特徴の一つに思い当たった。それは、アマダナの店舗が、単なる売り場=「プレイス」ではなく、4P*3の他の要素を内包していることだ。

(1)プロモーション戦略としてのプレイス
とても家電店とは思えない、ファッション・ブティックのようなアマダナの店舗は、単に製品の売り場であるだけでなく、空間としてブランドイメージを伝達するメディアになっている。表参道ヒルズのテナント料は相当に高く、店舗を単なる「売り場」と捉えると、その経費は正当化できないだろうが、同時に「プロモーション・メディア」でもあると捉えれば、むしろ割安なのかもしれない。

(2)プロダクト戦略としてのプレイス
アマダナの店舗空間は、商品属性の一部でもある。6300円の計算機を買う人は、アマダナショップで買うという経験も含めて買っている。落ち着いたジャズが流れる店内で、アマダナの店員の話を聞きながら、商品の手触わりを確かめる、その行為も商品の延長である。

(3)価格戦略としてのプレイス
6300円という価格は、直営店舗であるからこそ成立する。もし、アマダナの計算機が1000円の計算機と並んで量販店で売られていたら、価格下落圧力にさらされ、たちまち値崩れするだろう。つまり、アマダナのチャネル戦略は、価格戦略でもある。

このように、アマダナの「プレイス」は、4Pの他の要素「プロダクト」「プライス」「プロモーション」全てを内包し、4P全体として不可分な存在となっている。

元来、4PはMECE*4ではない。たとえば、4Pの一つ「プロダクト」。製品パッケージは、「プロダクト」の一部でもあるが、同時に「プロモーション」の一部でもある。「価格」も「プロダクト」の一部である。4Pは、個別に切り分けることなく、全体として管理すべきホリスティック*5な存在なのである。

アノマリーとしてのアマダナは、現在、多くの家電メーカーが抱える共通の課題を浮き彫りにした。それは、チャネル戦略の主導権を量販店に奪われ、本来、切り分けられない、切り分けるべきでない4Pのそれぞれが分断されていることだ。アマダナは、「プレイス」という顧客とのコンタクトポイントを基点に、4Pをホリスティックにデザインすることで、その問題に対する一つのソリューション*6を提示している。

 

*1 リアル・フリートが2003年10月に始動させた、デザイン家電ブランド。「尼棚」を語源とする。
*2 アマダナは、表参道ヒルズ店以外にも、BALS STORE 中目黒店、銀座Velvia館店、渋谷パルコ店の計4店の直営店舗を展開している。
*3 マーケティング戦略の立案・実行プロセスの一つである、マーケティング・ミックスにおいてコントロールできる主な要素。製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、コミュニケーション(Promotion)の頭文字を取って4Pと呼ばれる。
*4 Mutually Exclusive Collectively Exhaustiveの頭文字を取ったもので、「モレなくダブりなく」の意味(MECEについては2007年12月20日掲載の「クリティカル・シンキングの心得」に詳説されています)。これを知らなければグロービス受講生とはいえないくらい有名ですが、私自身は「全てのMECEは幻想である」と思っています。たとえば、コンビニでサントリーの「黒烏龍茶」を買ったあなたは、購買理由をMECEで説明できますか?
*5 holistic(ホリスティック、全体的な)。holism(全体論)からの派生語。複雑な体系の全体は、単に各部分の機能の総和ではなく、部分にも全体が含まれるという考え方。例えば、足の裏に体の各機能のツボがある、という考え方をする東洋医学のアプローチはその典型。
*6 この問題に対する解決策は一つではない。他の解決事例についても、回を改めて取り上げてみたい。請ご期待。

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