前回は「論理的に考える力」「数字で論理を支える力」「伝える力」の3つのスキルを身につけていくことの重要性について取りあげた。今回は論理的に考えるための「課題・論点をおさえる」を解説する。
問題解決、課題解決にはまず、そのとき取り組むべき課題、問題は何か、重要な論点は何か、何のためにこれから先活動するのか、という「イシュー」を明確にすることが重要だ。
当たり前に思えるが日々のビジネスを振り返ってみると、必ずしも明確に意識していないのではないだろうか。当初は意識していても時間の経過とともに忘れてしまうということも多いだろう。
典型的なパターンはこうだ。「なんとなく」気になったことを、自分の上司から頼まれたことを、「なんとなく」調べ始める。動いているのはインターネット上の検索サイトとプリンター。2度と見ないような書類がどんどん印刷され、背中のキャビネットにファイルが増えていく。
自ら手を動かさない場合は部下やチームメンバーに検討を依頼することになるが、出てきたリポートを見ても「なんとなく」ピンとこない。内容は確かに悪くないが、依頼している自分がイシューを明確に認識していないので、曖昧なフィードバックしかできないのだ。
イシューが大きくずれている場合は気づきやすく、指摘もしやすいが、微妙にずれている時ほど、後々の問題を大きくする。
次に会議の場面を考えてみよう。会議をコーディネートする役目である場合、イシューを明確にして臨むが、一般の参加者はそれを理解していないため議論が脱線しがちだ。ポジションの高い人が関係の薄いポイントについてコメントしたら致命的だ。皆そこに引きずられ本来の目的からどんどん離れていってしまう。
いずれの場合も、論理的に考えるためのベースを整える必要性がある。
では、どうやってこの考える目的や論点をおさえるのか。まず、決定的に大切なことは言葉をしっかり、丁寧に選んで使うということだ。曖昧な言葉は曖昧な思考しか生まず、多くの関係者の時間を無駄にする。「わかっているはず」「理解しているはず」など「はず」という言葉を排除しよう。
採用の多様化やアライアンスの増加などで、多様な価値観、前提条件を持つ人が1つのプロジェクトに関与することも多い。そのような時、初期の曖昧な言葉づかいは後に大きなトラブルを巻き起こす。徹底的にわかりやすい言葉で表現し文字に落とし込むのだ。
1度おさえたイシューは忘れずにおさえ続ける必要がある。最初はおさえていたが会議の途中から……とならないようにしなければならない。1番シンプルな方法は可視化しておくこと。
人は自分の視界に入らなくなったことを意識し続けるのは難しい。
会議の場合、5分前に会議室へ部下に行ってもらい、アジェンダをホワイトボードに書き出しておくことも有効だろう。常に、そしてすぐにそこに戻れるようにアジェンダを記載した紙だけ、他の書類とは異なる色の紙にコピーして配布するのも一考だ。
私は資料を作成する時は、常に最初のページに、いつまでに、誰に対して、何を目的にした書類なのかを大きな文字で書いておく。徹底的に意識を向ける努力が必要だ。
イシューをしっかり言葉にし、共有し、それを関係者で意識し続ける。これを習慣化するだけでも組織が変わってくるはずだ。
※この記事は日本経済新聞2013年7月17日に掲載されたものです。
(Coverphoto:shutterstock/Ismagilov)
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