NOPAT(税引後営業利益)とは - 企業の本当の実力が分かる指標
NOPAT(Net Operating Profit After Tax)とは、日本語で「税引後営業利益」と呼ばれる財務指標です。これは、企業が本業で稼いだ利益から税金を差し引いた金額を表しており、株主と債権者の両方に帰属する利益として位置づけられます。
NOPATは、単純に「営業利益 × (1 - 実効税率)」という計算式で求めることができます。また、EBIT(利息・税金控除前利益)を使って「EBIT × (1 - 実効税率)」として計算することも可能です。この指標は、企業が本当にどれだけの価値を生み出しているかを知るために欠かせない重要な指標となっています。
なぜNOPATが重要なのか - 企業価値評価の新たな視点
①真の収益力を正確に把握できる
従来の営業利益だけでは、税金の影響を考慮できないため、企業の真の収益力を測ることが困難でした。NOPATを使用することで、税金を考慮した実際のキャッシュ創出能力を把握することができます。これにより、投資家や経営者は、より現実的な企業価値の評価が可能になります。
②EVA計算の基礎となる
NOPATは、EVA(Economic Value Added:経済付加価値)という重要な管理会計指標の計算に必要不可欠です。EVAは企業が本当に価値を創造しているかどうかを測る指標として、多くの企業で採用されています。NOPATがあることで、企業は単に利益を上げるだけでなく、資本コストを上回る価値創造ができているかを確認できるのです。
NOPATの詳しい解説 - 計算方法から活用場面まで
①基本的な計算方法と考え方
NOPATの計算は比較的シンプルです。最も一般的な計算式は「営業利益 × (1 - 実効税率)」です。例えば、ある企業の営業利益が1000万円、実効税率が30%の場合、NOPATは「1000万円 × (1 - 0.3)= 700万円」となります。
この計算により、企業が本業で生み出した利益のうち、実際に株主や債権者に分配可能な金額が明確になります。営業利益だけを見ていると、税金の負担を無視してしまうため、実際の価値創造能力を過大評価してしまう危険性があります。NOPATを使うことで、より現実的な評価が可能になるのです。
②EVAとの密接な関係性
NOPATは、EVAの計算において中核的な役割を果たします。EVAは「NOPAT - CE(使用資本)× WACC」という式で計算されます。ここでWACCは加重平均資本コスト、つまり企業が資金調達にかかるコストを表しています。
この関係性を理解すると、企業価値創造のメカニズムが見えてきます。企業は単に黒字を出すだけでは不十分で、資本コスト以上の収益を本業から生み出す必要があることが分かります。NOPATがこの判断の基準となる重要な指標なのです。
③EVAスプレッドという概念
EVAの計算式を使用資本で割ると、「EVA/CE = ROIC - WACC」となります。この「ROIC - WACC」をEVAスプレッドと呼びます。ROICは投資資本利益率を表しており、これがWACCを上回ることで、企業は価値を創造していると判断できます。
EVAスプレッドがプラスということは、企業が投資家の期待収益率(ハードルレート)を上回る収益を上げていることを意味します。つまり、NOPATを起点とした一連の分析により、企業の真の価値創造能力を測ることができるのです。
④より精密な計算方法
実際には、NOPATをより正確に計算するために、様々な調整が行われることがあります。EVAの登録商標を持つスターン・スチュワート社では、オペレーティングリースの調整、研究開発費や広告費の資本化、税金のキャッシュ調整など、より精密な計算方法を採用しています。
例えば、オペレーティングリースに関する調整では、貸借対照表に現れない(オフバランス)リース費用を、オンバランス化することで減価償却費と支払利息に振り替える調整を行います。これにより、企業の真の経済的実態をより正確に反映したNOPATを算出できるのです。
NOPATを実務で活かす方法 - 戦略的な経営判断への応用
①投資判断での活用場面
NOPATは、新規事業への投資や設備投資の判断において重要な役割を果たします。投資案件を評価する際、単に売上や営業利益の増加だけを見るのではなく、税引後の実際のキャッシュ創出能力を評価することが重要です。
例えば、二つの投資案件があった場合、営業利益ベースでは案件Aが優れていても、税金を考慮したNOPATベースでは案件Bの方が優れている可能性があります。このような場面で、NOPATを活用することで、より現実的で正確な投資判断が可能になります。
また、M&Aにおける企業価値評価でも、NOPATは重要な指標となります。買収対象企業の真の収益力を測る際、NOPATを基準とすることで、適切な買収価格の設定や投資回収の見通しを立てることができます。
②経営管理における継続的な活用
NOPATは、日常的な経営管理においても非常に有用です。月次や四半期ごとにNOPATを計算し、前年同期や計画値と比較することで、企業の収益力向上の進捗を把握できます。
特に、事業部門別や製品別にNOPATを算出することで、どの部門や製品が真の価値創造に貢献しているかを明確にできます。これにより、経営資源の最適配分や事業ポートフォリオの見直しなど、戦略的な意思決定を支援する重要な情報を得ることができます。
さらに、役員や管理職の業績評価指標としてNOPATを活用することで、単に売上や営業利益の増加だけでなく、真の価値創造を重視した経営体制を構築することが可能です。このような取り組みにより、企業全体で価値創造への意識を高めることができるのです。