静岡茶産出額トップ陥落に見るビジネスモデル

お茶産出額トップが静岡から鹿児島へ

お茶に関わる者にとってはショッキングな記事が3月中旬に流れた。農林水産省が2019年の農業産出額を発表し、静岡県が都道府県別茶生産額トップの地位を鹿児島県に譲ることになったという。静岡県251億円に対し鹿児島県252億円と僅かな差だが逆転は史上初だ。

鹿児島県との違いを見ていくと静岡県の茶産業の厳しさが浮かび上がる。生産額では鹿児島県に抜かれたが、生産量では静岡県がまだトップである。つまり静岡県産のお茶の取引価格の方が安い。

さらに、お茶の生産性でも鹿児島に後れを取っている。静岡県のお茶の栽培面積は17,900haと鹿児島県の8,400haの2倍近い(2019年農林水産省作物統計調査)。単位面積あたりの生産額は静岡県が157万円/haに対して鹿児島県は300万円/haと生産性で大きな差が出ている。

生産性に差が出る理由は、主に2つ。1つは、静岡県は山間部が多く機械化が難しいこと。もう1つは、静岡県の製茶会社は中小規模が多いことである。静岡県には全国の5割の製茶会社が集まっている。実に鹿児島県の約7倍だ。

歴史を紐解くと、この違いがなぜかわかる。静岡県の老舗企業は江戸時代前半の創業だが、鹿児島県では最も古い会社でも明治創業だ。後発で知名度の低かった鹿児島県の製茶会社は戦後、大規模化と機械化を推し進めた。結果、鹿児島県の製茶会社は生産性が向上し、高い収益性を実現できている。一方、静岡県の歴史が古いといっても、京都府には負ける。京都宇治では、室町時代創業の製茶会社もあり静岡同様、製茶会社の数も多いが、宇治は抹茶や高級茶としてポジションを確立している。

茶の消費は、伊藤園の「おーいお茶」やコカ・コーラの「綾鷹」といった茶系飲料への供給と、急須で淹れるリーフ茶に大別される。茶系飲料メーカーのニーズは品質、安定供給と価格だ。鹿児島県の製茶産業の方が静岡県よりも茶系飲料メーカーのニーズを満たす条件が揃っている。

山間部が多く、中小企業が多い静岡県の状況では、大規模化・機械化が難しく茶系飲料市場で収益性を上げるのは難しい。収益性や生産性を上げなくては後継者となる茶産業の労働人口を増やすこともできないだろう。静岡県で、「特徴ある茶づくりで、静岡茶ブランドを高めていくしかない」「生産者所得向上のためには、(リーフ茶の)消費拡大が待ったなし」といった声が上がっている理由はこういった状況によるものだ。静岡同様、小規模企業が多い京都宇治の高級路線は理にかなっているといえよう。

お茶の飲用シーンに合わせてビジネスモデルを転換できるか

今回の静岡県と鹿児島県の地位逆転は、私たちの日頃のお茶の飲用シーンに直結している。そして茶系飲料を求める市場では「安定で均一の品質を低コストで大量供給できる」という価値を提供できる経営リソースや施策を取れたところが発展している。家庭用リーフ茶を求める顧客への提供価値とは異なる。一方で、静岡や全国の茶産業が京都宇治茶と同様の高級ブランドで勝負するのは難しいだろう。

リーフ茶需要の低迷は静岡県だけではない。日本茶をとりまく状況は厳しそうだ。しかし良い兆しもある。まず、海外における茶消費の増加だ。国際茶葉委員会(ITC)の調査によると、この10年で茶の消費は42%増加している。元々お茶を飲む習慣のあるアジア・中東の人口増、さらに欧米での健康志向のニーズを取り込んでいる。

国内でも最近、若者のリーフ茶の飲用頻度が上がっているという変化が見られている。自宅での食事の増加、健康機能性への魅力、家族との過ごす時間の増加といった理由が挙げられている。また興味深い傾向として、60代、70代の購入先でネット通販での利用が急伸している。

ちなみに、国際連合世界食糧計画(WFP)が、カップ1杯に必要なコーヒー豆を育てるのに必要な水が231Lに対して紅茶については5Lで済むというレポートを発表した。レポートは紅茶での算出だが、日本茶も紅茶も同じ茶の木であることを考えれば、環境負荷といった点で他の飲料との差別化を訴求できるかもしれない。

このような新たなニーズにどのような価値を提供できるかが静岡茶、そして全国の茶産業の持続的な発展にむけた課題だろう。ビジネスモデルの視点でみれば、顧客への提供価値(CVP:Customer Value Proposition)が異なれば、ビジネスモデルの3つの構成要素、「経営リソース」、「プロセス」、「利益モデル」も異なる。新たなニーズの変化を捉えるために、顧客への提供価値(CVP)を再定義し、CVPに整合した新たなビジネスモデルを構築することが課題解決の道筋になるかもしれない。

 

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