2011年当時、日本財団の東日本大震災復興支援チームの責任者として、企業や行政と連携し数多くの支援事業に携わった青柳光昌氏(グロービス経営大学院2013年卒)。2017年に一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)の専務理事へと転じ、インパクト投資を手掛けています。東日本大震災は、社会的投資にどのような影響を与えたのか。この分野の先駆者である青柳氏に話を聞きました。インタビュアーは、グロービス仙台校の開校に尽力した田久保善彦(グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長)。(全2回、後編)*前編はこちら
ソーシャルベンチャーが抱える課題を解決
田久保:青柳さんは社会変革推進財団設立時からインパクト投資に取り組んでいます。どんなことを目指しているのですか。
青柳:従来のソーシャルベンチャーの課題は、助成金頼みで、持続性がなかなか確保できないことです。継続させるためには、コミットする人たちへの資金提供と、資金以外の支援、サポートが必要です。
2007年に米ロックフェラー財団が主導する国際会議が開催されました。そこで話されたのが、「社会課題解決のためには、助成金ではなく、投資という手法を使っていく必要がある。それには財団のお金だけでは足りない。金融機関や投資家に参加してもらわなければならない」ということ。そこから「インパクト投資」という言葉が生まれたのです。
日本財団では2013年から日本における社会的インパクト投資普及のための調査研究を始めています。その後、財団内に社会的投資推進室が発足し、官民連携の仕組みの1つである「ソーシャル・インパクト・ボンド」(SIB)のパイロット事業に取り組みました。
地方にいけばいくほど行政のパワーはいまだに大きいです。予算や優秀な人材など豊富なリソースを持っている。行政が日々行う仕事も、行政から民間に流れる仕事も、成果を可視化して住民にレポートしないと、人もお金も回らなくなる。それを生かす一つの方策がSIBという仕組みです。これを本格的に推進しようと、2017年に今の財団を設立しました。
2017年に神戸市と東京都八王子市でヘルスケア分野のSIBを日本で初めて本格導入しました。ただ、神戸も八王子も、その後続いた自治体も、自治体側からするとパイロット的な位置付けから抜けられない。まだまだ課題はあります。
その地域のソーシャルベンチャーと行政が協業するには、お互いが意識変容、行動変容を起こさないといけない。双方が同じ社会課題に向き合い、それぞれのリソースを出し合わないと足腰の強い地域はつくれない、そんな思いで取り組んでいます。
田久保:東日本大震災を機にソーシャルアントレプレナーが次々に誕生しましたが、事業の継続にはシステマティックに応援する仕組みが必要であり、社会課題だからこそ自治体の協業が欠かせない。かつ彼らも成果ドリブン型のインパクト型に変えてもらわなければいけないということでしょうか。
青柳:そうです。一方、地方自治体と組んだときはソーシャル・インパクト・ボンドのスキームで進めますが、いわゆるベンチャーキャピタルと同じようなインパクト投資ファンドも行っています。新生企業投資とみずほ銀行と共同で、2019年に設立、運営しています。どちらも投資対象はソーシャルベンチャー限定です。いろいろなスキームを使いながらも、問題意識は共通しています。
インパクトを可視化する
田久保:10年前、青柳さんが「『俺たちはお金を稼がない。お金を稼ぐプロではなく、お前はお金を使うプロになれ』と、(日本財団の)笹川会長に言われた」と話されていたのが印象的でした。
補助金をストップした瞬間に事業が止まる、というやり方ではなく、例えるなら子育てのような感じでしょうか。
青柳:確かに大学卒業後、就職するまでは教育費を援助する、というのと似ています。エグジットは大学だけではなく、さまざま。それこそ本人がどう考えるか、どんな希望を持っているか、投資先のベンチャー経営者がどう考えるか次第で、それに応じたお金の渡し方、出し方をします。
反対に、金融の人たちは最初「当然リターンはあるでしょ」と入ってきて、投資先の考えや哲学、どう成長していきたいかを見るのはその次、という傾向があります。「そういうところも丁寧に見ていきましょう」と、私たちも経験者に教わりながら一緒にやっています。
田久保:投資対象を選ぶ上で、青柳さんが重視している点はありますか。
青柳:インパクトの可視化は大事にしています。どんなインパクトを出そうとしているベンチャーなのかを確認し、何度も話して、それをどういう時間軸で、どんなもので測って可視化していくのかまで、きちんと説明ができる相手でないと、お金を入れません。
そこまですると、投資をしたら、どんな社会問題が、どれくらいの時間で解決されそうだというのが分かります。すると、今まで「リターンでしょ」と言っていた金融機関も変わる。
ソーシャルアントレプレナーやインパクト投資のエコシステムをつくって、自立した事業運営で地域への貢献を果たしていける社会を実現したいですね。
最近、「インパクト・ユニコーン」という造語が生まれています。創業間もない、高い成長が見込めるソーシャルベンチャーのことを言い、その後上場して規模拡大するソーシャルアントレプレナーもいます。
田久保:インパクトそのものが、ユニコーン化するという発想もあるのではないでしょうか。例えば、売上高は50億円でも、波及効果がユニコーン化している、そういう目指し方もあるかもしれません。
戦略的フィランソロピーのコンサルティング
青柳:昨年、ロックフェラー・フィランソロピー・アドバイザーと業務提携しました。ここは、ロックフェラー財団からスピンアウトした組織で、富裕層向けに戦略的なフィランソロピー(社会貢献)のためのコンサルティングをしています。
「寄付でも投資でもいいので資産を使って戦略的に社会問題を解決しましょう。社会課題解決に与えるインパクトを追求していきましょう」という考え方で、日本でも進めていきたいと思っています。
田久保:資産家の問題意識などを踏まえた上で、投資先や寄付先のポートフォリオを財団で作り、「あなたに合う先はここです」といった提案もあり得そうです。
青柳:まさに今やろうとしていることです。個々の資産家とはつながり始めています。来年ぐらいには先行事例をつくれるかもしれません。
田久保:この国が良くなるように、戦略的に資産を分配してくれる、信頼できる仕組みがあれば、資産を投じたいと考える人はかなり出てくるのではないでしょうか。
(文=荻島央江)