シニア人材の活躍~他流試合でセカンドキャリアとリカレント教育を~

日本CHO協会は、パネルディスカッション「シニア人材の活躍 ~真の『人生100年時代』に向けた企業と個人の備え~」を開催。人生100年時代、豊富な経験や知識を持つシニア人材が活躍できる社会環境づくりには何が必要か。5人のパネリストとモデレーターが、シニア人材の活躍をテーマにさまざまな角度から議論した。(全2回、後編)前編はこちら

年齢を契機に働くモチベーションが落ちる「50代シンドローム」

:本日は5人のパネリストの皆さんに参加いただいています。ご紹介しつつ、お話を進めていきたいと思います。

まず、定年後研究所の得丸さんにうかがいます。「50代シンドローム」という言葉があるそうですね。

得丸:定年後研究所は、定年後の人生を豊かにするための調査研究を行う機関です。私どもで50代以上の会社員に調査したところ、年齢を事由とした配置転換や出向、役職定年を契機に、働くモチベーションの著しい低下を実感していることが分かりました。このような状況を「50代シンドローム」と呼んでいます。

ニッセイ基礎研究所と共同で、この経済的損失を試算したところ、役職定年を起因とするものだけでも、1兆5872億円という結果が出ました。この数字が示しているように、シニア人材に関わる課題は、個人や企業のみならず社会全体で取り組むべきだと思います。

企業も認識を改める必要があるでしょう。中高年の社員をゴール直前の終わった人ではなく、大切なコア人材と捉え、自律的なキャリア選択を後押しするためのリカレントや、ジョブ開発にしっかり取り組んでほしいと思っています。

もちろん主体は、当事者である中高年の社員です。19年に「65歳以降の理想の働き方」について調査したところ、7割の人が「現在の会社で働き続けることが理想」だと答えています。これには寄らば大樹の陰という会社依存の意識を感じます。何より本人が定年後の人生を我が事として主体的に取り組むことが必要ではないでしょうか。

:続いて、外資系組織・人事コンサルティング会社、コーン・フェリーの吉本さんに質問します。日本では定年が当たり前ですが、欧米にはそもそも定年という制度自体がないそうですね。

吉本:はい、欧米には制度自体がありません。定年をはじめ、役職定年、終身雇用、年功序列などは日本独特の制度です。かつてこれらは日本企業の強みでもありましたが、今では足かせになってきています。

:パソナマスターズの中田さんにお聞きします。御社では企業とシニア人材をつなぐ事業をされていますが、ニーズにはどんな変化がありますか。

中田:社員を出す側でいうと、新たな活躍の機会を社内やグループのみならず、社外に準備したいという企業が多いですね。大手企業、特に製造業からの相談が目立ちます。会社が強制するのではなく、本人が選択をして、能動的に動けるような仕組みづくりをしているという印象です。

一方、受け入れ企業には「大企業OBに知恵を貸してほしい」という中小企業やベンチャー企業が多いですね。

セカンドキャリアでの活躍

:最近はセカンドキャリアに積極的に取り組んでいる人が増えています。セカンドキャリアのリアルな実例として、本日は自動車メーカー出身で現在は独立されている木村さんと、サトーホールディングスの金沢さんに参加いただいています。

木村:私は新卒で自動車メーカーに入り、30年間、主に人事畑で働きました。今から7年前の2014年、52歳のときに独立人事業務請負人、インディペンデント・コントラクターとして独立しました。インディペンデント・コントラクターとは、業務委託で人事の仕事を請け負う個人事業主です。今は週2~3日、ある企業の人事部で働いています。

毎週月曜日は電気通信大学でキャリアの特任講師を務めているほか、セミナーの講師をしたり、原稿を執筆したり。シニアのライフデザインアドバイザーとして、セカンドキャリアのお手伝いもしています。

今に至る直接的なきっかけとしては、44歳のときに転籍した会社が、M&Aで外資系企業に売却されたことが大きいですね。求められる役割も変わってくるため、ここでそろそろキャリアチェンジしようと決心しました。

金沢:私は大手百貨店を経て、2009年からサトーホールディングスで働いています。サトーホールディングスは、バーコードなどの自動認識システムという業界で国内シェアトップ、グローバルでも1、2位を争うメーカーです。私はずっと人事畑で、今は人財企画担当部長をしています。

59歳のとき、仕事で障がい者のご両親に話を聞く機会がありました。そのとき「自分たちのほうが子供より先に死んでしまうので、できるだけ多くの依存先をつくりたい」と話されていたことがとても印象に残りました。ふと「私自身、1社に依存している。定年が来たら行くところがない」と気づき、どうすれば依存先を増やせるかを考え始めたのです。

普通に会社員として働いていると、時間的な余裕がなく副業はなかなか難しい。稼ぎ扶持としての副業はできないが、複数の業をやる「複業」ならいくらでも数を増やせるなと思いました。関心のあるものにいろいろと手を出して、3年経って「有給ワーク」、「ギフトワーク」、「学習ワーク」の3つの領域にまとまってきました。

有給ワークは、価値を提供して対価をもらうことです。本業のほか、社団法人を立ち上げたり、個人事業として講演をしたりしています。ギフトワークは社会奉仕や仲間づくり。NPO法人で養護施設のサポートをしたり、演劇のワークショップへ行って芝居の公演をしたりしています。学習ワークでは、最終学歴ならぬ、最新学習歴を更新しています。この3つの領域で今、活動を続けています。

:加藤さん、金沢さんのような自立されているシニアはどこでも引っ張りだこだと思いますが、出向や転職が決まりやすいシニア人材にはどんな共通点がありますか。

中田:専門スキルがある一方で柔軟で、コミュニケーション能力が高い。かつ健康で元気な方は引く手あまたですね。

企業は個別最適の戦略を打てるか

:アンケートにもあった通り、シニア社員の活用・活性化を「優先度の高い人事課題と認識し、積極的に取り組んでいる」企業は33%ありました。他方、残り3分の2の企業は関心があるものの、どうしていいか分からない状態です。何から始めたらいいでしょうか。

吉本:前提となる考え方で、しばしば成長戦略という言葉を聞きますが、私は疑問に思っています。生産年齢人口が年々減っている状況を踏まえると、考えなければいけないのは成長ではなく、最適化ではないでしょうか。

何のために働くのか、どんな価値を提供するのか。その価値によって報酬が支払われるのでフェアに見ていきましょう、というのがジョブ型の考え方で、処遇だけに結び付くものではありません。ジョブに基づいて自身のあるべき姿や人生、キャリアを設計するので、一人ひとりを尊重するという前提で、個別最適化の戦略を打てるかどうかが、今後企業の試金石になると思います。

中田:当社では、定年後を少し意識してもらうための社外集合型としてマスターズカレッジという研修を企業に提供しています。早い企業では45歳以降ぐらいの社員を対象にしています。研修というと、多くは成長やパフォーマンス向上を目的に実施しますが、中高年社員を対象にした研修に限っては福利厚生的な意味合いのものでもいいのではと思っています。

:サトーホールディングスではどう取り組まれていますか。

金沢:当社はとにかく新しいことをやるという社風で、既に2007年に65歳に定年延長をしています。だからと言って2021年に定年を70歳に出来るかというと難しい。定年を65歳に延長するにあたって、さまざまな施策に取り組みました。振り返ると、年齢を重ねるほど個人差が大きく、一律の仕組みにはめられません。

本来は一人ひとりの仕事を査定して貼り付けるジョブ型がベストですが、そこまで労力をかけられないのが実情です。そこでまずは自ら手を挙げてもらい、その人がチャレンジする仕事のレンジを決めて格付けするプチジョブ型のような仕組みをまず導入できないかと検討中です。

他流試合でキャリア構築もリカレント教育も磨かれる

:個人差も理解した上で、それぞれに合ったキャリアをつくっていくわけですね。一方で、個人向けにはどんな支援がありますか。

得丸:定年後研究所では、中高年向けの学習プログラムとして「キャリア羅針盤」という教材の開発に携わっています。eラーニング方式による自律的なキャリア形成を後押しする支援ツールです。

コンテンツは大きく2つで構成されています。1つは、キャリアの棚卸しをすることでご自身の経験の中に隠れているスキルや知識、ノウハウなどの価値に気づいてもらう「人生をプランニングする」ための講座。もう1つは、親の介護やがんの罹患といった中高年特有の課題について学び「仕事との両立」を担保するための講座です。

キャリア羅針盤は、2021年2月から販売・提供されますが、まずは企業単位の導入を考えています。現役の会社員という立場では人事制度や就業規則などの制約があり、できることに限界があります。だから個人任せではなく、企業が支援をする中に個人が主体的に乗っかっていくのが大事だと思いますので、まずはあえて企業で導入するところからスタートしたいと思っています。

木村:東京都でも2020年10月から、55歳~64歳の在職中の会社員を対象に「東京セカンドキャリア塾」がスタートしました。私も講師をしていますが、募集枠をはるかに超える応募があったと聞いています。

社内のキャリア研修もいいですが、マインドチェンジの面では知らない人の中に混じる研修のほうが、効果が高い気がします。これからは社内研修と社外研修の両方をやるのがいいのではないでしょうか。

:他流試合、ほかの企業のシニア層のみなさんと意見交換する時間も必要だということですよね。

これからもさらに乗り越えていかなければならない課題があると思います。1つは、ジョブ型の導入です。リモートワークが進む中で、一人ひとりに何をやらせるかを明確にするジョブ型に注目が集まりましたが、シニア人材の活用においてもこの考え方はフィットします。ジョブ型の導入は今後どこの企業でも真剣に取り組む必要があるでしょう。

それからもう1つ、リカレント教育もよく話題にのぼります。定年後研究所では、リカレントに関する試みをされているそうですね。

得丸:2019年12月から2020年の2月にかけて、「京都リカレントステイ」という中高年会社員の学び直しの実験的な試みを実施しました。京都で地元商店街の振興というプロジェクトに関わったり、老舗旅館のインバウンド対策の企画を一緒になって開発したりといった体験をしてもらいました。

参加者からは「社外の人と一緒に取り組んだことで、新しい発見があった」という意見がありました。受け入れ側も当初、若い人たちならまだしも、中高年をどう扱えばいいか分からないようでしたが、やはり20年、30年の会社員人生での経験は汎用化できることがお互いに分かった。そういういい面が発見できた試みでした。

:プロジェクトベースで他流試合をするとキャリア観も変わりそうです。

吉本:コロナ禍でシニアの方々と触れ合う中で感じたのは、学習意欲が高い人が多いということです。フォード・モーターを創設したヘンリー・フォードが「年齢は実年齢で決まるのではなく、学習意欲で決まる」という言葉を残したと言われています。日本には学習意欲が高いシニアが大勢いるので、どんどんこの国を引っ張ってほしいと思います。

:そうしたみなさんにぜひ活躍していただきたいですね。今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

(文=荻島央江)

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