人事部門の役割と機能を探求し、CHO(チーフ・ヒューマン・オフィサー)=最高人事責任者と次世代CHO候補者の育成を目指す日本CHO協会は、2020年12月2日にパネルディスカッションを開催。タイトルは「シニア人材の活躍 ~真の『人生100年時代』に向けた企業と個人の備え~」。ディスカッションにあたり、モデレーターの林恭子(グロービス経営大学院教員)がまずはシニアを取り巻く概況を解説する。(全2回、前編)
シニア活躍推進をめぐる法制度が変わった
2020年、シニア活躍推進に関する法制度が2つ変わりました。1つめが、高年齢者雇用安定法です。25年までの経過措置段階ではあるものの、全ての企業で65歳までの雇用継続が義務化されています。つまり、企業は定年を撤廃するか、定年の年齢を引き上げるか、もしくは定年後に再雇用するかして、65歳まで雇用を継続しなければなりません。
これが20年3月に可決・成立した改正高年齢雇用安定法により、21年4月からは、70歳までの就業を支援する措置が企業の努力義務になりました。今後恐らく70歳定年を見据えたさまざまな動きが起こってくるのではないかと推察されます。
そしてもう1つが、年金制度の改革です。
みなさん、在職老齢年金をご存じでしょうか。在職老齢年金とは、働きながら受け取れる年金のことです。年金支給開始年齢になれば、働いていたとしてもこの在職老齢年金を受け取ることができます。
ただし、今の法制度では65歳未満の会社員の場合、年金月額と総報酬月額相当額の合計が基準額である28万円を超えた場合、年金を満額ではもらえなかったり、支給停止になったりしていました。
言ってみれば、パート社員の「103万円の壁」と同じです。「これ以上働くと、もらえるものがもらえなくなって損をするから働かない」ということが起こるように、65歳未満のシニア人材の就業意欲を削ぐ1つの要因になっていたと言われています。
これが20年5月に改正されました。支給停止の仕組みが緩和され、22年4月から基準額が1カ月あたり28万円から47万円に引き上げられます。これによって、65歳未満のシニア人材の就業意欲が上がることが期待されています。
2000年、労働者人口に占める55歳以上の割合は23.4%でしたが、17年になると、29.5%まで増えています。全体のおよそ3割が55歳以上となり、わずか17年間で6%も増加したことになります。
ここからは、日本CHO協会が2020年12月に実施した「シニア人材の活躍」に関するアンケート結果を紹介します。
まず50歳以上のシニア社員数は今後10年間でどのように変化していくか。「少しずつ増えていく」、「大いに増えていく」と回答した企業が合わせて87%。多くの企業で、バブル世代がボリュームゾーンでしょうし、これ以後の若年層が増えない一方で、シニア人材がますます増えていくことが企業共通の大きな課題になっていくと思います。
次に、本人の意思があれば継続して就業可能な上限年齢は何歳かを聞きました。今回のアンケートの回答数は104社。うち88%の企業が定年を60歳としていますが、上限の年齢としては65歳という回答が最も多く、9割を占めています。
現時点では残りの約10%が65歳を越えても就業可能ということになりますが、これが今後どうなっていくのか、気になるところです。
そして、役職定年制を導入していますかという質問です。「導入している」という企業43%、「導入していないが、今後導入を検討する」が20%ですから、6割以上の企業が役職定年制に対してポジティブということになります。同じ調査を18年にも実施していますが、「導入していないし、今後も予定はない」という企業が47%で最多でした。この2年あまりでも、これだけトレンドが大きく変化しています。
では、定年後の職務の状況はどうなっているのでしょうか。シニア人材は、定年後にどんな仕事をしているのでしょうか。
「定年前と同じ仕事に就くが、管理職からは外れるケースが多い」が43%、定年前と同じ仕事で、管理職を継続するケースが多い」が9%、「専門性を活かした仕事に就くケースが多い」が16%、という結果です。
管理職から外れる、管理職のままという違いはありますが、定年前と同じ仕事という人が多いようです。「専門性を活かした仕事」も、これまでの経験を活かしているのでしょうから、全体の7割ぐらいが定年以前とあまり変わらない仕事に就いていると言えます。
そして、定年前の年間給与を100とした場合、継続雇用後の給与水準を聞いています。50%以上70%未満が一番のマジョリティで36%。その前後の金額に集中していることから、平均すると定年前の60%くらいが水準のようです。
優先順位は高いが取り組みは十分でなく、課題は山積
定年後の社員に関する課題については、企業はどのように考えているのでしょうか。赤で囲った部分が、人事担当者が抱える今の葛藤かと思います。「異なる仕事をさせるのが難しい」、「同じ仕事をさせるのが難しい」、「次の仕事選び・適職探しに苦慮」と回答していて、苦労がうかがえます。
一方で、シニア人材自身は処遇や仕事の不満を抱えていて、モチベーションが低下しています。
では、シニア人材と働く、周囲の社員はどのように感じているのでしょうか。緑で囲った部分です。どんな風に扱っていいかが分からないので遠慮や戸惑いがあったり、あるいは次の年代層がモラールダウンをしたり、あるいは上司が悩み苦しんでいたり、といったことがあるようです。
こうした実情を踏まえ、シニア社員の活用・活性化に対する課題認識と取り組み状況について各社に聞いたところ、優先度の高い人事課題として認識している企業が7割以上を占めました。やはりこれは待ったなしのシリアスな問題ということでしょう。
ただ、「優先度の高い人事課題と認識し、積極的に取り組んでいる」企業は33%に過ぎず、「優先度の高い人事課題ではあるが、それほど積極的には取り組んでいない」企業が38%あります。
18年に実施したアンケートでは、積極的に取り組んでいる企業が40%以上でした。20年は、「コロナ禍でそれどころではない」という企業が多かったのかもしれません。
一方で、その他にもさまざまな環境変化があります。
18年から、副業や兼業を解禁する企業が増えています。20年は新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが一般的になりました。それに伴い、デジタルを使って仕事をすることが促進されたことで、シニアの働き方やセカンドキャリアに対する意識も変わってきたのではないかと思います。
シニアのみなさんが健全に活躍すれば、本人もあらゆる面で充実するでしょうし、企業としても十分な戦力になってもらえる。国としても、社会保障の面で次の世代にツケを回さずにすみます。シニア人材活躍推進をいかに好循環に持っていくか。これが、今後のカギを握ることは間違いないでしょう。(後編につづく)
(文=荻島央江)