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永谷園生姜部が高めるブランド価値

投稿日:2009/11/13更新日:2019/04/09

お茶漬けの永谷園から生姜の永谷園へ

2009年の11月17日。首都圏のコンビニエンスストアに一風変わった菓子が並ぶ。『「冷え知らず」さんの生姜のど飴かりん』、『同生姜キャラメルチャイ風味』、『同生姜グミ梅味』。お茶漬け関連商品で有名な永谷園がもう1本の柱として育ててきた生姜シリーズの最新作だ。現在このシリーズはカップスープやみそ汁、ホット飲料など、16商品を展開している。

売れ行きも好調のようで、少し前のデータになるが、日経ビジネス2008年12月15日号によると、カップスープシリーズの売り上げは「昨年比200%の勢いで、じわりとファン層を広げている」という。

「生姜部」とは、永谷園が生姜という素材を究めるために、社内の部門や職位を超えて多種多様の人材を投入し、専用の試験農場を整備し、さらには消費者を「社外部員」として巻き込んで活動している組織である。2007年12月に発足。生姜を使ったレシピや製品開発を中心に、ブログやYouTubeで発信を続けている。ここではYouTubeにアップされている最新レシピを見てみよう。

「我々は自分達の手で生姜を育てることから始めて、生姜についての知識と理解を深めていく事を決意いたしました。私たち永谷園は『生姜』に本気で取り組み、新しい価値を提供していく事をここに宣言いたします」

生姜部ホームページには、同社代表取締役専務兼生姜部顧問・永谷泰次郎氏のこんな言葉が掲載されている。

単なる食材としてだけではなく、日本古来からの「冷えた体を温める」という生活の知恵から得た効用を消費者に提供すること。生姜の効用を知る者はいても、それを丹念に製品化して消費者市場に根づかせるのは難しい。新商品のライフサイクルが短い昨今の市場環境を考えれば、企業として、「生姜にコミットする」と“宣言”してしまうのは、大変勇気のいることだ。

生姜部は同社にとって、何にも代え難い価値をもたらす。「永谷園」という企業ブランドを高めてくれるのだ。以下、活動の効果を細かく見てみよう。

生姜が変える永谷園のイメージ

■製品(Product)価値の向上

永谷園の製品で思い浮かぶものは何だろうか。

お茶漬け、ふりかけ、即席みそ汁、ちらし寿司やチャーハンやそうざいの素……などだろう。それらは消費者にとって、もしくは家庭でどのような存在だろうか。「ササッと食べられて便利」。「ササッと料理が作れて便利」。つまり、手間や時間短縮(Timesaving)という効用を提供してくれる。

一方、生姜部が開発した、スープや飲料、菓子などを展開する「冷え知らずさんの生姜シリーズ」はどうだろうか。「冷えを解消する」「血行をよくする」という、女性特有の悩みに向けた製品である。その効用は単に「便利」を超え、「これがあって良かった!」という気持ち(Peaceofmind)を提供する製品であるといえる。

つまり、生姜部の製品は従来の永谷園製品より、一歩消費者の心に入り込んで、「なくてはならない存在」というポジションを獲得することができるのだ。

■プロモーション(Promotion)効果の増大

前述の「社外生姜部」の効果も無視できない。

社外生姜部には二つの会員資格がある。「オンライン部員」と「特別生姜部員」だ。オンラインはメールを中心とした気軽に参加できる資格であるが、特別生姜部員は生姜レシピのムービーへの出演や商品開発にも携われる代わりに、「生姜履歴書の提出と面接試験」がある。前項で述べた、「これがあって良かった!」という気持ちを提供する製品は、「熱狂的なファン」を生むのである。

元東京大学大学院教授・丸の内ブランドフォーラム代表の片平英貴氏が提唱している「AIDEES」という消費者行動モデルがある。製品を認知(Attention)・関心(Interest)・欲求(Desire)した後に経験(Experience)し、その良さに惚れ込み(Enthusiasm)、人に推奨(Share)するというものだ。

伝統的な消費者行動モデルであるといわれるAIDMAに代わる、インターネット時代の新たな行動モデルといわれるAIDEESが生姜部では正に現実のものとなっている。冒頭に示した日経ビジネスの記事では、「季節ごとに入れ替える飽きさせないメニュー構成や口コミ効果も手伝って売れ行きは順調に伸びた」と分析している。生姜部とその製品の価値は口コミによって喧伝されていくのだ。

生姜が変える永谷園のチャネル

■チャネル(Place)露出効果の増大

従来の永谷園商品は、スーパーの棚、コンビニの棚の一部に収まっているにすぎなかった。しかし、「冷え知らずさんの生姜シリーズ」は展開スペースを大きく拡大することに成功している。ナチュラルローソンでは、他社の生姜製品も含めてではあるが、過半を同シリーズが占めた「冬に向けた生姜特設コーナー」を展開した。

JR東日本管内のエキナカで1万台の自販機を展開するJR東日本ウォータービジネスは、冬に向けたホット飲料強化の方針とマッチする「冷え知らずさんの生姜シリーズ・生姜チャイ」を自販機に導入した。また、今月17日発売の新製品は、食品流通各社の菓子棚に導入されることだろう。

従来の永谷園ではあり得なかったチャネルを開拓、さらにその中でも、飲料やスープという棚をがっちり確保している。それによる売上げ増大だけでなく、「永谷園ってこんな製品も出しているんだ」という消費者の認知を獲得する効果も発揮できる。

■売上げ・利益拡大効果

従来の永谷園製品は「お茶づけ海苔」=「お茶漬けを食べる時」、「チャーハンのもと」=「チャーハンを食べる時」しか用いられないのが基本だ。そのことからすると、購買頻度(Frequency)はあまり期待できない。それゆえ、様々な商品アレンジを展開し、一人の顧客にクロスセル(併売)して購買総額の向上を図ってきた。

しかし、「冷え知らずさん」シリーズは単体の製品、例えば飲料や菓子であれば、お気に入りの商品の購買頻度は高くなる。また、シリーズ製品の併買率も高くなることが期待できる。従来にない、「顧客生涯価値」の向上が期待できるのだ。

■ポジション(Positioning)・ターゲット(Targeting)拡大効果

ここまで、生姜部の活動、および「冷え知らずさんシリーズ」の効果として、マーケティングの4Pの要素を順不同で見てきたが、四つのPが整合し、かつ相乗効果を発揮している「マーケティングミックス」が実現できていることがわかる。

マーケティングの鉄則は、4Pの前に、それがターゲットに受け入れられるのかという、「ターゲティング」がしっかりしていることが求められる。従来製品が、手間無く料理を作りたい主婦層や、ササッとご飯を食べてしまいたい単身層を中心ターゲットにしていたのに対し、「冷え知らず」というポジショニングを構築して、若い女性やOLをはじめ、全女性にターゲットを拡大することができた。

さらに、派生商品である生姜ジュース「つよいぞ!ジンジャーくん」で子供を取り込み、菓子製品は男性にも拡大できる可能性を秘めている。

■環境(3C:Customer・Competitor・Company)はどうなのか?

永谷園という企業自身(Company)にとっては、戦略的に重要な事業であり、上記の通り効果を上げているといえる。では、それを取り巻く環境はどうなのか。ここまで述べたように、顧客(Customer)からは受け入れられている。では、競合(Company)はどうか。

正直なところ、競合となる明確な存在は見あたらない。それは、「冷え知らずさんシリーズ」という製品を生み出すまでに積重ねた、同社の苦労が並大抵ではなく、そこに追いつくまでにはまだまだ時間がかかることを意味している。

FMA(FirstMover'sAdvantage=先行者優位)を発揮するのはこれからで、ますますの活動とその成果が期待できる「生姜部」なのである。

生姜部が今後、永谷園の「生姜ブランド」を確たるものにすることは間違いない。さらにそれは、永谷園本体のブランド価値も確実に高めるだろう。

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