経営者としての自己を俯瞰し、社内変革でチロルチョコを未来へと導く

超ロングセラー商品として、多様な世代の人々から愛され続けるチロルチョコ。同社の経営者として30歳で先代からバトンタッチを受け、以来、抜群の自己認識力とバランス力で社内での対話を重視しながら変革を進める4代目社長の松尾裕二氏に聞いた。(全2回、前編)

部門のバランスを調整し、イノベーションを起こす

梶屋:松尾さんは、組織変革を行いながら、新しいマーケットも開拓し、先代とは異なる取り組みで変化を起こされている。シュンペーターの言うイノベーションを起こしておられると思います。既存の仕組みを壊すことを含めて、どのようにイノベーションを進めてこられましたか?

松尾:イノベーションを起こしているという自覚はないのですが、当社の問題点は、製品の種類が多く、欠品が多かったことです。その理由を突き詰めていくと、開発部門の意見が強くて、製造部門や営業部門が弱いことに行きつきます。良くも悪くも、(父であり、先代の)会長のトップダウンで「アイデアが生まれたら商品を出す」というスタイルでやってきたので、生産計画や販売計画は後回しになっていました。

製造ラインは同じものを造り続けるほうが効率的なのですが、欠品が発生し始めると、短時間でラインを切り替えなくてはなりません。そういった状態が毎年のように続いていたのです。

梶屋:お客様への納品が間に合わないということですね。

松尾:そうです。一般的には、生産計画に合わせて予算を組み、営業計画につなげるといった流れが当たり前だと思いますが、それが全然できていなかった。ですから、まず欠品をなくそうというのが最大のテーマでした。

では、どうすれば欠品しないようにできるのか。皆で考えた結果、商品数を減らすとか、生産ラインでなるべく同じものを長時間つくろうといった意見が多く出ました。皆も「やっとここに取り組んでくれるか」と感じたと思います。

梶屋:変革を行うとき、チームや組織の危機意識を高めることも一つの肝だと思います。どのように高められたのでしょうか。

松尾:実は危機感は既にありました。営業担当者は、お得意様から直接クレームを受けますから、危機感を肌で感じていたと思います。製造ラインとしては、ひっきりなしにラインを交換しなくてはならない。これで生産が間に合うのかという危機感やストレスがあったと思います。

さらに、欠品によって顧客を失う危機感もあります。毎年のように欠品しても次の期もなんとか商品を仕入れてもらえていましたが、早晩通用しなくなってしまうでしょう。ただ、会長としては、在庫を持って潰れた会社はあっても、欠品して潰れた会社はないと考えていたようです。

適度な欠品ならともかく、年によっては毎週のように欠品する商品が増えていった。この危機感は相当なものでした。

在庫の持ちすぎは良くないという認識は私も同じですが、適正に在庫を持ちながら回していくという発想がないと、どこかで痛い目を見るのではないか。そう感じていたのです。

梶屋:それを分かってもらうことは難しかったのでは。特に現場の方は、頭では「変えなくてはダメ」と分かっていても、「当たり前」に染まっていると、自らは変革しにくいと思いますが。

松尾:トップのアイデアがベースとしてあって、しかもそれによってここまで会社が成長してきていることも事実ですから、あまり強く言えなかったのだろうと思います。

「消費者、お得意様、社員を少しでも幸せにしたい」

梶屋:変革に際して、迷いはなかったのですか。

松尾:オーナー家だからこそ、できたのだと思います。商品数を減らすといっても、半分に減らすといった大胆なことではなく、売り上げの良くない商品をやめたのです。2、3カ月に一度出る季節物の商品は、当時でもある程度の売上があったので、そこに関しては大きく変えることなく、クリスマスや年末年始向けの商品で、あまり売れないと分かっている商品をまず整理しました。そういう大きなインパクトにならないものから削減したので、お客様も「商品が減ったな」とはお感じにならなかったと思います。

梶屋:松尾さんは、マーケターとして数字の裏付けを大切にする一方で「思い」も大事にされています。トップメッセージには「“笑顔の連鎖”を実現したい」と書かれている。経営理念と事業戦略のバランスをとるうえで大事にされていることはありますか。

松尾:自分の「器」と表現すればいいのでしょうか。経営者の器としては、有名な経営者さんのような、規模感のある人間ではないと自覚しています。ですが、当社の商品を手に取ってくださる消費者様、お得意様、そして社員といった、自分と関わってくれる人を少しでも幸せにしたいと考えています。そう思ったときに、「笑顔」というキーワードが最初に出てきたのです。

対話重視のディフェンス型経営者として

梶屋:謙虚な方は、ある一点においてはとてつもない自信をもっておられる方が多い。松尾さんも、そういうものをお持ちでしょうか。

松尾:数字を見たり枠組みをつくったりするのは好きですね。

梶屋:物事を構造的に考えることによって、変革すべき課題も発見しやすくなりますよね。

松尾:問題発見はすぐにできます。例えば、サラリーマンが飲み屋で「うちの会社のここがダメだ」と言うのも問題発見です。半分は的外れかもしれませんが、的を射ているところもある。でも、役職や立場上、解決や改善にまでは至らないことが多いだけです。

私は、入社してから現場は1年ずつくらいの経験しかないので、開発や製造にしても、営業にしても本質的な部分は理解できていないのかもしれません。しかし、逆にそれがよかったかもしれません。課題を見つけたら、まず社員に聞くようになりましたので

梶屋:サラリとおっしゃいますが、そういう雰囲気はなかなかつくれないものです。

松尾:決めるところは決めさせてもらうけれども、皆の意見も聞くようにしています。ディフェンスが得意なタイプの経営者といえるかもしれません。また、基本的に人に嫌われたくないので(笑)、ゴリゴリと物事を前に進めていくようなスタイルだと精神的にも疲れてしまう。一方、会長はオフェンスも得意な牽引型のリーダーですね。

梶屋:ディフェンス型のリーダーシップというのは、共感を広げながら人を動かしていくイメージでしょうか。

松尾:会長と私のコントラストも大きいと思います。会長がいてこその私で、それが言いやすい空気をつくったのだと思います。もし、私が会長と同じようなタイプだったら、そうではなかったかもしれません。

梶屋:自分のリーダーシップの形を、状況や相手によって謙虚に、丁寧に変えていくのですね。

松尾:経営陣と社員のバランスが10:0ではいけませんし、その逆も当然良くない。その時々によって6:4にしたり7:3にしたりするイメージでしょうか。数字とか経営に対する責任感は経営陣の考えを尊重しつつも、現場の意見も正しいものはケースバイケースで受けとめるのです。

(後編につづく)

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