行政の役割は共創を仕掛けていくこと【札幌市産業振興部長/一橋基】

今、行政の在り方に変化が求められる中で、様々な新しい取り組みにより札幌の地域活性化の中枢を担っている「札幌市」。その中心で活躍する経済観光局 産業振興部長の一橋基氏が、行政と地域との関わりやこれからの札幌市を担う若い世代にかける想いとは。

「行政が担う」から「共創の時代」へ

篠田:行政が全公共サービスを担い続けることが難しくなっていくと言われる中で、札幌市としてはどのような形や役割を目指しているのか?

一橋:以前は、行政機関として多くのサービスを直接担っていた。一方で、行政サービスだけでは賄いきれない部分については、例えば第三セクターの財団法人などに依頼してきた部分がある。今は、さらにNPO法人や民間と一体になってサービスを進めていく段階にきている。そしてこの先は、行政が直接行うサービスは益々少なくなってくると考えている。

篠田:それは具体的にはどのような形で実践している?

一橋:札幌市が特に力を入れているのは、オープンデータ化だ。行政のデータを公開することで、これまで行政が担っていたサービスを民間が代替してくれることを目指している。

例えば、札幌市では「さっぽろ保育園マップ」という保育園の空きが確認できるサイトがあるが、これは札幌市が公開したデータをもとに、任意団体が情報を整理して運営している。つまり、データを公開したことで、これまで行政サービスであった部分を民間が代替してくれているということ。行政が直接運営するよりもスピードやコスト面でのメリットが大きく、何よりもコミュニティーづくりという点でも意義がある。

オープンデータの効用は他にもある。行政では1組織が1つの目的に応じてデータを収集し、そのデータは当初の目的にしか使われない傾向がある。一方で、オープンデータを実施することで、実は自組織のデータと隣の組織のデータとを掛け合わせることでよりよい情報になるということに気が付ける。さらに言えば、データは行政のデータに限る必要はなく、民間が持っているデータと掛け合わせることもできる。こうして生まれる新しいデータによってさらに良い価値が提供できるので、これを益々推進していきたい。

篠田:「共創」の時代となり行政の在り方が変わる中、行政として残していかなければならない役割はどんなものだと考えるか?

一橋:責任を持つということだと思う。ただ、行政の職員は真面目な方が多いので、責任を取るとなると自身がデータをすべて管理して信頼性も担保しなくては、と思ってしまう。もちろん責任を持つということは大前提としてあるとしても、どこに責任の力点を持っていくのかというのはこれから考えていく必要がある。例えば、1から10の全ての工程を行政で行うのではなく、監修は行政が担当し、運営は民間に担当してもらえばよい。こうした役割分担ができれば、行政サービスの在り方はかなり変わってくると思う。

「共創の時代」に求められるものは「外に目を向けること」

篠田:実際そうした分担を進めていく中で、課題になっていることはあるか?

一橋:一番の課題は行政の中にあり、「行政の職員の真面目さ」に関係しているのかもしれない。我々がやってきた仕事のやり方や考え方は転換期にあり、仕事の文化を変えなければならない。これまでは「情報をきれいにまとめて紙に書いて出す」「情報をエクセルにまとめて出す」といったことが仕事の基本だと思ってきた。でも、今は仕事の力点が変わってきているので、我々の価値観も変えていかなければならない。ただ、これまで脈々と続いてきた価値観を否定して変えていくというのは並大抵のことではない。

篠田:仕事に対する価値観を少しずつ変えなければいけないという文脈のなかで、行政の人材に求められるものも少しずつ変わっていくのか?

一橋:よく言われていることだが、コミュニケーション能力は非常に大切だ。これまでの公務員は、役割が法律でしっかりと決まっており、それに基づいたマニュアルに沿って確実に間違いのないようにこなすことが求められてきた。現在も当然根本には法律や制度はあるが、その上でどれだけ柔軟に考え、変えていけるかということが求められていく。

こうした考え方や仕組みを変えていくという営みは、独りよがりでは到底叶わない。だからこそ他部門や他の自治体、都道府県、国、民間等と、そしてそのサービスを受けるであろう市民ともコミュニケーションを取りながら進めていく力が求められる。これからは、「コミュニケーションの必要がなく、規則でマニュアルが決まっている仕事」はITやAIに代替されていくと思う。だからこそ、コミュニケーションが大事になっていく。

篠田:どんな想いを持った方に入ってきてほしい、あるいは実際入ってきていると感じているか?

一橋:正直な話、「この町のために尽くしたい」「この町を変えたい」と思って入ってくる行政職員はそんなに多くない。でも、入ってきてから想いを持つようになることが多い。私自身、強い想いを持って入ってきたわけではないが、仕事の中で民間の方々とやり取りをするようになってから、「この人たちのために働きたい、役に立ちたい」と思うようになった。

仕事へのやりがいや価値の感じ方は、どこに評価軸を置くかで2パターンあると思っている。組織に評価されたいか、それとも市民や民間企業の方に評価されたいか。これから求められるのは、後者の行政サービスを受けた方や民間企業の方に「ありがとう」と言ってもらえるような人材だと思っている。

私の場合は自身の原動力も、民間の方々・地元の人たちに評価してもらえるか、喜んでもらえるか。これまで長年一緒に協業してきた、「この人たちの想いを叶えたい」と思っているし、彼らとのつながりが自分の財産でもあると思っている。

若い人たちが自由にチャレンジできる場所を作りたい

一橋:以前、札幌では理系の学生の就職先がそれほど充実していなかった。「ないなら自分たちで作ろう」ということになり、80~90年代に特にITベンチャーの企業ブームが起きたのが「サッポロバレー」という。当時は札幌にたくさんの会社ができて、雇用もたくさん生まれていった。けれども、そのままの形を残すことが出来ず、それらの企業も徐々に中央のIT大手企業からの受託型が増えていった。それと同時にIT企業の労働環境が悪化して下火になっていってしまった。

篠田:今また多くのITベンチャーやプロジェクトが立ち上がってきているようだが?

一橋:最近になって、もともとIT企業にいた人たちがスピンアウトして作った企業や新しいITベンチャーが、これまでになかったソリューションやサービスを提供し始めている。さらに、いい動きとしてNo Mapsというイベントも軌道に乗ってきた。

もともと札幌はあまりしがらみのないところなので、新しい挑戦が本当に自由にできる場所。だからこそ、若い人たちにはぜひ自由にいろいろな取り組みやチャレンジをしてほしい。一方で、若い人たちがチャレンジをしたいと思っていても、そこに投資する人がいないとだめだ。その投資を呼び込むための仕掛けとして作ったのがNo Mapsだ。2016年に始動して2017年から本格的に始めているので、今後どんな形でつながっていくかが楽しみだ。

篠田:今後盛り上がっていくと「サッポロバレー2」が起こるという期待が持てそうだが?

一橋:まさにその期待を持って今取り組んでいる。これをさらに盛り上げるには、若い人たちも活躍できる場所があることをもっと見せていく必要がある。だからこそ札幌市全体で、国内全国・海外へのPRをしていきたいと思っている。「No Mapsに行ってみようか」「No Mapsに出してみようか」ということだけではなく、「そこに相談してみたら何か動きが出てくるかも?」「そこで誰かに聞いてみたら、良いアドバイスがもらえるかも?」と思うきっかけとして機能したらいいなと思っている。

札幌の強みは、行政・大学・民間企業の距離が近いところ。一般的に行政には壁を感じると思うが、札幌の場合は互いのキーマンが電話1本、メール1本で連絡が取れるような距離感でつながっている。こういった関係性の中で、仕事のような、遊びのような延長でやっていたのが初期サッポロバレーの人たち。だから実はNo Mapsも若い人だけが参加しているわけではなく、60代ぐらいの第1期サッポロバレー世代の人たちも、面白いと思って参加してくれている。縦(世代)も横(産官学)もつながったイベントになっているのはすごく良い動きだと思っている。結局、ビジネスは人と人とのつながりが「とっかかり」となって始まるので、それを大事にしていきたい。

いま大事なのは地域で人を育てること

一橋:今やらなくてはと思っているのは「人づくり」。ITだけではなく、どの業種・業界にとっても人づくりがこれからの最大の課題。新しい事業の立ち上げやベンチャー企業を作る中で、同時にどのように人を育てる会社を作っていくかがこれからのポイントとなってくると考えている。

篠田:「人づくり」には行政としてはどのようにかかわっている?

一橋:我々が育てたいのは産業人材なので、学校教育とはまた別のアプローチをしている。

例えば、小・中学生の段階からキャリア教育という形で自分たちのキャリアデザインがきちんと描けるような機会を持たせるというのが行政の役割。そして大学生になればある程度自分の道が見えているので、彼らが望んだ道で働くための素養を付ける支援をしている。これは大学に支援する場合もあれば、行政が直接支援する場合もある。あとは、もちろん既に就職している人たちに対する支援も行っている。キャリア教育はこれから非常に大事になっていくと思う。

篠田:人生100年時代には「これがやりたい」と思うものを持つことが非常に大事である一方、志は急には醸成されにくいので若い時から考えていることが非常に大切と感じる。

一橋:確かに、本人たちに働きかけることはもちろん大事。加えて、中学生くらいまでのキャリア教育は親にどのように考えてもらうかも重要なので、それに対する取り組みも始まっている。

篠田:具体的には?

一橋:例えば、子ども向け職業体験会という企画に親も一緒に来て体験してもらっている。親は少なからず「自分の子どもにはこういう仕事をしてほしい」という期待を持っていて、その中には、「この仕事は良い、良くない」という思い込みも含まれていたりする。そういった思い込みを変えていかないと、子どもがせっかくやりたいと思っても親が反対して叶わなくなってしまう場合もある。でも、実際に体験会で見てみると、これまで持っていたイメージや認識が変わっていくことがある。そうした認識変化のきっかけづくりを業界と一緒にやっていきたいと思っている。

篠田:そうして育った若い方にどんな期待を持っているか?

一橋:「チャレンジができる札幌」という環境でたくさん挑戦してほしい。「○○という仕事があるからこれをやろう」というのももちろん良いが、それでは今世の中にある仕事の中からしか選べないということになってしまう。むしろ、「○○という仕事に就きながらこんなチャレンジができる」とか「自分が漠然とやりたいと思っていることが札幌に来たら実現できる」というような可能性を見つけて、キャリアを自由に描いてほしいと思っている。

自分の町を元気にしたいというシンプルな想い

篠田:最後に、一橋さんの「地方創生」に対する考えをぜひお伺いしたい。

一橋:「地方創生」自体が東京の人たちの考えだと思ってしまう。私たちは別に「地方創生をやっている」とは思っていなくて、自分の住んでいるところで自分の町を元気にしたくてやっていることなので、それを地方創生って言われるのはなんとなく違和感はある。

一方で、地方も地方創生に寄りかかっている部分が少なからずある。中央から予算や支援をもらえるからだ。こうした、いわゆる委託・受託の関係では中央(東京)を見ている部分もあるけれども、一方で札幌はIT産業やクリエイティブ産業で何か新しいことをやっていくときには、あまり中央を意識してない。「自分たちがやりたいことを一緒にできるところと直接つながりたい」という思いが強く、福岡などの地方都市や海外と直接つながっていくこともある。自分たちがやりたいことをきちんと考えて、自分たちがやりたい相手と直接つながってやっていく。これからはそこが一番大事かなと思っている。

篠田:外から「地方創生」を掲げて入ってくる方についてはどう思うか?

一橋:本当はシーズ(=アイディア・新しいビジネスの芽)もニーズ(=需要)も我々が持っていて、そこに対してのアプローチであればもちろんお話をお聞きしたい。けれども、単に自分たちの持っているものを売りたくて来る人が多くて、それも「モノを売りたい」というパターンと「自分たちがやりたいことが、ここならできそうだ」という2パターンがある。前者の「自分たちがつくった○○ソリューションがあるので、これを札幌市で使うとこんないいことがある」というタイプのものには全く心惹かれないが、後者の「寒冷地でないとできない△△のプロジェクトをやりたい」ということであれば、100パーセント支援するし、ぜひ一緒にやりたいと思う。ぜひ「札幌で一緒につくっていきましょう」という想いを持った方をお待ちしている。

まとめ

行政の在り方が変化する中で一橋氏が大切にされていることは、外とのつながりを活かして共創していくこと。その根底には、「若い人たちが挑戦できる場をつくりたい」「地元の人たちの喜ぶ顔が見たい」という温かな想いがある。こうした想いを持った大人たちが「産官学」の壁を越えて強い絆を持つ札幌市だからこそ、今後も新しい潮流や活動が生まれてくるに違いない。

次回は、「行政」とはまた異なる視点や立場から地域活性化を取り組まれている、株式会社ライブプロ 岩野 祐二氏のお話をお届けする。

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