成長産業、スポーツ界に有望な人材よ集まれ【間野義之氏インタビュー】

グロービス経営大学院は、2019年7月から日本トップリーグ連携機構の協力の下、特別講座「スポーツ・マネジメント」を開講します。東京オリンピック・パラリンピック開催を控え、スポーツビジネスの飛躍的な成長が期待される一方、経営人材の不足が課題とされています。今どんな人材、知識やノウハウが求められているのでしょうか。今回は、この分野の第一人者、早稲田大学スポーツ科学学術院の間野義之教授にお話を聞きました。(文=荻島央江)

「ゴールデンスポーツイヤーズ」でスポーツ界が変わる

田久保:今年9月からラグビーワールドカップ、来年は東京オリンピック・パラリンピックが日本で開催されますね。日本のスポーツ業界は盛り上がっていますか。

間野:大いに盛り上がっていますよ。これらに加え、2021年には「ワールドマスターズゲームズ」も関西で開催されますからね。これは、概ね30歳以上のスポーツ愛好者であれば誰もが参加できる生涯スポーツの国際総合競技大会です。この3大会が同一国で連続開催されるのは世界で初めて。僕はこれを「ゴールデンスポーツイヤーズ」と名付けています。

今後、ゴールデンスポーツイヤーズ方式が世界で採用されていくと思います。実際、仏パリでも23年にラグビーワールドカップ、24年オリパラ、25年ワールドマスターズゲームズが開かれます。米国はこれにFIFAワールドカップを加え、26、27、28、29と4年連続で世界大会の実施が決まっています。米国はこの機会を見逃さないでしょうから、恐らく10年後、スポーツビジネスはもう一段上のステージに移る。その口火を切るのが、19年から始まる日本のゴールデンスポーツイヤーズだと考えています。

15年に文部科学省の外局としてスポーツ庁が設置されました。スポーツ庁はまさにスポーツ界の悲願でした。新設したからには、何か新しい政策を打ち出さないといけません。

同時に安倍内閣の経済財政政策で、名目GDP500兆円を戦後最大の600兆円まで引き上げることが掲げられました。いかに100兆円を上積みするか。何か新しい産業がほしい。そこで注目されたのが、スポーツ産業です。

この市場規模を12年時点での5.5兆円から、25年に15兆円まで拡大させようという数値目標が、経済産業省とスポーツ庁が共同で設置した「スポーツ未来開拓会議」で決定しました。僕はこの座長を務めていたのですよ。

日本再興戦略2016に「スポーツの成長産業化」が初めて明記された。それまでスポーツのスの字も出てこなかったですからね。今、業界は勢いづいています。

田久保:本当の勝負は、いろいろな課題が透けて見えてくる東京五輪後のような気がします。五輪後の日本のスポーツ界にはどんなことが起きそうでしょうか。

間野:当然、政府からの公共投資は減ります。その意味では、スポーツの成長産業化というレガシーを今からどうつくって、21年以降に遺すのか。放っておくとオリンピック・パラリンピックがゴールになってしまう。ゴールではなくスタート、もしくは通過点にしないといけない。そのためには10年後、20年後を見越して、今からスポーツビジネスを仕込む必要があると思っています。

スポーツの成長産業化にはビジネスマインドが必要

田久保:そのためには何に取り組むべきでしょうか。

間野:スポーツの成長産業化にはビジネスマインド・ビジネススキルが必要です。これをスポーツ産業に関わる人に身につけてもらうのと並行して、すでにビジネスマインド・ビジネススキルを持っている人にスポーツ産業に飛び込んでもらう、この両方が必要でしょう。短期間で産業を成長させるには、とりわけ後者は極めて重要だと思っています。

田久保:まず、前者のスポーツ関係者へのマネジメント教育については、どのような取り組みがありますか。

間野:03年に国内初のGM養成講座として東京大学でSMS(Sports Management School)が開講されました。その後、日本サッカー協会が04年にJFAスポーツマネジャーズカレッジ(SMC)を始め、続いて日本スポーツ協会(旧日本体育協会)でも、スポーツ指導者の資格の1つとして、クラブマネジャーというマネジメント資格を2006年につくっています。

しかし、これらにも限界があります。マネジメント資格の場合、サッカーくじの収益金と組み合わせて、3年間だけ給与を支給しました。その間に、自立できるようになってほしいという趣旨ですね。東京の場合だと、月30、40万円です。しかし、結果的にあまりうまく回りませんでした。

田久保:補助金的制度は、それに頼ってしまう構造を生み出しがちですよね。

間野:ベンチャー的な気概というか、雇われではなく起業するぐらいの気持ちがある人にスポーツビジネスに飛び込んで来て欲しい。

競技への思い入れが障壁に

田久保:お金を儲ける仕組みをつくり、それを規模化できる人でないと難しいということですね。ビジネススクールに、どんな人材の育成を期待していますか。

間野:自分が手掛けているビジネスのノウハウを、どうスポーツに応用するのかをきちんと考えてくれる人材を育ててほしいですね。そして、そういう人に、ぜひスポーツ界に参画してほしいです。確かにスポーツ産業は扱う商材にやや特殊性がありますが、特殊な産業として考えすぎることなく、少し引いて選手を含めた商材や顧客、ステークホルダーを客観的な視点で見られる人、情熱がありながら冷静な人が必要です。せっかく学んでも「俺はこの競技が大好きだから、安い給料でもやるよ」という人では困ります。

田久保:極論すれば、ビジネスとして割り切ってやれる人のほうが、産業化のためにはいいかもしれませんよね。

間野:重要なポイントだと思います。思い入れが強すぎると、ある意味、良くないんです。具体的に言えば、給料が安くても、頑張ってしまう。スポーツは魅力があるから、それでもやりたいという人はどんどん入ってくる。ローコストオペレーションで回して、人を入れ替えていくだけ。これでは発展しない。

私のゼミでも、「スポーツチームに行きたい」という学生が毎年1人ぐらいいますが、実は、あまり勧めません。勧めない理由の1つは、スポーツ産業の多くが、先ほど言ったように薄給だったり、長時間労働体質だったりするからです。加えて小規模事業者なので教育・研修が充実していません。もう1つの理由は、ガラスの天井があって、親会社から来た人しか役員になれないからです。「やりたいなら、親会社に入りなさい。親会社でそれなりに結果を出して、『子会社のスポーツチームで働きたい』と言うほうがいい。急がば回れだよ」と。

田久保:早稲田大学のスポーツ科学部出身でも今のところ、スポーツ業界で給与面など含めて、真っ当な道を歩めるオプションはあまり多くはないのですね。これが、先ほどご指摘のあった合理的に、科学的にマネジメントできる、ビジネスマインドの高い人がもっとスポーツ界に越境してくるような状態をつくれればとてもよいという話につながるのですね。

ビジネスセンスのある人材がスポーツ界に続々参入

間野:先ほどスポーツの成長産業化のためには、ビジネスマインド、ビジネススキルを持っている人にスポーツ産業に入ってもらうことが必要だと言いましたが、最近はそういう人材が徐々に増えています。

国内男子プロバスケットボールリーグのBリーグは顕著な例です。2016年からの3シーズンで、300億円産業まで成長しました。産業全体としてはまだまだ小さいけれど、ゼロに近かったものを、ここまでにしたのは大河(正明)さんというチェアマン。大河さんは京都大学から三菱銀行に入行し、経営企画などに携わっていた人で、Jリーグへの出向経験もある。川淵(三郎)さんが大河さんをJリーグへ引き抜き、鍛えて、今度はBリーグに入ってもらったというわけです。

Bリーグだと、「千葉ジェッツふなばし」はとても良い経営をしています。ほぼ残業ゼロで、チームも強いし、売り上げも観客動員数も多い。バスケットボールとは関係のない、島田(慎二)さんという会社経営者が12年に社長に就任して変わりました。島田さんいわく、社員の生活もあるし、健康もあるし、普通に考えたことを淡々と合理的にやっているだけらしいけど。B2の「茨城ロボッツ」のオーナーになった堀(義人)さんも、もともとバスケットをやっていた人ではないと思いますが、とても良い感じですよね。

Jリーグのチェアマン、村井(満)さんはリクルート本社の執行役員や、子会社の社長まで務めた人です。OTT事業者のDAZNとの10年間で2,100億円のライブストリーミング契約には驚きました。

横浜DeNAベイスターズの社長の岡村(信悟)さんもそう。彼は元官僚で、総務省出身。非常にバランス感覚の優れた方で、ビジネスは当然だけれども単にお金だけ稼いでも駄目で、地域と一緒になってやらなければいけないと行政と連携したスポーツタウン構想を打ち出しています。

田久保:NSGグループの代表で、アルビレックス新潟の会長を務める池田(弘)さんもすごいビジネスセンスですよね。

間野:池田さんは新潟の地域活性化のために、ビジネススクールや専門学校を設立して若者を集めたが、それだけでは足りないと。若者を夢中にさせる何かが必要だと考えて、アルビレックス新潟をつくった。池田さんは現代の渋沢栄一ともいえる人で、スポーツ関係の会社だけで10社以上を持っている。サッカーにしろ、バスケットボールにしろ、野球にしろ、すべて独立採算でやっています。

若手経営者でも、スポーツ・マネジメントをやってみたいという人が増えています。ジャパネットたかたの髙田(旭人)社長は40歳ですが、V・ファーレン長崎を経営し、自己資金で長崎駅前にスタジアム・シティの整備を手掛けています。

田久保:去年の12月に、モバイルゲーム事業などを手掛けるアカツキが東京ヴェルディを傘下に収めました。アカツキの代表の塩田元規さんはまだ36歳です。IT業界の若手経営者の旗手のような人物なので注目しています。

満員にするためにあの手この手を尽くす

田久保:そもそもスポーツビジネスとは、どんなビジネスなのでしょうか。

間野:スポーツビジネスの基本は、とにかくスタジアム・アリーナを満員にすること。満員になると、チケットを買えない人が出てくる。そういう人たちのために放送がある。放送で露出すると、そこに看板や広告、ネーミングライツが付いてくる。つまり、とにかく満員にしないと何も始まらないのです。

田久保:ということは、勝たないと駄目ですよね。

間野:ところが、そうとは限らない。例えば、横浜DeNAベイスターズ。上位ではないけど、着券率(発券した数に対する来場者の割合)は98%と抜群に高い。巨大な居酒屋にするというのが、ベイスターズのコンセプトです。仕事帰りにみんなで盛り上がって、楽しかったらからまた行こうねって。もちろんチームが勝つことは重要な条件の1つだけど、それだけじゃない。

最近のアメリカの新しいスタジアムなんて、座席よりもスタンド裏やコンコースが充実している。様々なタイプのラウンジでビジョンを見ながら、好きなものを飲んだり食べたりして、みんなでわいわいやっていますよ。

田久保:球場内にあるスポーツバー状態ですね。

間野:そう、巨大なスポーツバー、あるいは巨大なスポーツの接待場。VIP用の個室観覧席が数多くあって、所有している企業は取引先をもてなすこともできます。「ご家族でどうぞ」と特別なチケットを渡されると、お父さんは鼻が高いし、家族の前でいい顔ができる。すると商談が成立する可能性も高まる。夜の街での接待もありですが、スポーツ観戦接待は健康的で特別感も高いと思います。

今、そういう意味では日本で一番面白いスタジアムは、野球なら広島東洋カープの本拠地である「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島」です。座席を33種類も設けていて、バーベキューが楽しめたり、バスタブから観戦できたり、誕生会ができるパーティルームがあったりします。

田久保:そういう楽しみ方があると、勝ち負けの重要性が低くなる。「勝ったらもちろんうれしいけど、負けても楽しかったからいいや」というほうが、リピーターは獲得できますよね。

間野:ベイスターズは、行くたびに何か企画をやっています。今も、横浜スタジアムを増築・改修工事中です。東京五輪での野球・ソフトボールの競技会場なので、それに向けて座席を6000人分増やしたり、横浜港を見渡せるVIPルームをつくったり、プロジェクションマッピングの装置を導入したりしています。

スポーツギャンブリングがもう1つのカギ

間野:もう1つ、スポーツ産業を発展させようと思ったら、大事なのが、スポーツギャンブリングです。やはり米国はそれがあるから違うのだと思う。巨大なスポーツバーで楽しみながらも、どっちが勝つか、たとえ1000円でも、1万円でも賭けていたら、盛り上がり方が変わるはず。

IR(統合リゾート)の導入の議論が白熱されるなか、日本でもバスケットボールくじの機運が高まってきていると思います。また戦後間もない時期にあった野球くじについても再考のタイミングに来ているように思います。これまでかつての八百長疑惑の問題があってなかなか進んでいませんでしたが、そこさえうまくクリアできれば、一気に解禁される可能性があります。

田久保:今後、何かビジネスサイドに期待することはありますか。私自身は人材交流など、いろいろなことがあり得るかなと思っています。例えば、グロービスの社員が2年間、どこかの球団で人事を担当するとか。何か新しい刺激剤になるかもしれない。

間野:人材交流は面白いですね。ビジネスサイドだけではなく、スポーツサイドの人間が一般企業で研修するのもいい。お互いにとっていい経験になるのでは。

これからはスポーツも、民間投資の時代にしたいと思っています。これまでビジネス界の人は、スポーツは公共事業だと思っていた。球場をつくったり、スポーツイベントを開いたりするのは、行政の仕事だと。そうではなく、民間として十分投資に値するような魅力がある。アメリカでは民間がビジネスとしてどんどんスポーツに投資しています。

それと比べると、日本は正直、周回遅れです。でも、だからこそチャンスがあります。アメリカのやり方を真似すれば、それだけで儲かる。ライセンスフィーなども発生しません。だから今こそ民間投資のチャンスです。

例えば、私も手伝っているのですが、ジャパネットは長崎駅前にある三菱重工業の工場跡地に、スタジアムを中心にホテルやマンション、商業施設、オフィスを建設予定です。総事業費は500億円で、2023年の開業予定です。

田久保:ゴールデンスポーツイヤーズの3年を経て、公共事業から民間投資の時代へとうまくトランジションできたら、自律的にスポーツ産業が発展していくかもしれませんね。

間野:それにはやはりビジネスセンスをもった人材が必要です。この春、グロービス経営大学院には900名を超える社会人が入学したと聞きましたが、今回の特別講座を通じて、ビジネス界からスポーツ界に「越境」してくれる人材が1人でも多く輩出されることを期待しています。

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