「自覚力のリーダーシップ」と聞いて、みなさんはどんなことを思い浮かべますか。一言でリーダーシップと言っても、予測困難で不確実な今の時代に求められるリーダーの資質はさまざまです。その中でも必須スキルである「自覚力」について、グロービス経営大学院でリーダーシップの講座を担当し、グロービス学び放題で「自覚力のリーダーシップ」に出演する鎌田英治に聞きました。激変の時代を生き抜くために必要な「自覚力」とは何なのか、そしてそれが今求められる理由とは。
世の中に確実なことはない
鎌田は、前職の日本長期信用銀行で法人営業、システム企画、人事などの経験を積み、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担っていた際に倒産を経験しました。90年代末、バブル崩壊の後遺症から金融システムが危機に陥り、長銀は経営破綻に追い込まれたのです。
「自分の会社が潰れるという想定外のことが現実となり、“世の中に確実なこと、絶対と言えることなんて存在しない。だとすれば自分がしっかりしなければ駄目だ”ということを痛切に感じました。この原体験から“自覚”ということを強く意識するようになりました」
変化の時代だからこそ持っておくべき「自分の在り方=自分像」
「あなたは何者ですか」という問いから始まる「自覚力のリーダーシップ」。「自覚力」が求められる理由の1つ目は「時代感の中で必要性が高まっているから」と鎌田は言います。
「吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』が、漫画化されて人気になりましたよね。自分は何をする人間なのか、何者であるべきなのか。そういうことをしっかりと考えることが必要ということを、多くの人が感じ始めている、ということではないでしょうか。
現代社会は人工知能やIoT、ビッグデータなどの技術進化が激しい。それゆえに、そもそも人間が果たす役割や価値とは何か、ということ自体が深く問われている時代だと思います。そういう時代感の中で、“自分とは何か”を自覚する、あるいは自覚的に自分という存在を『自己定義』することの重要性が高まっています」
別な言い方をすると、終身雇用が当たり前と言われた時代が過ぎ、将来を確実に見通せない状況においては、自分の中にしっかりとした生き方の軸を持つことが必要です。さらには「軸を作ること」の必要性を深く認識し、“軸作り”に取り組む決意をする大前提がないと軸作りも口先で終わってしまいます。つまり、自分の人生を主体的に生きる、そのための軸を創る、そのことに対する「自覚力」が重要なのです。
「変化が激しく、移ろいやすい時代。それを不安に感じる人もいるでしょう。だからこそ『自分は何者なのか?』『何をするためにこの世に存在するのか?』という問いにしっかり向き合うことが大切だと思います。そして、その答えは『探す』のではなく、自分で『決める』『選択する』ことだと思います。
自分の頭を使って、じっくり考え尽くし、まずはこれでやっていこう、という自らの選択が定まれば、心は安定するはずです。正解がない時代だからこそ、自分の意思、自分の主観でひとつひとつ自分の未来を決めていく。そうした自覚を持つことが全てのスタートになるのではないでしょうか」
ビジネス社会がもつ競争の本質
「自覚力」が必要な理由の2つ目は、「ビジネス社会を生きる上で必要な意識」だからだと、鎌田は言います。「働く」という誰もが直面するテーマに対して、「自覚力」があることによってどんなメリットがあるのでしょう。
「ビジネスをしていく上で頭の中にしっかり入れておかなければならないことは2つ。まず、事業はお客様の支持がなければ成立しないという事実。次に、競争相手よりもうちがお客さんに選ばれなくてはいけない、つまり『競争』には勝たねばならないということ。
ちなみに、『競争』というのは、松下幸之助さんもおっしゃっていたように、新しいものや進化を生み出すことにもつながりますよね。そう考えるとビジネスにおける競争は、人間社会をよりよくしていくための原動力、社会の問題解決の源泉だと思うんです。
それでは競争に勝ち抜く上で必要なものは何か。それは、アイディアや戦略です。最終的には素晴らしい製品やサービスを生み出して、お客さんにとって意味のある、高い価値を生み出していなければいけない。
そうしたものを生み出すためには、やっぱり多くのことを学び、様々な関係者たちと侃侃諤諤の議論をし、本当にこれで行けるだろうか?お客さんの期待を超えているだろうか?と、試行錯誤を繰り返しながら、アイディアを磨いていく必要があると思うんです」
オリンピック・アスリートから学ぶ競争と自覚
「究極まで磨き上げたもので競争する」というビジネスの世界を、鎌田はオリンピックのアスリートに例えます。スポーツ最高峰の世界に人が心を打たれる理由、そこにも「自覚力」の存在が見出されるのです。
「人々が心を打たれるのは、アスリートのそこに至るまでの道のりです。精神力の強さや、飽くなき努力。多くの人への感謝みたいなものも含め、彼らのメンタリティの深いところに、生き様やしっかりとした軸がある。それこそが、今のその人たちがある理由なんだと思います。つまり“やると決めたことをやり切る努力の尊さ”、そこに彼らの深い“自覚”が見えるからこそ、心を打たれるのではないかと思うんです」
競争に勝ち抜いたアスリートが持つ「努力」や「自覚」。それはビジネスの世界でも同じだと鎌田氏は言います。そしてそれは特別な人だけが持つ力ではない、ということも。
「アスリートもビジネスの世界でも、頑張っているのはみんな同じ。その中でコンマ数秒ギリギリのところで勝つ、選ばれるというのはやはり『どれだけやりきったか』というところに行き着くと思います。精神論のように聞こえるかもしれませんが、そう単純な話ではない。アイディアや戦略、知識、そしてテクノロジーを活かして何かを生み出すということは、その前提として、その為の調査、検討、議論、実験などなど、試行錯誤の連続であり、ありとあらゆる準備をして、成果に拘っていく。まさに『どのくらいやったか』という思考×行動の総量で差がつくということです。
そしてそこにこそ、『自覚力』が関係してくるわけです。ビジネスの世界には、『自覚が必要』なんて言わなくても、勝手にスイッチが入っている人がいます。スティーブ・ジョブズとかもそうかもしれないですね。自覚とか小難しい話はなくて、俺はこれが好きなんだよっていうタイプの人には、『自覚力』の話は必要ないかもしれません。だけど実際は、そうじゃない人のほうが多いと思います。
だからこそ『自覚力』の話がしたい。自分の中の『こうしたい』とか『こういう人間なんだ』という自覚と向き合って、自分で決めていくことによって、その目標や願望に向かって全ての力を出し切る思考と行動の原動力になると思っています」
一度きりの人生で「最高にやりきった」と言うために
ギリギリのところで最後に違いを生むのは、能力よりも当事者意識。そしてその当事者意識の根っこにあるのが、自分の意志を強く認識する「自覚力」であると話す鎌田。この時代を生き抜く上でどんな人にも必要なスキルであることを強調します。では、そんな「自覚力」を身につけるためにはどうしたらいいのでしょうか。
「“自覚”という文字通り、これは他人がこうしろと言っても無理な話なので、自分で自分のスイッチを探して押すということしかないと思うんですよね。さらに“自覚力”の必要性は、ある程度の責任を経て失敗して、その原因を突き詰めた先にある“ああ、自分には自覚や努力が足りなかったんだ”という認識からしか生まれない」
失敗や挫折を繰り返して、さらに自分の深いところに向き合うことで「自覚力」を鍛えていくという鎌田。
「競争の中で『より良いものを作っていきたい』という気持ちがあるから、みんな努力するわけです。どうせ一度きりだったら、納得のいく人生を送りたいじゃないですか。本当の自分の努力を振り絞って、最後には『最高にやりきった』と言えることをやれたら、人生はもっともっと楽しくなると思うんですよね」
「自覚力」は、まさに経営を志す人にとっての必須スキルと言えるでしょう。グロービス学び放題の「自覚力のリーダーシップ」コースを見て、「納得いく人生」への第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?