プロジェクトの途中での「燃料切れ」を防げ
ミドルリーダーがプロジェクトを成功に導くために押さえるべきポイントは何か?というテーマで連載を進めてきましたが、とうとう最終回となりました。今回は最後4つ目の論点である「自分自身の想い」というポイントを整理したいと思います。
戦略的なロジックは十分。上層部からのお墨付きももらい、社内の反対勢力も巻き込んだ。でも結局プロジェクトは成功しなかった・・・。私たちはインタビューを通じてこの手の話を何度か聞く機会がありました。その背景を解きほぐしていくと、最終的にはミドルリーダー自身の「想い」が不十分だったことに辿り着いたのです。「ミドルリーダーとしての戦略論」の要諦を語るうえで、やはり「想い」は外すことができない――多くのリーダーたちの本音を聞くたびに私たちはその考えを強くしました。この4-VIEWsというフレームワークの4つ目の頂点ができた瞬間です。
若手の頃は、上司に言われた通りに仕事ができれば及第点が与えられたかもしれません。しかし、ミドルリーダーとして、プロジェクトを任せられる立場になったときにはどうでしょうか?「自分がこのプロジェクトをどうしたいのか?」という気持ちがなければ、競合からの思わぬ攻勢、急な制度変更、社内の反発など、プロジェクトの途中で起こりうる幾多の困難を乗り越える前に、「燃料切れ」になってしまうでしょう。
「関係者の対立意見を調整していたら、プロジェクトそのものが政治的な道具に使われてしまうようになり、どうでも良くなってしまった」「期限に間に合わせるために多くの妥協をしていたら、自分が譲れないものが分からなくなってしまった。単なる調整屋だと気づいた瞬間、意欲が失せてしまった」。これらはインタビューで聞こえてきた一例ですが、こういう声にどこかに身に覚えがある方もいるでしょう。ミドルリーダーがプロジェクトを成功させていくためには、プロジェクトに対して自分の想いを確実に織り込んでいく、というプロセスが重要なのです。
「意味づけること」を怠らない
では、どのようにしたら自分の想いを織り込んでいけるのでしょうか。私たちが数多くのインタビューを通じて発見した1つの行動原理は、プロジェクトに対して「意味付けることを怠らない」、という姿勢です。
プロジェクト自体には、いろいろな側面があるでしょう。たとえば、やりたくないけど仕方なく引き受けざるを得なかった、というものもあるでしょうし、最初から勝ち目の薄いプロジェクトもあるかもしれません。100%お膳立てが用意された思い通りのプロジェクトなど存在しないでしょう。しかし、経緯はどうであれ、そのプロジェクトをどう捉えるかは自分次第。どれだけネガティブな側面があろうとも、意図を持って自分の想いが乗せられるように意味づけることが大切なのです。
プロジェクトの原点に立ち戻る
ではどういう意味付けの方法があるのでしょうか。インタビューで聞けた具体的な方法として、ひとつはプロジェクトの根源的な意味に立ち戻ること。つまり、何の目的でこのプロジェクトがスタートしたのか、という原点を押さえることです。そこに立ち戻れば、必ず「誰かの困りごと」にぶつかるはずです。その困っている誰かを具体的に想像し、自分が関与することによって彼・彼女が喜んでいることに想いを馳せるのです。
「何を青臭いことを・・・」と思われるかもしれませんが、実際に立ち行かなくなった大半のプロジェクトはこういったことを怠っていたパターンでした。プロジェクトが進むにつれて、大義よりも作業が優先になり、大義という中心の杭がなくなった時に、変化の風に吹かれる。結果的に、あっという間に踏ん張りがきかなくなって飛ばされてしまうのです。「困っている誰か」の姿や状況をできる限り描写し、なぜ自分がその仕事を任されているのかを考えてみる。その行為を怠らずにやることが、1つの重要な手法です。
得られる経験やスキルを具体的に想像する
もう1つは、プロジェクトを通して得られる経験やスキルを細分化して具体的に考えてみることです。どんなプロジェクトであっても、得られることは必ずあるはず。たとえネガティブなものであっても、いやネガティブであればあるほど、リーダーの経験として得られるものは多いはずです。長期的なキャリアプランや能力開発の視点に立ち、得られることをポジティブに想像してみましょう。
もちろん、プロジェクトの全体感が想像できなければ、特定の細部に能力開発の機会を見出す、ということでも可能です。例えば、「プロジェクトとしてはかなり厳しいけど、今自分に不足しているデジタルマーケティングの能力開発につながる」という意味付けもあるでしょう。
意味付けを都度アップデートしているか?
もちろん、これらの「意味付け」という行為は、自分をモチベートさせる手法として目新しいものではないかもしれません。しかし、私たちの気付きとしては「意味付け」をプロジェクトの都度絶えず行っている、ということにあります。一度きりではなく、変化があるタイミングで「自分たちは何のためにこれをやっているのだろう?」「このプロジェクトから得られることは何なのだろうか?」という問いかけを絶えず自分に向け、そして自分の想いを常に新たに掲げながら前進しているのです。手帳やPC、スマートフォンなど、人それぞれではありますが、言語化し、視覚化していつでも立ち戻れる場所に整理していることも確認することができました。
プロジェクトは様々な方面からの変化の圧力があるものです。その変化があるからこそ、自分の想いをぶれずに中心に置いておく必要があります。誰のためにやるのか、何のためにやるのか、そんなシンプルな問いに対して、都度向き合い、答えを出しておく。そんな一工夫こそが、プロジェクトのクオリティを一段上げるために求められているのでしょう。
ミドルリーダーにとって重要な4-VIEWsとは
さて、ここまで、ミドルリーダーに求められる視点ということで、4-VIEWsという4つの視点を整理してきました。改めて、アンケートやインタビューから抽出したエッセンスをチェックリスト形式で整理して、この連載を終わりにしたいと思います。
外部環境編:External environment
1)顧客を印象論で語るのではなく事実を把握しているか?
2)偏った情報源ではなく、全体感を押さえているか?
3)社内で考えすぎて、顧客にアイディアをぶつける、という機会を減らしてないか?
内部環境編:Internal environment
1)何かをスタートする場合、必ず反対者が出ることを理解しているか?
2)反対せざるを得ない組織や人がどこにいるのか、ということを合理的に理解しているか?
3)反対する側の立場に立って考えてみたか?
上層部の意向編:Vision of boss
1)上司に対して、変化がある都度タイムリーにコミュニケーションを取っているか?
2)敢えて話さなくてもいいような些細な変化を上司と共有しているか?
3)上司のコミットメントを引き出すために、敢えて意思決定の余白を残しているか?
自身の想い編:Will of my own
1)プロジェクトの根源的な意味(誰かの困りごと)に立ち返っているか?
2)プロジェクトを通して得られる経験やスキルを想像しているか?
3)自分の意味付けを絶えずアップデートして手元に残しているか?