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絶え間ない変化の中で「変えないもの」は何か?

投稿日:2018/01/03更新日:2019/04/20

変化することは大前提だが、それだけでは疲れる

私たちは変化の激しい時代に生きています。流行やトレンドが変わる、情報や技術もどんどん変わる、働く環境や立場も変わる、プロジェクトや業務が要求する知識や能力も変わる。ついでに、上司の言うことも毎回変わる……。

私は日ごろ企業内研修の場で、働く意識づくりやモチベーション喚起の教育プログラムを実施していますが、受講者の少なからずが「果てしなく続く変化対応への疲労感」「変化の中の漂流感・自己喪失感」を口にします。

変化・無常の世界で、製品・サービスを常に変えていく、自分を常に更新していくことは、もはや大前提です。しかし、私たちは環境対応への変化だけでは疲れてしまいます。そんな中で、自分の中に変えざるものを持ちたい。いや、持たなければならない。

不変の軸のようなものを持ってこそ、変化対応も悠然とできるし、逆にその軸に沿って環境を変えていくという主導権を握れるからです。

変えていくものは何か?
変えていかないものは何か?

この問いにしっかりと自分なりに答えを持つこと。それが変化の波を楽しむための鍵になるでしょう。

ガスレンジのメーカーが売っているのはレンジではない

ピーター・ドラッカーは『現代の経営〈上〉』の中で次のように書いています───「ガスレンジのメーカーは、競争相手は同業他社と考える。しかし、顧客たる主婦たちが買っているのは、レンジではなく料理のための簡単な方法である。電気、ガス、石炭、木炭のいずれのレンジであろうと構わない」。

すなわち、顧客たる主婦たちは、料理のための簡単な方法を求めている(ずっと求めてきた)。これは「変わらないもの」です。

その料理のための方法を実現する技術として、石炭・木炭もあれば、ガスもあるし、電気もある。これらは「変わるもの」です。

だから、ガスレンジメーカーは、ガスという一つの技術に固執するな。そこに凝り固まってしまうと、技術の栄枯盛衰にのまれてしまうぞ。顧客が求めている不変の価値に軸足を置きなさい。そうドラッカーは指摘しているのです。

同じように、例えば家電メーカーで小型オーディオ製品を開発する人を考えてみましょう。彼らは数十年前まではカセットテープレコーダーによる録音再生技術や小型化のメカニズムを一心不乱に追っていました。ところが、その後は取り組みの対象がCD(コンパクトディスク)やMD(ミニディスク)による録音再生技術となり、いまでは半導体メモリによる録音再生技術となっています。半導体メモリとて、将来、どんな録音再生メディアに取って代わられるかはわかりません。

製品開発者にとって、このように劇的に変化していく技術を追い続け、儲かる仕組みにしてビジネス上で覇権を争い続けることは大変なことです。

20代や30代半ばまでなら、変化も面白い刺激になってがんばれるかもしれません。しかし、30代後半からは変化が負荷になってきます。実際、研修などでも、こうした年代からは「いつまでこの変化と付き合っていくのか不安でしんどい」というような声を聞きます。

技術や方法といった「変わるもの」をずっと追っていくと疲れが出てきます。しかし、そんなときこそ、まなざしを「変わらないもの」に向けることが肝要です。

つまり、あなたは(あなたの担当する事業は)、何の価値をお客様に届ける存在であり続けたいのか?という不変のまなざしです。

例えば、「私は音楽を持ち歩いて楽しむライフスタイルを提供する職業人でありたい」というふうに自己を定義すれば、技術の変化から解放されます。その提供価値を実現するために、いまはたまたまこの技術を用いればいいんだな、将来はあの技術かもしれないなと、技術に振り回されない態度がそこにできあがるからです。

不変のものにまなざしを向ける「提供価値宣言」ワーク

私が日ごろ行っているキャリア開発研修やコンセプチュアル思考研修の中に、「私の提供価値宣言」という内省ワークがあります。下のシートの空欄にあなたはどんな言葉を入れるでしょう。

この宣言は、あなたという職業人は何の価値を世の中に提供している存在か、あるいは、あなたの担当する製品・サービスは何の価値を核にして売っているのか、を考えるものです。

例えば、保険会社の営業マンは「もしかのときの経済面での安心」を売っていると言えます。また、新薬の開発者であれば「その病気のない社会」を売っているととらえることができます。財務担当者は「数値による企業の健康診断書」を売っているのかもしれません。

スポーツ選手であれば、「筋書きのないドラマと感動」を売る人たちでしょう。コンサルタントは「専門の知恵と手間ヒマの短縮」を売っている。料理人なら「舌鼓を打つ幸福の時間」、コメ作りの農家の人なら「生命の素」といった感じです。

私の場合、研修サービスを生業にしていますが、自分自身の提供価値を次のように考えています。

〇私は仕事を通し「向上意欲を刺激する学びの場」を売っています。
〇私は仕事を通し「働くとは何か?に対し目の前がパッと明るくなる理解」を売っています。
〇私はお客様に「働くことに対する光と力」を届けるプロフェッショナルでありたい。

私にとってこれらの提供価値はもはやライフワーク的テーマであり「変わらないもの」です。この価値を満たすために、技術や手段として、対面型の集合研修を用いるかもしれないし、eラーニングのような個別デジタルツールを用いるかもしれない。あるいは、本を書いてもいいし、この記事のようにネットに掲載してもいい。それらは「変わっていく」ものです。

さらには、私はこの提供価値という目的成就のためには、一番やりやすい形は独立起業だったので会社員をやめました。そうして就業形態まで変えていくことももはや平気です。今後、ある時点で会社員に戻ることが有効だと考えればそうするかもしれません。

そのように晴れて私は、不変の目的である提供価値のもとに、その実現手段や働き方といった外形要素から自由になったのです。

さて、読者のみなさんにあっても、職業人としての変わらない提供価値は何でしょうか? この年初にあたって、ぜひ一度言語化してみてください。そしてそれを不変の軸として肚(はら)に据えられるとき、変わっていくものを悠々と扱える境地になるのではないでしょうか。

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