グロービス経営大学院の教員でもありYahoo!アカデミア学長の伊藤羊一氏と、グロービスで人材マネジメント領域の研究をしているファカルティ本部長の君島朋子が対談。前編では両社のエンジニアを起点に、働き方改革は今後どこへ向かっていくのか考察しました。後編では、個人にフォーカスして話を進めていきます。
働き方改革を加速させるのは個人の「志」
君島:ところで、伊藤さんが学長を務めるYahoo!アカデミアは、働き方改革にもつながっているんですか?
伊藤:「まずは自立して社会に貢献しよう」と促すので、まさに働き方改革の一環ですよね。グロービス経営大学院の「リーダーシップ開発と倫理・価値観」のクラスで教えているように、自分を内省し、対話しながら、自分の心と向き合います。最初は違和感を感じる人間も、だんだん乗り気になってくるわけですよ。世界をあっと驚かせたいんだみたいな想いは多分みんなあって。「それがあなたのやりたいことだよね」と、志に繋げていく。
君島:まさにグロービスが大切にしている志教育と一緒だ。
伊藤:そうです。与えられたタスクをやるだけだったら、作業マンですよ、というのは、エンジニアにもデザイナーにもビジネスの人間にもみんなに言っていて。そうじゃなくてビジネスを作っていくんだよねと。もちろん、プラットフォームをしっかり作るでもいいし、教育をしていくでもいい。マネジメントしていくのでもいい。そういう生き方ってあるじゃんと、言っています。
なんだかんだ人との関わりの中で生きている中では、譲れない価値観や想いがあるはず。イラっとするときは大抵、自分の譲れない価値観が実現しないから。そこを引き出すのがすごく大事。
君島:グロービスで講師をしていると、組織の中で自分の志を表出する機会がない方が多いなと感じます。だからこそ、会社としてそれをみんなに出させているってすごいと思います。「自立性」っていうメッセージが出ているから、個人の人生を生きていこうっていう働き方改革ができるんですね。
伊藤:だから、たまに会社を辞めていく人もいます。目覚めました、目覚めたらヤフーじゃなかったとか言って。それはね、もうおめでとうって言っていて。
君島:うちも「いいよ、いいよ、行って。何年かしたら帰ってきてね」って言って送り出します。
伊藤:目覚めた結果、「やっぱりヤフーが最高だよね」ってなるような会社にしていかなきゃいけないって思うんです。それは会社の責任ですよね。
君島:我々も歴史も長くなったんで、戻ってくる方が出てきて、堀も喜んでいるんですよ。他に行ったのにうちのほうが良かったって認識して帰ってくるわけだから。しかも、大体バリューアップされているんですよね。
伊藤:その還流は僕らも作ろうとしていて。まずは元ヤフー社員の会をちゃんと組織しようと。コンサル会社は作っているじゃないですか。アルムナイのネットワークを僕らは作り始めて。今年の3月に初回をやりました。
そういうのが盛り上がると、会社から出てもいつでも戻って来られるから安全だ、というネットワークが作れる。これはさっき言ったように、みんなで「何となく」集まって、話していく中で仕事になっていく世界に繋がるなと感じます。リード・ホフマンが書いた『アライアンス』に、ここらへんのストーリーがまさに書かれていますが、元ヤフー社員の会を作ろうと言いだした(社長の)宮坂は、この本にもインスパイアされたようです。
君島:あれはもう「個」が立っていて。一人ひとりが契約関係になっていくんですよね。うちはかなりそれを地でやっていて、講師もエンジニアもいろんなステイタスの方がいます。これ、マネジメント的には手がかかりますが、お互いニーズを出し合って「やる」とコミットして仕事するので、互いにとって無駄がないし、優れた方が集まってくださると実感しています。
エンジニアの働き方はどう変わる?
君島:今後、エンジニアの働き方はどうなると思いますか?
伊藤:エンジニアは今でも、強烈に必要とされていますが、これからはさらに必要とされますよね。世の中がIoTで全てのものがインターネットにつながる、IT化されていく中で、エンジニアの存在感は、どんどん高まっていくと思います。
一般論でいえば、エンジニアの能力って汎用性あるから、解き放たれていろんなかたちで、どこでもやれるっていうことになると転職もしやすいし、複数の仕事持つ人も増えるでしょう。強いエンジニアはどんどんどんどん引っ張りだこになってくっていうのは、方向感としては間違いないですよね。
一方でそれができる人は、例えばクリティカル・シンキングができる人であり、コミュニケーションができる人。さらにビジネス脳、戦略脳みたいな能力を持っている人はもっとすごいことになる。
とするとやっぱりビジネスが作れるエンジニアが最強になる気がします。コードを書くことがエンジニアリングの全てではない。コードを書くのは僕らが英語使うのと大差なくて、道具であって、それをどう使うのかの方が重要。そうすると技術を磨くとか、ビジネスを作っていくとかっていう能力は今後求められるようになるし、基本のマネジメントスキルも必要。
さらに、「デザイン志向」に色付けしていくような感じで、事業作っていくスキルをエンジニアにもちゃんと学んでもらいたい。ここはYahoo!アカデミアでもしっかりやっていきたいと思っていて、強化していこうとしています。
君島:そうするといくらでも新規事業できますね。
伊藤:あともう1つは、当たり前なんだけど、ちゃんと捨てられるとか、決められるとか、まったく新しいことやるとかっていう発想を持ったトップリーダーを育てていかなきゃいけない。だから、本部長レベルの幹部もYahoo!アカデミアに参加しているんですよ。
君島:トップの視野が広くないと、全体を見て働き方改革を推進したり、人材が還流してもいいから人を育てるみたいな発想にならないですものね。
リーダーに必要なのは「Lead the self」する力
伊藤:僕は今、「Lead the Self」とそこら中で言っています。たぶん堀さんは20年前から「個の爆発」と表現して言っていると思うんですが、これがだんだん世の中に広まってきた。
リーダーシップと言ったときに、面白い話があって。「リーダーなるにはどうしたらいいと思う?」と、いろんな講演で僕は一人ひとりに聞いていくわけです。
すると、ほぼ100%の人が「情熱」「覚悟」「ぶれない」といったマインドのことを言うのに、一方で「先生、リーダーシップを鍛えるためにどんな『スキル』を身に付けたらいいですか?」って。スキルを学ぶとリーダーシップが身に付くんじゃないかと思っていて、いやそれは違うからと。
君島:それかなり低いレベルのリーダーシップですね。
伊藤:イケてるリーダーに聞いたら、100人が100人「論理思考ができる人」とは言わない。やっぱりマインドだと。じゃあスキルは要らないのっていうと、スキルは必要条件だと。これは大前提だっていうあたりが分からない人が多いです。
さらに、「Lead the Peopleが重要だ」っていうと、「Lead the Peopleするために、どうやって人を巻き込んだらいいですか?」という質問がすごく多い。人を巻き込むためにはテクニックがあるのかと聞かれるわけです。いやいや違うんだと。自分が熱狂している、つまりLead the selfされているから結果として人がついてくるのであって。
僕は「下町ロケットを見てみたらわかるよ」って言っています。下町ロケットの佃公平(阿部寛)だと。「うちの部品でロケット飛ばしたいよな!それが俺の情熱だ!」とずっと言っていると、周りが「しょうがねえな」ってついてくる、あれがリーダーシップだと。それが「Lead the Self」。自分自身が熱狂しているから、結果として「Lead the people」になる。
堀さんも、「堀さんが言っているならやろうよ!」って思わせる力を感じます。それって完全に「Lead the Self」。結果として、人が巻き込まれていくということかと。
君島:本人が信じてないとやっぱりばれますよね。みんなよく見ているから。言動一致してなかったらすぐばれますもんね。何人も社内で同じことを言っていれば、みんなもだいたい方向が揃ってね。それゆえに、自由になるんだと思います。
伊藤:だからこそ、「リーダーシップって何なんだろう」と考えると、やっぱり倫理と価値観が全て。価値観の前提にあるのは倫理観。働き方改革の話をしていたら、最後はリーダーシップの話になってしまいました(笑)。
君島:さすがリーダーシップ講師の伊藤さん!私も、グロービスの様子と重なって、とても共感できるお話でした。今日はありがとうございました。