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天職の見つけ方#1 インパクト投資家というキャリアに出会うまで 山中礼二

投稿日:2023/06/05更新日:2023/06/08

「今の生活に不満はないけど、もっとやりがいのある仕事に就けたら」「でも将来、何がしたいか自分でもわからない」。なんとなくモヤモヤ悩む日々を送っている人も多いのでは。「今の仕事は自分の使命であり、やりたいことそのもの」と言うグロービス経営大学院 教員の山中礼二氏に、「やりたいことを見つける極意」について聞いてみた。前編では山中氏のキャリアについて紹介する。(文=西川敦子、聞き手=吉峰史佳)

新卒時には想像できなかった今のキャリア

―山中さんは、グロービス経営大学院の教員でもあり、日本初のVC型インパクト投資家でもあります。具体的にはどんなお仕事をしているのでしょう。

山中:グロービス経営大学院の専任教員として、ベンチャー企業を経営するためのノウハウを教えています。起業家としての思考様式からファイナンスまで、マネジメントに必要な知識、スキルをトータルに伝えています。

投資家としては、グロービスが展開する社会起業家向けのファンド「KIBOW社会投資ファンド」の代表パートナーをしています。KIBOWは、東北復興のため立ち上がった団体で、現在は社会的インパクト投資を軸に活動しています。「社会的インパクト投資」とは、利益創出とともに社会課題解決をめざす企業を対象に行う投資を指します。

「教育の力で社会を変える起業家を輩出する」「投資によって起業家の活動を加速する」――どちらも私のライフミッションであり、やりたいことそのものズバリです。 受け持ちのクラスから起業家が立ち上がったり、投資した起業家が飛躍したりすると無上の喜びを感じます。起業家って、周りをワクワクさせてくれる存在なんですよね。社会の構造を変えるようなイノベーティブな起業家はもちろん、スモールビジネスを立ち上げている人たちも心から尊敬しています。

KIBOW投資先の起業家たちと共に

―使命であり、やりたいことそのものズバリ! まさに天職ですね。

山中 でも、これまでキャリアについてはけっこう悩んできましたし、紆余曲折もありました。新卒で入社したのはキヤノンですが、この時点ではまさか将来、投資を専門にするなんて想像もしていませんでした。

転機が訪れたのは26歳です。新規事業企画を担当していたとき、上司が米国のベンチャーキャピタリスト研修に送り出してくれました。そこで出会ったアメリカの起業家たちの目の輝きがハンパなかった。

「起業家ってなんて面白い人たちなんだろう」と感激し、「VCになって、ベンチャーカルチャーを広げることで日本のマクロ経済を盛りあげよう」と考えるようになったのです。あとから振り返ると、理屈っぽい目標で、自分が単に起業家が好きだと気づいたのはもう少し経ってからです。

それで、研修から戻って1年後に、GCP(グロービス・キャピタル・パートナーズ)に転職しました。この1年は、キヤノンを退職するか葛藤していて、GCPに1年待ってもらったんです。ただ、このとき転職を決めたのがこの後の人生を開いたとも言えます。

グロービスに参画後、経営理論を体系的に学ばなければと、ハーバード・ビジネス・スクールに留学し、MBAを取得しました。当時、関心をもったのがヘルスケア分野です。留学先でインターンとして老人ホームに住み込み、毎晩、高齢者のみなさんと幸福や家族、健康、そして人生について語りあったものです。帰国し、会社に戻ってからは、ヘルスケア分野の投資を担当させてもらいました。

医療系ベンチャーへの転職と挫折

―ここまでの足取りを伺うと、順調な輝かしい経歴に見えます。

山中:ところがその後、壁にぶつかってしまうんですよ。ヘルスケア事業にもっと投資したいのに、みんな関心を持ってくれない、と不満ばかり募っていました。もっとヘルスケア分野のベンチャーを応援したい、という情熱をおさえきれず、グロービスを飛び出しました。そして今度は実際に医療系ベンチャー企業の経営に携わるわけです。

業績によっては収入もなくなるかもしれない、と思いました。そうなったら貯金が残高ゼロになるまでチャレンジを続け、いよいよ食い詰めたら就職しよう、と。

-残高ゼロになるまで挑戦を? ご家族はよく反対しませんでしたね。

山中:反対がなかったわけではありませんが、妻も最後には認めてくれました。ただ、貯金は1年も持ちませんでしたけどね。医療系ベンチャー企業の経営はうまくいかず、預金残高はゼロになりました。

そこでIPO直後の別のベンチャー企業に参加し、事業開発の仕事をしていました。しかしそこである日社長に言われたんです。「山中さんがもってくる新規事業のビジネスプランは使いものにならない。ポジティブなバイアスが強すぎる」と。 彼の言う通りでした。ヘルスケア分野への思い入れが強すぎて冷静な検討が全然できていなかった。そこで、高くなっていた鼻がポキッと折れたんです。「自分には何もないんだな」と。それで、それまで他人の意見に耳を貸さなかった自分を反省し、以来、「とにかくいろんな人の話を聞こう」と考えるように。東北でいろいろな出会いが生まれたのはその頃でしたね。

「人が立ち上がる瞬間に魅せられた」

東日本大震災のあとに立ち上げたグロービス仙台校で担当した最初のクラス。起業家が何名も生まれた。

-3.11後の東北は壊滅的な状態でしたけれど、すごいエネルギーをもつリーダーたちがたくさんいましたよね。

山中:絶望的な状況の中、起業家たちが希望を生み出していたんですよね。中でもオンラインショップ「たみこの海パック」を立ち上げた主婦、阿部民子さんとの出会いは私の人生を変えてくれました。

民子さんは、震災以来ずっと海を見るのが怖かったし、漁師の夫もしばらく海に出られず、苦しい思いをしていたそうです。「でも私はやろうと思うのよ。お父さんの育てた牡蠣やワカメを、パックにして売りたいのよ」と彼女は話してくれました。

それまで会ってきたスケール志向の起業家とくらべると、民子さんの事業はささやかなものかもしれません。にもかかわらず、夢を語る彼女はキラキラして見えました。それで思ったんです。「人生は短く厳しい。それでも立ち上がる人たちがいる。その姿は尊く、光り輝いている」と。あらためて「ああ、自分は日本のマクロ経済のために働きたいんじゃない、起業家が大好きで応援したいだけなんだ」と気づきました。

そのタイミングでグロービスが声をかけてくれたのです。社会起業家を育成するプログラムを立ち上げるからリードしてほしい、と。進むべき道が見えた気がして鳥肌が立ちました。 「事業を通じて社会を変えるムーブメントを東北発で広げていこう、そのために自分の人生を使おう」と決めました。それで、後ろ髪を引かれる思いはありましたが、医療系ベンチャー企業を辞め、グロービスに戻る決意をしたのです。

後編につづく

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