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希望の党が掲げた内部留保課税、何が問題なの?

投稿日:2017/10/31更新日:2019/04/09

今回の選挙では、希望の党が選挙公約に掲げた企業の内部留保への課税、いわゆる内部留保課税が話題になりました。小池代表によれば、賃上げや設備投資を促す起爆剤にするのが狙いとのことです。

内部留保≠現金だから、内部留保が大きいからと言って現金を貯めこんでいるとは限らない。それを理由に課税するのはおかしいという意見もあるでしょう。それも一理ありますが、ここでは別の観点から内部留保課税の是非について考えてみたいと思います。

内部留保課税は二重課税だからNG?

内部留保課税に反対の理由として、「二重課税だから」という意見がメディアで取り上げられましたが、二重課税は既に存在しています。代表的なのは相続税、配当課税や一部の同族会社に対する留保金課税などです。二重課税は、一般に、「同一の納税者に対して、同一の課税期間において、同一の課税要件事実、行為ないし課税物件を対象に、同種の租税を二度以上課す」ことを指します。

よく誤解されますが、ガソリン税に対する消費税などは、納税者が異なるので二重課税には当たりません。相続税について、所得に対する所得税と相続資産に対する相続税は課税物件が異なるという見方もあります。そうであれば二重課税には当たりませんが、日本の税制では、ザックリ言うと所得税と同様に相続税は実質的に所得にかかる税金という立て付けであるため、相続税は二重課税と見なされます。

企業の内部留保に対する課税は、法人税を課せられた後の所得に対してさらに課税することになるので、二重課税と考えて差し支えないでしょう。しかし、当期新たに発生した内部留保に対する課税なのか、それとも期末の内部留保残高に対する課税なのかによっても話は変わります。後者であれば二重課税どころか多重課税となってしまいます。 

要するに、二重課税と言っても二重課税自体が多義的な不確定概念なので、誰にとっての二重課税、いつのどの所得等に対する二重課税なのかを明確にして議論しないと、そもそも二重課税なのかどうかもよくわからないことになります。

二重課税はなぜ存在する?

もちろん、二重課税は筋が良い課税とは言えません。二重課税を認めると担税力を超える課税となり、課税の公平性を欠き、また競争意欲を削ぐ原因となる恐れがあります。いくら頑張って稼いでも、稼ぎのほとんど(場合によって稼ぎ以上)を税金で取られてしまっては、働く意欲が減衰するでしょう。これでは、国全体の経済が成長しません。 

しかし、二重課税=良くない、と言うのは早計です。そもそも、なぜ税金が必要かと言えば、ある意味「市場の失敗」を補完するためでしょう。簡単に言えば、市場原理だけに任せておくと、民間企業は自分たちに直接のメリットの期待できないことはやろうとしません。一企業にとってはそれで良いのですが、国や社会全体にとっては誰かが用意しなければ困る国防、警察、外交といった公共財があります。それらを用意するために、国は必要なおカネを税金として民間から徴収するほかありません。

また、経済発展のために民間の自由競争は促進するとしても、自由競争の結果、行き過ぎた貧富の差が生まれる場合があります。これに対して、一定の所得の再分配を促すために課税を行います。相続税などの資産税や所得の累進課税などがこれに当たります。

相続税や所得の累進課税などは富裕層からすれば不平等に映るかもしれませんが、国や社会全体としては平等を促す制度として機能します。何をもって公平なのか、平等なのかは一側面からだけでは判断が難しい場合があります。

例えば相続性も然りです。相続財産に3回(代)課税されると財産が0になると言われます。資産家にしてみれば、何も悪いことをしていないのに財産が没収されるとはひどい、と思うかもしれません。しかし、これも勝ち組を勝ち組のままに胡坐をかかせない、同時に万人にチャンスを与える。それによって常に自由競争を促進させ、そして国の経済を成長させるという目的が税制に反映されています。誤解を恐れずに言えば、人間を怠けさせないための戒律的な税金とも考えられます。同様に、一部の同族会社の留保金課税も配当を小さくして(その分が内部留保を構成します)配当課税を逃れる(租税回避)に対する懲罰的な課税であり、課税の公平性の考えがベースにあります。

つまり、課税には大義名分が必要ということです。二重課税だから悪いのではなくて、課税の理由、目的が国民に納得感を持って受け入れられるか、ということです。もちろん社会のために必要であることが大前提ですが、必要なおカネは二重課税だろうが何だろうが国民から税金として徴収するしかありません。国民にしてみれば、額に汗して稼いだおカネです。二重課税かどうかにかかわらず、本当に必要でなければ払いたくないものです。だからこそ、なぜその課税が必要なのか、そして、社会にどう活かされるのか、それこそが議論されるべきだと思います。

ところで、内部留保課税の対象である内部留保は株主の持ち分です。内部留保課税について経済界からは反対意見が多く上がっています。一方で、株主や投資家からの反対意見はあまり耳にしません。自分たちの資産に課税される意識の低さが内部留保課税のような税制案が起案される要因かも知れません。今回の内部留保課税案が、内部留保に対する国民全体のリテラシー向上の好機となることを期待したいと思います。

  • 溝口 聖規

    グロービス経営大学院 教員

    京都大学経済学部経済学科卒業後、公認会計士試験2次試験に合格し、青山監査法人(当時)入所。主として監査部門において公開企業の法定監査をはじめ、株式公開(IPO)支援業務、業務基幹システム導入コンサルティング業務、内部統制構築支援業務(国内/外)等のコンサルティング業務に従事。みすず監査法人(中央青山監査法人(当時))、有限責任監査法人トーマツを経て、溝口公認会計士事務所を開設。現在は、管理会計(月次決算体制、原価計算制度等)、株式公開、内部統制、企業評価等に関するコンサルティング業務を中心に活動している。 (資格) 公認会計士(CPA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、公認内部監査人(CIA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA)

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