参加者が主役の時代 音楽フェスに学ぶ<協奏>モデルとは――レジ―氏インタビュー【後編】

経営戦略立案やマーケング等のビジネス経験と、音楽ライターとしての経験を掛け合わせ、著書『夏フェス革命 音楽が変わる、社会が変わる』増補版の上梓ほか発信活動を行うレジー氏。フェスという産業の誕生から成長、コロナ禍を経た変化までを紐解く本書の上梓を受け、インタビューを実施した。後編では、他ビジネス領域にも活きるフェスから得られる学びや、コロナ禍を経たフェスの今後のあり方について聞く。(前後編、後編)(聞き手=小栗 理紗子、文=高橋 梓)

<協奏>はファンベースマーケティングの鍵になる

――前編では、音楽フェスの成長において巻き起こってきた「協奏のサイクル」の流れについて解説頂きました。こうしてお話を伺うと、<協奏>の考え方は音楽・フェス領域以外でも展開していけるのではと感じます。

レジー:特にBtoCビジネスでは、今後基本構造になるのではないでしょうか。結局「協奏のサイクル」とは、顧客と企業の相互作用によって価値が増幅するということです。むしろ、そこを押さえていないビジネスは成立しなくなると思います。SNSが普及する前は顧客側から矢印を出すことはほぼできなかったわけですが、今は矢印が双方から飛び交うのが普通になっていますよね。当然顧客側にはマーケティング感度のいい人もいるわけで、有用なフィードバックが先んじて挙がってくることも多々あると思うんです。そういったものをビジネスに組み込めないと、市場から撤退せざるを得ない世界になっていくんじゃないでしょうか。「顧客を理解する」という話はよく言われますが、さらに進んで「顧客を仲間にする」ことのできている企業は強いと思います。

――確かに、ファンを抱えるマーケティングなどでは、影響が強く出てきそうですね。

レジー:「企業へのロイヤリティが高いファンの集団を形成して、そこから情報を波及させていこう」という「ファンベース」の考え方は、今では普通になってきています。ですが、そこに集う人たちのロイヤリティがなぜ高いかを正確に把握できていない企業もいると思います。「協奏のサイクル」は、「顧客が企業を好きになる理由は、企業が発信したメッセージ以外にもある」という視点を持つうえで有効なのではないかと考えます。

――企業側とファンの相互作用を捉えるための手がかりとしていけばよいのですね。ただ、<協奏>では顧客側の解釈など、企業側ではコントロールしきれない面もあるように思えます。なぜ大多数のフェスはいい方向に進めたのでしょうか。

レジー:おそらく、音楽にいろいろなものと結びつきやすい性質があるのが大きかったと思います。例えば、ファンベースマーケティングの一例としてカゴメの取り組みが挙がりますが、食品というだけでは見たことも聞いたこともない使い方が次々に出てくることは少ないと思うんです。音楽はそこの可能性がいろいろとある気がします。

そういった特徴を持つ音楽が野外の開放的な空間で本能的な欲求とうまくつながったことにより、フェスの価値はどんどん分厚くなっていきました。「美味しいご飯が食べたい」「気持ちのいい空間で過ごしたい」「人との繋がりを感じたい」といった、生き物としての根源的な欲求を押さえられる製品やサービスの魅力は大きいですよね。

 ※カゴメは2015年より会員制コミュニティーサイト「&KAGOME」を運営し、掲示板機能や動画配信、限定情報の公開など通じてコアファンとのコミュニケーション活性化や訴求力向上に取り組んでいる。

――となると、核にしたいビジネス自体の拡張性が肝になりそうですね。

レジー:いろいろな企業がファンベースの考え方を導入し始めているものの、「濃いファンと自称する人」10人と話をして「楽しかったね」で終わってしまうケースは結構あると思っていて。単発の取り組みにとどまるのか、それともビジネス全体に影響を与える発見を見つけられるかの違いは、核にしたいビジネスやサービスの拡張性の有無による部分が大きいように感じます。例えば、「モノ消費ではなくコト消費」という文脈の中でよく名前の挙がるハーレーダビッドソンは、そのブランドが持ち主の生き様や人生と一体化しています。そのくらいの結びつきを感じるファンが少数であっても存在するブランドであれば、ファンベースマーケティングを通じて思いもよらぬ体験価値を引き出せるかもしれない。ただ、大半の製品は普通に売るだけではそこまで熱狂的なファンは生まれないと思うので、ファンベースに関する施策を考える前に、そもそもの提供価値の設定やプロモーションの考え方について何か工夫が必要かもしれませんね。

音楽業界と企業はもっとタッグを組むべき

――流行りだからと飛びつくのでなく、特性を見極めたコミュニケーションになっているかが重要なのかもしれません。コミュニケーションに関しては、フェスを支える3要素のうちでも特にコロナ前後で大きく変化があったかと思います。『夏フェス革命』増補版でも触れていらっしゃいますが、コロナ禍を経て今後フェスはどのような姿になっていくと思われますか。

レジー:密集すること自体がまだ良しとされていない状況ではありますが、この先フィジカルな「Communication」と「Experience」がフェスにとってより重要なものになると思っています。というのも、昨今ではライブもオンラインで完結できてしまいますよね。そうなると極論、音楽を楽しむこと自体は会場に行かなくてもできる時代になるかもしれません。一方で、ライブでモッシュをしながら(揉みあいになりながら)盛り上がったり、炎天下でビールを飲みながら音楽を聞いたり、といった体験はバーチャルで代替できない部分です。この先フェスが提供するものとして、こういった代替出来ない部分が重要になっていくのかな、と。「デジタル時代においてリアルを体験できる空間」がこの先のフェスの存在意義であり、提供価値になるのではないかと感じています。

ただ、コロナ禍を経てライブの文化は文字通り破壊されてしまいました。少しずつwithコロナ/アフターコロナの動きが進みつつありますが、アーティストや音楽関係者からは現在もライブの客足は戻っていないという話をよく聞きます。そもそも、コロナが完全に収束したとしても音楽ファンがまたライブに行くようになるとは限らないんですよね。考えてみれば、日常的にライブに行く人たちは、仕事や学校や家庭の時間を調整して、お金を工面して、調整からはみ出たタスクをどこかで吸収して…ということを当然のようにやっていたわけです。今まではそれに何の疑問も持っていなかったけれど、急にライブが無くなったことで正気に戻ってしまったというか(笑)。マスクの有無などよりも、もしかするともう一度「魔法をかける」ことの方が大事かもしれません。そういった意味では、より非日常的なイベントしての色合いの強いフェスの方が先に復活する可能性が高いのかもしれないですね。

――もう一度マインドシェアを高める必要がある中で、フェス主催者側にはどんな行動が必要になっていくのでしょうか。

レジー:難しいですが、生のライブエンターテイメントの魅力や重要性を継続的に発信していくことが必要だと思います。少し具体的に言うと、「年明けくらいにフェスの開催告知をして、第1弾から順次出演アーティストを発表していく」というようなこれまでと同じ定型的な情報発信で広く人々の関心を得るのは厳しいのかなと。『増補版 夏フェス革命』で書いた通り「フェス市場は更地に戻った」という認識なので、当日までにどういうコンテンツを出していくかを改めて設計し直したうえで、フェスの価値をもう一度いちから啓蒙し続ける必要があると思います。

――グロービスでは今年、新たにフェス市場に参戦しようとしているのですが、市場が更地になったというのはある意味で新しい機会が生まれているとも言えるのかもしれませんね。

 ※グループ会社の茨城放送が主催するLuckyFM Green Festival

レジー:企業がフェスとかかわりを持つ動きはもっと起こってもいいんじゃないかなと思っています。音楽やフェスの本能へポジティブに訴える力は、企業イメージやブランドに必ずいい形で返ってくるはずなんです。音楽業界、特に興行にかかわる企業にとっても、コロナ禍以降の厳しい状況において、その他の業界にいる企業からいかにお金を引き出していくかはビジネスとして大切な観点です。

企業が社会と接点を持つ際の手段として、フェスを活用する。音楽業界と企業それぞれにとってWin-Winになるものですし、お互い持ってしかるべきオプションなのではないでしょうか。今後そういった事例が増えていってほしいですね。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。

増補版 夏フェス革命 音楽が変わる、社会が変わる
著者:レジー 発行日:2022/6/23 価格:2,200円 発行元:blueprint

LuckyFMでは、7月23-24日にLuckyFM Green Festivalを国営ひたち海浜公園(茨城県ひたちなか市)で開催します。チケット絶賛発売中です。

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