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参加者が主役の時代 音楽フェスから学ぶ<協奏>モデルとは――レジ―氏インタビュー【前編】

投稿日:2022/07/19更新日:2023/06/29

事業会社やコンサルティングファームにて、経営戦略やマーケティング戦略の立案などに従事してきた一方、音楽ライターとしても活躍するレジー氏。2022年6月23日には、著書『夏フェス革命 音楽が変わる、社会が変わる』の増補版を出版し、「フェス」の誕生から成長、コロナ禍を経た変化までを紐解いている。今回は音楽フェスを「経営戦略やマーケティングの知見が発揮されるビジネスの場」として捉えるレジー氏に、フェスのビジネス構造や業界の成長の流れ、得られるビジネス上のヒント等について語って頂いた。(前後編、前編)(聞き手=小栗 理紗子、文=高橋 梓)

音楽フェスを支える3つの要素

――まずは、レジーさんが日頃どんな活動をされているのかお伺いできますでしょうか。

レジー:会社員として働きつつ、ライター、ブロガーとして音楽系の情報発信もしています。前者はメーカーのマーケティング部門やコンサルティング会社などで事業戦略や経営戦略の立案、新規事業開発、マーケティングなどに従事してきました。後者は2012年に始めたブログのバズをきっかけとして雑誌やWEBメディアに寄稿するようになり、今に至ります。

――そういったビジネス戦略×音楽という独自のご知見から、6月には、『夏フェス革命 音楽が変わる、社会が変わる』の増補版を上梓されました(初版は2017年発売)。
本書では、Contents(出演者)、Experience(衣食住の体験)、Communication(コミュニケーション)の3要素が音楽フェスを支えていると言及されていますね。

レジー:その「C/E/C」が音楽フェスを支えていると同時に、音楽フェスが「C/E/C」を提供しているとも言えます。
まず、「Contents」はアーティストのライブそのもの。音楽フェスはアリーナやホールでのライブと異なり席が決まっていないので、頑張れば見たいアーティストのライブを前の方で見ることができますし、複数のアーティストが出演するので普段見ないアーティストのライブを見られたりもします。そういった状況も含めて音楽を体感できるのがフェスの一番楽しいところですよね。

ただ、それだけに留まらないのがフェスの肝でもあります。例えば、2つ目の「Experience」。フェスは朝から晩まで、場合によっては夜通し会場で過ごす、いわば「生活」することになります。もともとは会場で一日を過ごすためのインフラという位置づけだったものが、より洗練された衣食住を体験できるものに変化しました。「フェス飯」やインスタ映えを意識したオブジェなどがまさにそうで、音楽とは直接関係のない体験ができるようになったわけです。

そして、3つ目の「Communication」。「Contents」や「Experience」はもちろん1人でも楽しめるのですが、誰かと時間を共有することでより楽しめる。コロナ前のフェスでは、盛り上がってその場で「同じライブを見た知らない人とハイタッチをする」というのがよくある光景でした。そういったリアルなコミュニケーションだけでなく、フェスでの出来事を発信したり、ライブの感想を言い合ったりと、フェスはソーシャル上におけるコミュニケーションも誘発しやすいと言えます。

結果、当初「Contents」だけがフォーカスされたイベントだった音楽フェスが、今となっては「C/E/C」が三位一体となって提供されるものになっています。そして、それがフェスというエンターテインメントの構造の強固さにつながっているのではないでしょうか。

――『夏フェス革命』の中で、フェスの認知がコア層のための音楽を楽しむイベントから、美味しいご飯と夏気分を楽しむ空間として変化していった流れには「協奏のサイクル」があると書かれています。この流れに至ったのはなぜなのでしょうか。

レジー:まず「協奏のサイクル」とは何か、という話からさせてください。端的に言うと、フェス参加者が自主的にフェスの楽しみ方を見つけ、それをフェス主催者が追認することで、フェスの在り方が変わりながら成長していったことを指しています。

[caption id="attachment_73257" align="alignnone" width="1280"] 「協奏のサイクル」のイメージ(『夏フェス革命』を参照し編集部作成)[/caption]

ポイントになるのは、フェスの主催者が先んじて改善活動をしたわけではない、ということ。「フェスって1日ビールを飲んでいるだけでも楽しいよね」とか、「おそろいの服を来て行ったら楽しいよね」とか、自分たちなりの楽しみ方を参加者が主体的に拡張していく行動が先にあって、それを主催者側が拾い上げてオーソライズしてきたという図式なんです。なので、「協奏のサイクル」は参加者側の意思がフェスの形を変える原動力になったという考えです。日本のフェスの先駆けである『FUJI ROCK FESTIVAL』ができた時から、どのフェスの主催者も「主役は参加者の皆さんです」という旨のメッセージを繰り返し発していますよね。

――フェス当日はトップバッターの演奏前に主催者が挨拶するのがお決まりですが、そこでもよく聞くフレーズです。

レジー:長年にわたって繰り返し言われることで、「主体性を持った人がフェスに来ないといけないんだ」という空気が定着しているのだろうな、と感じています。さらに、SNSの普及を介し個人の情報発信がしやすくなってきたことで、意思を持つ観客の行動が発露しやすくなりました。この2つが掛け合わさったことで、「協奏のサイクル」がより加速していったのではないでしょうか。

「協奏のサイクル」で生まれたメリット、デメリット

――振り返ってみると、フェスの成長はちょうどmixiやTwitterなどのSNSメディアの発達に重なっていたように思います。

レジー:特に00年代半ばからの変化は激しいですよね。1997年に『FUJI ROCK』が始まった時は、「RAGE AGAINST THE MACHINEとRED HOT CHILI PEPPERSが一緒に見られる!」というような、海外の有名アーティストを多数呼んだ“すごいライブ”であるというContentsの部分のみに注目が集まっていました。その後2001年、2002年くらいから「フェスはご飯も美味しい」という話が雑誌などで出始めて、mixiが一般化するようになった2006年くらいに「ライブよりもライブを見ている自分が主役」という考え方がより広まっていきました。そして、2010年代に入るタイミングでTwitterが一般的に使われるようになり、その風潮が強まってきた……というイメージです。

――参加者の主体的な行動ありき、ということですが、当初から主催者側が狙っていた変化であるとは考えづらいのでしょうか。

レジー:全く考えていなかったことはないと思います。例えば『FUJI ROCK』の創始者である日高正博氏は、「みんながライブを見ないフェスになるのが理想」と当初から言っていたので、「音楽だけではないイベントにしたい」という思いはあったはずです。ただ、その思いをどう形にするかまでは当時はは計画されていなかったのかもしれません。結果、先立って参加者の行動が顕在化した。それを見た主催者側がどう具現化するのかイメージできるようになったという流れだと想像します。一般的に思い浮かべるマーケティングとは順番が逆だったということでしょう。

――この<協奏>が進んだことで、良い面も悪い面もあったのではないでしょうか?

レジー:良い面で言えば、単純にフェスが楽しくなったこと(笑)。エンターテインメントとしての幅が広がって、ライブを見ていない時でも楽しめる空間になりました。ビジネス的にも提供価値が重層的になって、魅力が高まりましたよね。参加者もより楽しいところに行けて、社会全体のハッピーの総量が増えたと思います。「フェスはひたすら音楽ライブをやり続けるものです」というところで留まっていたら、限界があったはずですから。いろいろなタイプの人が楽しめるようになったことで、音楽業界はビジネスとしても潤いますし、音楽の楽しみ方としても新しい選択肢が生まれたと思います。

――たしかに、普段そこまで音楽を聴かない人たちにとっても参加しやすい空間になったと思います。一方、悪い面に関してはどうでしょうか?

レジー:2つあると考えています。1つ目はコロナ禍前の話ではありますが、フェスが巨大なイベントに育った結果としてアーティストへの影響力が大きくなりすぎてしまったこと。「フェスに出ていないと、音楽シーンにエントリーしていることにならない」という風潮が出来上がってしまったために、夏はフェスに時間が取られてレコーディングができなくなるアーティストも複数いたとも聞きます。さらに、「フェスでウケる音楽=良い音楽」になったことで、画一的な音楽を作らざるを得ない側面もあったと思います。過去、サカナクションの山口一郎さんが「それを逆手に取って曲を作っていた」という趣旨の発言をしたこともありますが、フェスの存在がある時期のバンドにとって音楽性の進化を妨げるものになっていたのは否めません。

2つ目は、性善説のもと進んでいた「協奏のサイクル」の負の側面がコロナ禍で形になってしまったこと。感染防止対策の不徹底によりクラスターを発生させてしまった2021年夏の野外フェス『NAMIMONOGATARI(波物語)』が分かりやすい例ですが、「フェスは自由でみんなが楽しめるもの」という解釈を参加者に委ねると、『FUJI ROCK』や『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』などのいわゆる「四大フェス」の環境とは異なる「秩序のない自由」が生まれてしまいます。<協奏>はあくまでも「相互作用」によって正しく進むものであり、主催者側がその働きかけを怠ると収拾がつかなくなるということも念頭に置かねばなりません。

――の点は昨今普及してきているファンコミュニティを活用したマーケティング等でも、意識すべき要素かもしれませんね。

後編に続く)

増補版 夏フェス革命 音楽が変わる、社会が変わる
著者:レジー 発行日:2022/6/23 価格:2,200円 発行元:blueprint

LuckyFMでは、7月23-24日にLuckyFM Green Festivalを国営ひたち海浜公園(茨城県ひたちなか市)で開催します。チケット絶賛発売中です。

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