グロービス経営大学院 学長 兼 茨城放送 取締役オーナーの堀 義人が総合プロデューサーを務める新たな大型フェス、Lucky FM Green Festival(LuckyFes)。茨城で20年続いてきたROCK IN JAPAN FESTIVAL(ロッキン)の中止/千葉への移転への衝撃を受けて立ち上げられ、7月23日(土)、24日(日)の開催に向け急ピッチで準備が進められている。
起業家として数々の事業創造・経営に携わってきた堀は、既存事業とは全く異なる「フェス」という事業領域でどのように戦略を立てていったのか。マーケティングの要諦、そしてLuckyFesの魅力となる5つのコンセプトとは。前編に続き、堀に聞いた。(前後編、後編)(文=小栗理紗子)
カギを握るのは「ポジショニング戦略」
――堀さんは起業家としてこれまでビジネススクール、経営大学院、そしてベンチャーキャピタルなどの事業を立ち上げてこられました。今回のフェスの立ち上げにおける戦略面について、重きを置いた点を教えてください。
堀:やはり日本におけるフェスにおいて、規模、オペレーション、マーケティング、業界におけるポジション、そのすべてでNo.1のひとつはロッキンです。僕らはそんな偉大なロッキンと同じ土地でやるわけですから、同じことをやろうとすれば必ず比較され、失敗するでしょう。この状況に経営の常套手段を持ち込むのなら、つまり勝つためには「ロッキンほか既存のフェスとは異なるカテゴリーで差別化する必要がある」ということです。
そこで、5つのコンセプトを掲げることにしました。
- グリーン:環境にやさしく〜茨城の豊かな緑が生い茂る場所で、地球環境に徹底的に配慮して開催
- クロスオーバー:LuckyFMらしさ〜局の番組に連動させた多様なジャンルの音楽を提供
- テーマパーク:参加型フェス〜地元茨城の食や国内外のアートも楽しめる
- ファミリー:未来の子供たちに向けて〜子連れ、家族でも安心して楽しめる
- 安心安全:医療団体と連携して新型コロナ対策や熱中症対策を万全にする
僕も各地のフェスに参加し、体感してわかったことですが、差別化につながる大きな要素は開催地や形態の違いです。公園、埋め立て運動場、山のキャンプ場、あるいは都市部の倉庫街などで開催するパターンもあります。また、音楽以外と連携する手もあります。それぞれに違う中、どんなポジションを取って、どんな形態でやるのかが重要だと認識しています。
――5つのコンセプトは、どのような戦略で決められたのでしょうか。
堀:他のフェスにない面を強調し、またこれまでフェスに足を運んだことのない方にも来てもらうための動機をつくりたいと考えました。
フェスの参加者は20代が多くを占めます。これは30代になると子どもがいて、40代50代になると、自分たちの若い頃はなかったフェスにまず行こうと思う人が減ってくることが大きな理由です。今回は20代以外も是非とりこみたいです。
もうひとつ、フェスに足を運ばない層があります。それはセキュアな環境にしか行かないVIPの方々です。僕も体感していますが、フェスは行ってみると楽しい。でも環境は過酷です。それでは足を運びにくい方がいるのなら、その方々も楽しめる環境をつくればいいわけです。例えばLuckyFesで用意するのは、エアコンの効いた室内でホスピタリティある対応を受けられて、演奏が聴こえる中、並ばずにフェス飯も食べられる空間です。スポーツ観戦等にはありましたが、いわゆるロックフェスにはこれまでなかった新しい概念かと思います。
こういったフェスに縁がなかった人たちも安心して楽しめるスペースを作ることで、「ファミリー」やVIPなどの新しい客層を呼ぶことが出来るのではないかと思っています。
LuckyFMが日頃リスナーの皆さんを楽しませているように、あらゆるジャンル・時代の音楽を流そうと掲げたのが「クロスオーバー」です。番組を変えるように、違うステージに行ったら違うジャンルの音楽が聴けて、あらゆる世代が楽しめるようなフェスをやりたいと考えています。
また会場の特性を活かそうとも考え、「グリーン」は緑の豊かさを、「テーマパーク」は歩くだけで楽しい公園そのもののすばらしさを更に盛り上げるアートや食を、ということで掲げました。
最後に「安心安全」です。これはコロナがまだ収束していない中の開催でもありますし、ロッキンが移転を決断するまでの経緯の中にあった要素ですから、当然重視しています。開催を決めた当初から、医師会の方々と密に連携を取りながら進めています。
ブランド力はない、ではどうするか
――成功に向け、マーケティング面による集客も重要か思います。この点についてのお考えをお聞かせください。
堀:フェスの動員には大きく3つの要素があると考えています。アーティストとフェスの持っているブランド、そしてプロモーションです。
フェスのブランドは初回なのでありません。するとまず大切なのは、直接的に動員に繋がるアーティストです。そこで、ブッキングには投資を惜しまず、上から徹底的に声をかける方針にしています。半年未満での話なので、既にツアーなどの予定が埋まっていると断られてしまうケースも当然多いですが……僕はこのフェスを5年は続けたいと思っているので、来年以降に繋がる投資だと捉えています。
プロモーションでは、SNSを活用しつつ、近隣の方々にアプローチしやすい交通広告(駅、幹線道路沿いなど)、地元密着のタウン誌への露出なども行っています。あとはラジオです。もちろんLuckyFMでは特集を組み、フェスジャック状態にしていますが(笑)、近隣のFM放送局にも後援をお願いしています。
地元やファンを巻き込みながらエンゲージメントやオーナーシップを高める施策も重視しています。627名の方々にご支援頂いたクラウドファンディングや<LuckyFM Green Festival>というフェス名称の公募もこの一環にあてはまりますね。
≪参考≫
ロック・イン・ジャパン移転後の独自フェスの名称決定!「LuckyFM Green Festival」(通称LuckyFes)へ
茨城のフェス文化の灯を消すな!この夏LuckyFesで希望を繋げる
――「みんなでつくっている」という雰囲気の醸成が重要なのですね。最後に読者にメッセージはございますか。
ここまでお話ししたように、LuckyFesでは様々な戦略面での新しい取り組みを行っています。「3年以内に10万人規模の日本3大フェスになる」と宣言し、音楽業界からも注目を集めているこのフェスですが、初回から参加することにとても大きな意義があると思います。ぜひこの取り組みを体感しに来てみてください。
LuckyFMでは、7月23-24日にLuckyFM Green Festivalを国営ひたち海浜公園(茨城県ひたちなか市)で開催します。チケット絶賛発売中です。