トヨタ業績 「販売計画」の変化に注目する 主要決算こう読む

企業の決算関連資料の基礎的な読み方を解説する「主要決算こう読む」シリーズ。今回は、営業利益が日本企業で最高となったトヨタ自動車の決算を例に、業績のうち特に売上の推移に着目する場合の読み解き方について説明します。。売上高に相当する営業収益が31兆円に上る巨大企業の決算は、資料が膨大で、その内容も多岐に渡るとイメージする人がいるかもしれませんが、自動車メーカーが販売するのは基本的には自動車です。プロダクトがシンプルであるがゆえ、分かりやすい側面もあります。

日本電産の決算を扱った前回の記事と同様に、今回も3つのステップでトヨタ決算を掘り下げてみます。決算説明会資料などを活用しながら、会社側の計画と実績値の比較による簡単な分析も行ってみます。

過去データの把握

トヨタの過去の決算資料を実際にみると、人によっては「?」と思うかもしれません。2021年3月期までの業績に関するプレゼンテーション資料は基本的に、前期実績⇒株主還元⇒今期見通しの順で説明されています。ところが、前期実績と今期見通しのそれぞれにおいて、はじめに紹介されるのは決算のサマリー(売上高や営業利益、税引前利益、当期純利益をまとめたもの)ではありません。それぞれの冒頭にあるのは「連結販売実績」「連結販売台数見通し」の数値です。

決算の数値よりも販売台数を先に示すという、この順番がある意味、トヨタの決算資料の特徴です。「販売」されるのは言うまでもなく、自動車です。日本、北米、アジア、欧州など地域ごとの増減率も示されています。

変動要因として外せない「台数」と「為替」

自動車メーカーの決算について、金融市場や報道機関では「車両販売台数」と「為替レート」の2つが大きな変動要因であると考えられています。なかでも車両の平均単価の高い北米での販売動向が、業績のカギを握ると言われています。ドル円の為替レートが変動要因として注目されるのも、(コストにも影響はするものの)北米での販売台数への影響が大きいからと考えられます。

トップライン(売上高)に直結するプロダクトの販売動向が注目されるのは、自動車メーカーに限った話ではありません。例えばいまの任天堂の場合、最も高い関心が集まることになるのは「ニンテンドースイッチ」のハード販売台数、ソフト販売本数の実績と計画です。米ネットフリックスの有料会員数も決算発表のたびに話題に上ります。扱う商品やサービスの種類がほぼ単一とみなせる企業では、販売数量に注目点が絞られることとなります。

販売台数の定義を確認する

地域別の販売動向を把握する際には、どこまでが連結の範囲に含まれるかにも注意が必要です。中国市場について言えば、連結販売台数には、トヨタからみて非連結である中国合弁会社の製造・出荷分は含まれていません。トヨタの場合、「アジア」の連結販売台数が落ち込んだ=中国の市場環境が悪化している、と一概に判断することはできません。

連結販売台数には、ダイハツブランドの軽自動車や、日野自動車ブランドの商用車などが含まれていますが、これとは別に、トヨタブランドとレクサスブランドを合わせた販売台数(トヨタ・レクサス販売台数)や、全てのブランドを合わせたグループ総販売台数が公表されています(台数としてカウントするタイミングは一般顧客に販売した時点です。連結販売台数は、非連結の卸売業者や販売店に販売した台数をカウントしています)。

中国事業の動向については決算説明会資料の「中国事業の状況」のページのなかに、中国連結子会社の営業利益と、持分法適用会社の投資損益、「トヨタ・レクサス販売台数」の中国分が記載されています。

「前期の業績予想」の変化を確認する

前期の連結決算を振り返るまえに、一見回りくどく感じるかもしれませんが、前年度に発表された業績予想と照らし合わせる準備をすることも大切です。決算短信(決算要旨)の1ページ目の連結業績予想の表の下に「直近に公表されている業績予想値からの修正の有無」と表記されたところがあります。

トヨタの場合、前年度の第1・四半期は「無」なのに対し、第2・四半期と第3・四半期は「有」となっています。IRニュースを見る限り、第3四半期の公表以降、業績予想の修正に関する発表はないので、第3・四半期時点のものが直近の予想値と言えます。以下は期初の業績予想と、決算発表前の業績予想、実績を表にしたものです。

22年3月期の業績予想と実績 期初計画(21年3月期実績) 第3四半期発表時点 22年3月期実績
(前期比増減率)
<発表日> 2021/5/12 2022/2/9 2022/5/11
売上高(営業収益) 30兆円(10.2%増) 29兆5000億円(8.4%増) 31兆3795億円(15.3%増)
営業利益 2兆5000億円(13.8%増) 2兆8000億円(27.4%増) 2兆9956億円(36.3%増)
税引前利益 3兆1100億円(6.1%増) 3兆5200億円(20.0%増) 3兆9905億円(36.1%増)
最終利益 2兆3000億円(2.4%増) 2兆4900億円(10.9%増) 2兆8501億円(26.9%増)

前期の実績をみる

この表の一番右にあるのが、22年3月期の実績値です。蓋を開けてみれば売上高と各利益の実績は、直近の予想値、期初の予想値のいずれに対しても上振れて着地しています。

販売台数の見通しと想定為替レートの変化と実績も確認してみましょう。業績とは対照的に、連結販売台数のグローバル(合計)の前期実績は、直近の予想にとどまらず、期初の予想をも下回っています。なかでも日本と北米の販売が計画に対し未達となっているのが分かります。半導体の供給制約が生産面での足枷となり、販売台数の伸びを抑えたと考えられています。

販売台数 期初計画(21年3月期実績) 第3四半期発表時点 22年3月期実績(前期比増減率)
日本国内 217万台(212.5万台) 198万台 192.4万台(-9.5%)
北米 272万台(231.3万台) 247万台 239.4万台(+3.5%)
欧州 110万台(95.9万台) 98万台 101.7万台(+6.0%)
アジア 136万台(122.2万台) 147万台 154.3万台(+26.3%)
その他 135万台(102.7万台) 135万台 135.2万台(+31.7%)
合計 870万台(764.6万台) 825万台 823万台(+7.6%)

 

業績予想の前提となる為替レート 期初計画 第3四半期発表時点 22年3月期
ドル 105円 111円  112円
ユーロ 125円 129円 131円

 

業績の前提となる為替レートは、期初の想定よりもドルで7円、ユーロで6円、円安に振れて着地しています。トヨタは輸出型企業ですから、円安の進行は日本円で集計した業績を押し上げることにつながります。ちなみに22年3月期の決算説明会資料の「連結営業利益の増減要因」のぺージでは、外国為替市場において円安が進行したことが営業利益を6100億円押し上げる要因となったと記載されています。さらに「営業面の努力」は、8600億円の押し上げ要因となったようです。採算性の高い車種の販売が好調だったほか、米国でディーラーに支払う販売奨励金が減少したことも、利益を押し上げる要因となったとみられています*。

今期の予想をみる

最後に今期の業績予想について掘り下げていきます。まずは販売台数の計画からみてみます。23年3月期の連結販売台数は、世界全体(合計)で7.5%増の885万台を計画しています。各地域とも増加を見込んでおり、「稼ぎ頭」と位置付けられてきた北米は8.6%増と、地域別でみると最も高い伸びを見込んでいます。

しかし、コロナ禍が本格化する前の水準として、20年3月期の実績と比較すると、23年3月期の世界全体の台数見通しは下回っています。日本と北米では、コロナ禍以降の落ち込みを挽回するにはなお時間がかかるとの見方も示されています(注)。

販売台数 20年3月期実績 22年3月期実績(前期比増減率) 23年3月期予想
日本国内 224万台 192.4万台(-9.5%) 205万台(+6.5%)
北米 271.3万台 239.4万台(+3.5%) 260万台(+8.6%)
欧州 102.9万台 101.7万台(+6.0%) 110万台(+8.2%)
アジア 160.5万台 154.3万台(+26.3%) 167万台(+8.2%)
その他 137.2万台 135.2万台(+31.7%) 143万台(+5.8%)
合計 895.8万台 823万台(+7.6%) 885万台(+7.5%)

 

販売台数の見通しを押さえたうえで、業績予想と想定為替レートを確認してみます。業績予想の前提となる為替レートは1ドル115円と前期から3円ほど円安方向に設定しています。3月以降、外国為替市場では円安の流れが加速し、5月の発表時点の実勢レートは1ドル130円近辺と大きな開きがありますが、これはトヨタが本決算の発表においては、3月中のある時点でのドル円相場をもとに、5円刻みで想定為替レートを決定するのを通例としているためのようです。

  22年3月期実績 23年3月期予想
売上高(営業収益) 31兆3795億円(15.3%増) 33兆円(5.2%増)
営業利益 2兆9956億円(36.3%増) 2兆4000億円(19.9%減)
税引前利益 3兆9905億円(36.1%増) 3兆1300億円(21.6%減)
最終利益 2兆8501億円(26.9%増) 2兆2600億円(20.7%減)

 

前提となる為替レート 22年3月期 23年3月期予想
ドル 112円 115円
ユーロ 131円 130円

 

ドルに対し前期から3円の円安と販売増を見込むのに、なぜ20%を超す最終減益予想なのでしょうか。決算説明会資料のうち、今期の営業利益予想における変動要因のページをみると、資源価格の高騰が年間の営業利益を1兆4500億円押し下げる要因となっており、この影響が極めて大きいととらえることができます。とはいえ、仮にドル円相場が130円台での推移を続けた場合、トヨタの営業利益を6800億円弱、押し上げる効果があるともみられています。その場合は、予想から一転して営業増益となる可能性も横たわっていると言えそうです。

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(注)ダイハツと日野ブランドを入れた連結販売台数ベース。「販売台数の定義」で触れた「トヨタ・レクサス販売台数」と「グループ総販売台数」の今期計画は20年3月期を上回っている。
*日本経済新聞電子版(2022年5月11日)「トヨタ営業益2.9兆円、日本企業で過去最高 22年3月期」

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