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テスラ・五菱(ウーリン)のEV戦略、売れる車と価値づくり vol.3 ~質疑応答編~ 日系メーカーが進むべき針路

投稿日:2022/03/21更新日:2022/03/25

世界的に脱炭素化への取り組みが広がるなか、自動車業界もEV(電気自動車)へのシフトが加速しつつある。日本の自動車メーカーはどのようにビジョンを描き、ユーザーに価値を届けるべきなのか。

2022年1月25日にオンラインで開催したテクノベート勉強会「EV最前線から考える、売れるクルマと価値づくり~海外注目企業 米国テスラ、中国・上汽通用五菱汽車(ウーリン)の分析から」では、両社のEVを数日間にわたり試乗テストをした鈴木万治氏が、2社の共通点と、日本企業に必要なアプローチについて持論を展開した。本記事は鈴木氏の講演後の質疑応答の内容を紹介する(前編、モデレーターはグロービス ファカルティ本部 テクノベートFG ナレッジリーダーの八尾麻理)。

*本動画の内容は、スズキマンジ事務所としての個人的な見解であり、所属する株式会社デンソーとは全く関係ありません。

*本記事は、2022年2月9日に公開した動画記事の内容をテキスト化し、一部再構成したものです。

トヨタ生産方式の強みは生かせる

──EVの生産の場合、従来のオペレーションを根底から変える必要があるのでしょうか? 部品の違いによる多少の工程の変化は発生しても、根本的なオペレーション改革までは必要ないのでしょうか?

鈴木万治氏(以下同):「テスラは高性能のロボットを導入するなど、モノづくり面で挑戦を続けていますが、従来の生産オペレーションでもEVは生産できると考えます。水平分業でも、垂直統合でも、どちらでも製造は可能ですが、競争優位を得るためには、従来のような垂直統合に分があると考えています。トヨタ生産方式などの強みを生かすこともでき、それほど大きな変化は特に必要ないと思います」

──テスラはギガプレスによる一体成型で強度を出すという、従来型の自動車メーカーとは異なる強みを持っています。部品点数が減ることで、既存の自動車が得意としてきたオペレーションでの優位性が相対的に低くなるとも考えられます。既存の自動車メーカーが置かれている現状について、鈴木さんのご認識はいかがですか。

「テスラはモデル3の量産に苦戦したと言いましたが、それはロボットによる生産の自動化を急いでやりすぎたからです。もともとテスラはギガファクトリーを世界各地で立ち上げるために、生産面の属人性を極力排除しようとしました。究極の自動化を追求し、ロボットだけでできるようなクルマにしようというのがテスラの作り方でした。逆に言えば多くの雇用は生みません」

「テスラのモデル3とフォルクスワーゲン(VW)のID.3を並べて、徐々に皮をはいで露骨に見えてくるのは、VWの苦悩です。喩えて言えば、何十年もかけて蓄積してきた大事なものを片付けなければならないのだけれども、思い出のものは捨てられない。その苦悩が所々にみられるがID.3です。それに比べモデル3は、部屋に合わせてシンプルなものしか買わないという感じで、ワイヤハーネス(車両配線)は少ないですし、衝突安全の考え方もID.3と比べて見る人から見れば全然違います。それでもモデル3は、米国の衝突安全テストで一番よいレーティングを取っています。ぶつからないことを前提に設計するのか、ぶつかった後に修理できるように設計するのか、その点でも大きく異なります。テスラの場合、その設計からは『(安全装備により、単純なミスでは)ぶつからない自信』も見受けられます」

顧客中心設計を追求できるか

──テスラやウーリンなど急成長するEVメーカーと、従来の自動車メーカーでは量産化におけるサプライチェーン、バリューチェーンの質の違いはあるのでしょうか?

「テスラもウーリンも顧客中心設計を徹底しています。顧客をつぶさに観察し、本当に欲しいものを市場に投入するという点で共通していますし、サプライチェーンの面でも完全に支配的な垂直統合となっています。商品の個性は求めず、とにかく安いものを作りたいという場合は、水平分業もありだと思いますが、個性的で、こだわりのある商品を作ろうとすると、強い垂直統合が求められるのだと思います」

──日本の家電メーカーが海外企業に駆逐される流れが2000年頃からありましたが、自動車はどうなるのでしょうか?

「家電業界の衰退については、いくつかの要因があると言われていますが、私は、そのひとつに、技術者の自己満足といえるスペック競争があると考えています。顧客が何を求めているのかを把握し、商品に反映させることを怠ったためではないでしょうか。Appleは違いましたよね。テスラやウーリンの事例を知れば分かると思うのですが、自動車でも前述の過去の家電と同じようなことをやってしまえば、同じ結果になります」

「自動車メーカーにとって電動化が生き残る道だと言う人もいますが、それは違うと私は考えています。脱炭素イコールバッテリーEVというのは、恣意的な、欧州の政治戦略の流れの話なのですよね。科学的、論理的な考察、デザインシンキングなど、いろいろな方法はありますが、世の中で言われていることがどこまで真実なのかというのを、追い求めるといいと思います。バッテリーよりもガソリンのほうがエネルギー密度は桁違いに高い。そういうことを知らなければ、真実にはたどり着けません。(米新興EVメーカーの)ニコラのトラックに搭載される電池は、700kWh(キロワット時)なので、単純計算では7t(トン)です。バッテリーのエネルギー密度が低いならば、大容量の場合、バッテリー自体を大きく重くしなければなりません。重いものを動かすのに大量の電気を消費し、環境に負荷をかけてしまうというのは自明の理でもあるのです」

求められる「レガシー」の整理

──既存の自動車メーカーがEV開発で新たな技術を必要とする場合、人材育成をするのか、即戦力の人材を採用するのか、どちらに力を割く傾向があるのでしょうか?

「開発とか技術の問題ではなく、既存の自動車メーカーは今持っているもの、つまりこれまでの強みとなっていた過去の資産からの脱却が求められているのだと私は認識しています。技術は、電池などを除けばすでにほとんど持っています。SiC(炭化ケイ素)インバーターの技術だって持っています。一方で、自動車には20個から60個ECU(電子制御ユニット)が搭載されている訳です。それも1社が作っているのではなく、サプライヤー各社にそれぞれ商権があって、ネットワークが構築されている。それだけ散らかっているものを、3つぐらいにまとめようと言われた時に、できるかできないか、という問題なのです」

「政治的な判断で、60を3に片付けるか、もしくはそんなことはできないから、新しい組織にするか、という感じでやれるか、が問われているのだと思います。最近、フォードがEV部門を分離する検討をしているという記事がありましたが、それは従来の資産や人、組織をEV向けに分離することで、過去の資産と決別するという、ひとつの施策と言えます」

──EV普及のための電力供給の利便性向上に向けた世界の動きと日本の状況については、どうお考えですか?

「日本の一般的な充電スタンドは、クレジットカード決済のための登録やアプリのインストールなど、かなりたくさんの作業がいると思うのですが、テスラのスーパーチャージャーの場合、そういった面倒な手順は何もないのです。その場に行って、充電をして、充電が終わったらそれでおしまい。すべてバックグラウンドで処理が行われています」

「日本では今、EVが増えないから充電スタンドが増えず、充電スタンドが増えないからEVが売れないという、ネガティブスパイラルの真っ只中にあります。テスラよりキャッシュが潤沢な企業はたくさんあるのですが、世界的に自前で充電インフラを整備するところはテスラ以外、ありません。なぜでしょうか。テスラはエネルギー企業だからです。クルマは販売しているのですが、ソーラールーフとパワーウォールとテスラ車で自給自足のエネルギー環境を作ろうとしているのがテスラです。それに対し自動車メーカーは充電インフラを整備する大義がなく、大きいな違いだと思います」

中国メーカーとの向き合い方

──なぜ世界と比べ、中国ではEVが先行しているのでしょうか?

「中国だけでなくノルウエーもEVが普及していると言われていますが、ノルウエーは年間の新車販売台数が15万台程度の小さな市場です。全世界のEV市場の6割は中国で、やはり政府によるインセンティブの設計が有効に機能しているのです。EVならナンバーがすぐにもらえるのに対し、ガソリン車の場合は抽選で最悪、3年ほど待たなければならず、ナンバーの取得価格もかなり高額です。生産コストも安いので、輸入車と比べて競争力が強いのもあると思います」

──ウーリンのEVの安全性については、どのようなレベルにありますか?

「詳細はわかりません。欧州並みの安全基準はクリアしていると思われますが、エアバッグが付いていません。欧州などで販売するには、細かいところでの保安基準も満たさないといけません。欧州で『宏光 MINI』を法規適合させたものが、ラトビアの自動車メーカーから発売されていますが、約130万円となります。日本で販売する場合は、横幅が軽自動車の範囲に収まらず、普通自動車になってしまいます。軽で登録できなければ魅力は半減してしまいます。日系の自動車メーカーがウーリンのEVのようなものを軽自動車として作ったほうがいいように思います」

(文=GLOBIS知見録編集部 長田善行 vol.4 質疑応答後編に続く)

※「テスラ・五菱(ウーリン)のEV戦略、売れる車と価値づくり」のシリーズの記事はこちらから。
 vol.1 ~講演編~ テスラはなぜ強いのか
vol.2 ~講演編~ 45万円EVを解剖し未来を読む
vol.4 ~質疑応答編~ 電池技術をどう理解すべきか

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