テスラ・五菱(ウーリン)のEV戦略、売れる車と価値づくり vol.2 ~講演編~ 45万円EVを解剖し未来を読む

世界的に脱炭素化への取り組みが広がるなか、自動車業界もEV(電気自動車)へのシフトが加速しつつある。日本の自動車メーカーはどのようにビジョンを描き、ユーザーに価値を届けるべきなのか。

2022年1月25日にオンラインで開催したテクノベート勉強会「EV最前線から考える、売れるクルマと価値づくり~海外注目企業 米国テスラ、中国・上汽通用五菱汽車(ウーリン)の分析から」では、両社のEVを数日間にわたり試乗テストした鈴木万治氏が、2社の共通点と、日本企業に必要なアプローチについて持論を展開した。本記事は鈴木氏の講演の後編を紹介する(モデレーターはグロービス ファカルティ本部 テクノベートFG ナレッジリーダーの八尾麻理、vol.1はこちら)。

*本動画の内容は、スズキマンジ事務所としての個人的な見解であり、所属する株式会社デンソーとは全く関係ありません。

*本記事は、2022年2月9日に公開した動画記事の内容をテキスト化し、一部再構成したものです。

日本の「軽」から学んだウーリンのEV開発

鈴木万治氏:今度はウーリンについて掘り下げていきます。ウーリンの「宏光MINI EV」の開発背景についてはあまり知られていませんが、実はずいぶん昔から、ウーリンは日本の軽自動車をベンチマークとして開発していました。マーケティング手法もシャープで、女性と若者をターゲットに絞り込んでいます。

日本円にして45万円台のEVですが、カラー液晶のメーターパネルは綺麗ですし、タイヤ空気圧のアラート機能、ヘッドライトのレベライザー、パワーウインドウが付いていて、カーエアコンもオプションですが一応搭載しています。以前、話題になったインドのタタ社の小型車「TATA Nano(タタ・ナノ)」のように、何も付いていないという訳ではなく、ユーザーが欲しいと考えるものは付けているクルマになっています。

品質面でも、例えばボディーのパネルの合わせ面は、しっかり合わせて作っています。ドアを閉める際の質感も非常によく、欧州車並みの品のいい音がします。

顧客中心のシンプル設計で低価格化を実現

ではウーリンはどのようにして低価格化を実現したのでしょうか。底面を下から覗くと、FR(フロントエンジン後輪駆動)車用のデファレンシャル・ギア(デフ)にモーターと減速機をそのままつけていて、改造車のようにも見えなくはありません。ブレーキもEVで一般的に使われる電気式ブレーキではなく、安価な真空倍力式を採用しています。回生ブレーキもありません。さらにインバーターやモーターの冷却は水冷式でなく全て空冷式とし、ラジエーターを不要にしています。

それぞれの部品、そして全体の仕様についても、ユースケースから導かれたものとなっています。システム電圧をみると100V(ボルト)で、電池容量が9.3kWh(キロワット時)。参考までに、一般的なEVのシステム電圧は400V以上などとなっています。高電圧にしないと、出力を大きくするために電流を大量に流さなければなりません。ところが電流をたくさん流そうとすると、ハーネス(配線の束)が非常に太くなってしまいます。そのため、電圧を高めたEVが多いのですが、ウーリンのEVの場合、出力を抑え気味にすることで電圧をある程度低く抑えています。

それでも試乗した時の動性能としては問題ないレベルでした。子どもの送迎やちょっとした買い物など、日常での足として使えるクルマを想定して設計しているのです。航続距離100km(キロメートル)以上は要らないという設計も、言葉にするのは簡単です。しかしこれを日本で企画会議に出したら「駄目に決まっているじゃないか」という話になりかねませんよね。実際にエアコンやヒーターをつけたら、航続距離は60kmぐらいに落ちるわけですから、普通であれば、「大丈夫なのか!?」という議論になるのですけど、このあたりの割り切り方はすごいと思いますし、それを実際に実現することが大事だと思います。

iPhone3台分で買える価格としながら、運転はもちろん駐車もしやすい。さらに家庭用コンセントから充電ができます。通勤前にコンセントを抜いて、帰宅したら充電できるというのは、スマートフォンの充電の仕方と似ています。

テスラとウーリンの共通項

テスラとウーリンのEVは価格帯としては両極にありますが、共通しているのは、まず顧客中心設計を徹底しているという点です。顧客のペインを把握し、「顧客が買いたくなるような製品を作る」ということです。それは、日本企業に多い、「自社にこういう技術やサービスがあり、こういうことができるので、これを売る」という発想とは本質的に異なります。

さらにシンプルなアーキテクチャであるというのも共通しています。プロジェクトマネジメントと同じですが、物事を複雑にすればするほど、ステークホルダーが増えていきます。調整のための労力が増えていきますし、意思決定も非常にやりづらくなってしまいます。

非連続な社会でどう先読みをするか

次にEV市場の今後について展望したいと思います。技術トレンドを読むにはいろいろな考え方がありますが、心理学者のアルフレッド・アドラーは「それぞれの瞬間は独立したものであり、過去も未来も現在とはつながっていない」と説きます。実際私も、そのような感じだと思います。つまり、あとから見ると連続した線に見えるけれども、一個一個は点だということです。

一個一個の点のなかに存在しながら、どうやって先を読んだらいいのでしょうか。SNSを例にとって考えてみます。LINEやFacebook、Twitter、WeChatなどは普通に使われているツールだと思います。InstagramやTikTokも使っている人は多いでしょう。ではZenlyはどうでしょうか? 仲のいい人と位置情報を共有することができる地図コミュニケーションアプリで、10代の女性を中心に非常に流行っているようです。

Poparazziはいかがでしょうか? 自分の写真を自分でサイトにアップすることはできず、自分の友達が撮影した写真しか上げられないというアプリで、これもすごく流行っているようです。このようなトレンドに対して、自分の価値観にこだわり、「こんなの意味が分からないぞ」という人達は、きっと次の市場が読めない。そういうことだと思います。

ブルース・リーの言葉に「Don’t think, feel.」というのがあります。つまり、テスラに乗らなければ自動車の未来は分からないということです。メタバースも仮想通貨も同じです。体験することが重要で、本を読んだりWebで調べたりしても所詮はそれだけにしかならないということです。畳の上で水泳の本を読むだけではダメで、プールに入って練習することで、初めて泳げるようになれるのと似ています。

IT機器とクルマの進化を比較する

先を読むには体験が重要となりますが、IT機器の進化について理解を深めておくのも有益でしょう。Windows3.1が登場した90年代前半は、ネットワークというのはほとんど存在していませんでした。Windows95になってネットワークの接続性がよくなり、Windows10まで進化を続け、ただし今はスマートフォンの時代になっています。

最初、ネットワークがなかった頃は、パソコンはスタンドアローンの状態で、どんどんと高性能化していきました。ネットとつながっていくうちにWebもかなり進化し、パソコンの必要性がだんだんとなくなっていきます。クラウドが登場すると、端末側は一段と処理が軽くなり、スマートフォンで十分だという時代になっていきました。

ところが、ファッションもそうですが、トレンドは繰り返すのです。パワーバランスが端末からネットワーク、クラウドへと移った後、それはもう一度端末、つまりハードの世界に戻るのです。Googleのスマートフォン「Pixel 6」の場合、独自のSoC(System on Chip、複数の機能を集約した半導体チップ)が搭載されています。Appleも自社開発のSoC「M1」を搭載した製品を投入しています。テスラも同じで、ソフトウエアではなくSoCで競争力を作る時代になってきたのです。ソフトウエアだけでは、断トツの競争力は構築できない時代になったということです。

もちろん、スマートフォンとクルマでは生産台数のケタが違いますから、車載用途でスマートフォンのように、フルオーダーのスーツのようなカスタムSoCを自社で量産するのは、現実的ではありません。米半導体大手のクアルコムが車載用途を狙い、カスタムSoC「Snapdragon」を生産していますが、こうした半導体メーカーからセミカスタム品の供給を受ける時代が来るのではないかと思います。

バッテリーEVの今後

ホットなトピックをいくつか取り上げていきます。まずバッテリーEVです。バッテリーには、重量が大きいという課題があります。10kWhのバッテリーで、重量が100kg(キログラム)程度あることを覚えておくといいと思います。テスラのモデル3で300kgぐらい、モデルSだと600~700kgぐらいあります。モデルXは車重が約2.5t(トン)あり、普通のクルマよりも非常に重いものとなっています。重量が大きければ、動かすのにも高いエネルギーが必要ですし、バッテリーの生産そのものにもエネルギーを消費します。

ガソリンやディーゼルなどの内燃機関を搭載したクルマやハイブリッドで苦戦した企業が、いわゆる「土俵替え」を狙ってバッテリーEVを推進しようとしてきた経緯もあります。10kWh程度のバッテリーEVならまだいいですが、電池の重量の問題などを踏まえ、バッテリーEVが本当に環境負荷の低減につながるかどうかについて、もっと議論を重ねるべきではないかと考えています。

自動運転技術はどうなる

次に自動運転ですが、テスラのオートパイロットを体験すると分かると思います。あれで何か問題があるのかと聞かれ、問題があると答える人は少ないのではないでしょうか。あくまで個人的な意見ではありますが、体験せずして自動運転のレベル4の必要性について議論をしてもあまり意味がないように思います。

人件費が大きな課題であるタクシー業界向けのロボタクシーも大きな市場があると思いますが、自動車メーカーとして検討すべきは、より規模の大きいPOV(Personally Owned Vehicle:自家用車)の市場とビジネスでしょう。顧客のペインポイントに向き合ってモノづくりをする姿勢がここでも問われていると考えています。

SDV・車室内データ・ソニー製EVの可能性

Software Defined Vehicle(ソフトウエア定義車両、複数のハードをソフトによって統合的に動かす仮想化技術を応用したクルマ)もよく話題となりますが、その実現のためには、ハードウエアのアーキテクチャを整備することが大前提になります。テスラ車のように、コンピューターの数が少ないなら可能ですが、例えば60個もコンピューターが載っていたら、どうやってSoftware Definedにするのかという問題がありますよね。

ハードウエアを統合、整理するといっても容易ではありません。フォルクスワーゲン(VW)のEV「ID.3」を分解してみると、ハード面での過去の資産を整理しながら、なんとかシンプルにしようという、大きな苦悩を感じることができます。

バイタル(生体)データを取得するためのデバイスを車室内に搭載しようという動きもあります。ただカーナビがGoogle Mapsに置き換わったのはなぜでしょうか? スマートフォンがタッチポイントとなっている社会で、高性能でもクルマの中でしか使えないものに対価を求めるのは、現実的ではなくなってきています。

ソニーのEVも注目されていますね。(他社との差別化を狙った)VAIOブランドのようなものになるのではないかという見方もあります。EVを作るのか、それともEVにソニーが自社の素晴らしさを提供するのかという点については議論の余地があります。

加えてソニーに関しては「何の企業なのか?」にも注目すべきでしょう。近年の復活は、エンターテインメントとゲーム領域での成功が大きいと言えますが、エレクトロニクス企業としてのソニーの強さは復活したのでしょうか。

生き残る企業の条件

企業の成長は価値づくりで決まります。非連続な世界において、要素技術で先を読むことは、ほぼ不可能である以上、体験こそ大切になってきます。自動車業界に限らず「売りたいものを作る」企業ではなく、「買いたくなるものを作る」企業を目指せるかというのも重要なポイントです。

ただし競争優位戦略で実行不可能なことを推進すると、結果的に敗北を余儀なくされるということも、忘れてはなりません。欧州のエネルギー危機のような失敗はEVにも当てはまる可能性があります。社会で言われる手段が真の脱炭素につながるのか、よく考える必要があります。それをぶれずに追求し、実行できる企業が生き残るのだと考えています。

(文=GLOBIS知見録編集部 長田善行 vol.3 質疑応答前編に続く)

※「テスラ・五菱(ウーリン)のEV戦略、売れる車と価値づくり」のシリーズの記事はこちらから。

 vol.1 ~講演編~ テスラはなぜ強いのか
vol.3 ~質疑応答編~ 日系メーカーが進むべき針路
vol.4 ~質疑応答編~ 電池技術をどう理解すべきか

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