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テスラ・五菱(ウーリン)のEV戦略、売れる車と価値づくり vol.4 ~質疑応答編~ 電池技術をどう理解すべきか

投稿日:2022/03/25更新日:2022/05/23

世界的に脱炭素化への取り組みが広がるなか、自動車業界もEV(電気自動車)へのシフトが加速しつつある。日本の自動車メーカーはどのようにビジョンを描き、ユーザーに価値を届けるべきなのか。

2022年1月25日にオンラインで開催したテクノベート勉強会「EV最前線から考える、売れるクルマと価値づくり~海外注目企業 米国テスラ、中国・上汽通用五菱汽車(ウーリン)の分析から」では、両社のEVを数日間にわたり試乗テストした鈴木万治氏が、2社の共通点と、日本企業に必要なアプローチについて持論を展開した。本記事は鈴木氏の講演後の質疑応答の内容を紹介する(後編、モデレーターはグロービス ファカルティ本部 テクノベートFG ナレッジリーダーの八尾麻理)。

*本動画の内容は、スズキマンジ事務所としての個人的な見解であり、所属する株式会社デンソーとは全く関係ありません。

*本記事は、2022年2月9日に公開した動画記事の内容をテキスト化し、一部再構成したものです。

「全固体電池」は銀の弾ではない

──EVの普及が加速すれば、国内で巨大なバッテリー工場を建設する動きが出てくるのでしょうか?

鈴木万治氏(以下同):「あるとは思いますが、難しいですね。現状の日本の発電ミックスで、国内に巨大な電池工場を建設したら、電池工場と製品である電池のCO2排出量はとんでもないことになります。やるとしたら工場だけクリーンエナジーで動かすことなどをしないといけません。電池は製造後、動作チェックをする必要があります。何回も充放電を繰り返さなければならず、巨大な容量の電池の場合は充放電テストだけで、大量の電気を消費します。現状の日本の発電ミックスでは、(環境負荷が大きいという意味で)エネルギー的観点からブラックな電池が生産される可能性が高く、国内生産のハードルは高いのではないでしょうか。ただし、最初に量産プロセスを確立するためのマザー工場として、国内に工場を設置することはあると思います」

──バッテリーのリサイクルへの取り組みについては、今後どのように進むのでしょうか?

「大量にバッテリーが使われるようになると、原材料のリチウムが次第に希少なものになっていきます。原材料価格が高騰するとバッテリー価格も上がります。EV価格のうちバッテリーはかなりの部分を占めていますので、そもそも薄利で販売しているEVのバッテリー価格が上昇すると、収益がなくなってしまうという問題が起きてくるのではないかと思います。ドイツは都市鉱山としてバッテリーからリチウムを取り出すビジネスを広げようとしています。バッテリーの設計そのものをリサイクル前提に変えることも必要でしょう」

──EV用の電池の性能は、今後進化する余地はあるのでしょうか?

「ゼロではないですが、大きな期待はできません。電池の原理を考えると、要するに電子の移動です。電子の移動速度は変えられません。『ところてん』を押し出すようなイメージで、押し出すための道具の速度が100倍になれば、電子の移動速度は100倍になりますが、物理現象的にそれはありないというのが私の認識です」

──全固体電池が実用化すれば、リチウムイオン電池の課題がどう解決されますか?

「全固体電池は安全性などメリットもあるのですが、全固体電池も大きくなると、その良さが失われるということは、覚えておくべきだと思います。まず製造がかなり難しいですし、製造しても小型の全固体電池のようなパフォーマンスは出しにくいという落とし穴があります」

「リチウムイオン電池についても、それ自体が良い、悪いという話ではなく、大きなリチウムイオン電池が課題なのです。全固体電池もある重量以下なら良く、それ以上なら悪いという境目があるのです。全てにおいて『これがベストだ』というのは、世の中にはあまり存在しません。車載電池についても、大型のものを搭載して本当にいいのかという議論が開発者と経営者の間でできるかできないかで、世の中は変わっていくのだと思います。小型車や軽自動車なら、全固体電池を組み合わせるメリットは大きいと思います」

──最終的にモーターを動かすという意味では、水素などほかのエネルギーもありますが、車両のサイズなどで変わってくるということでしょうか?

「もちろんFCEV(燃料電池車)もありますし、エンジンで発電しバッテリーを通してモーターを動かすというシリーズPHEV(プラグインハイブリッド車)方式もあります。そのエンジンを水素エンジンにするということも技術的には可能ですよね。発電という観点では、クリーンで一番効率のいいもので回せばいいのです。ざっくりと考えると、スクールバスとか、乗り合いバスぐらいの大きさならバッテリーEVで何とかなります。それ以上の、コンボイのような大型トラックになると課題が目立ちますし、重量制限が厳しい飛行機などは難しいでしょうね。リチウムイオン電池の容量と重量について、このような感覚を持つと、色々なことを考える上で役立つと思います」

──ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点でEVが特筆すべき点とは何でしょうか?

「ESGやSDGs(持続可能な開発目標)は非常に大切なもので、私自身、ビル・ゲイツ氏の本(『地球の未来のために僕が決断したこと』)を読んで、地球温暖化を今すぐに防がなければいけないということは強く感じました。ただ、可能である最大限のことを実行すべきだ、とか、もしできないことを無理やり実施したとしたらそれが今よりも悪い結果を生むだろう、ということも、彼の本には書かれてあります。その言葉から、現在のヨーロッパのエネルギー問題を思い出さないわけにはいきません。バッテリーEVや電動化は進めるべきなのですが、やれないことを無理やり押し通そうとすると、ビル・ゲイツ氏の言う通り、結果的に今より悪くなる可能性があるということを念頭に置かなければならないと考えています」

早すぎた「リーフ」の登場

──商用車や物流領域におけるEV化の潮流について教えてください。

「商用・物流領域では自動運転も、EV化も、圧倒的に有効だと考えています。商用車の利用シナリオは固定的で、経路や充電ポイントなども限られます。ビジネスとしての課題を挙げるなら、自家用車に対し母数が少ないことです。ただ(米アルファベット傘下の)ウェイモなど自動運転の技術開発を手掛ける企業は、早期の収益化を求め、この領域を狙ってきています」

「難しいのは、物流業界は業務の『見える化』が進んでいないことです。可視化できればソリューションは比較的に容易になりますが、物流の現場はいまだアナログなところが多い状況です。商品のLCA(ライフサイクルアセスメント)を実施する時は、運搬も含めてCO2の排出量を計測しないといけませんが、なかなか難しい現状があるのだと思います」

──POV (Personally Owned Vehicle:自家用車)の世界でサービス化が進むと、車両を購入する主体の中心が消費者ではなくフリート(大口の法人)になるようにも思いますが、この点について鈴木さんはどのように見ていますか?

「都市部と地方の問題、Z世代の購買行動という2つの要因をもとに、普及が進んでいくのだと思います。都市部ではそもそもクルマを所有する必要がなくなってきますが、地方はそうではありません。そして、Z世代は、喩えて言えば手持ちのカードで勝負をする人たち、つまり手持ちの資産でポートフォリオを形成しようとする人たちです。配られたカードが悪い場合、いいカードが手に入るように頑張るような他の世代とは異なります。となると、年収300万円のZ世代の人たちは否応なしにサブスクリプションを利用することになるのではないでしょうか」

──日本の消費者のEVに対する感度(認知度、購買意欲など)は海外と比べ違いはありますか? 違いがあるなら、その要因はなんでしょうか?

「NRI(野村総合研究所)の調査レポートをみても、明らかに低いですね。年代別でも、低さが際立ち、これが日本のEV普及の妨げになっていると言っても過言ではないと思います。充電インフラの設置が進もうが、消費者にバイアスが存在しているのだというのが分かります」

「新しいものにリスクを取る文化があまりないのと、体験する機会があまりないのも影響しているのだろうと思います。もうひとつ、日産の『リーフ』も、当時としては革新的すぎて登場するのが早すぎたと言えるかもしれません。GM(ゼネラル・モーターズ)の『EV1』もそうでしたが、技術力、チャレンジとしては素晴らしかった半面、発展途上の製品という印象は否めず、それが消費者の記憶に強く残ってしまいました。イノベーションは運とタイミングも必要です。ただし日常の足として使われる『下駄EV』が出てくれば一気に変わります。日本の市場には、ガラケー(フィーチャーフォン)を一気に置き換えたiPhoneに相当するEVはまだありません」

安価な軽EV(下駄EV)の普及が起爆剤に

──日本でEVの普及のカギとなるものは何でしょうか?

「消費者が買いたくなるEVの提供だと思います。東京に住んでいる方々には分かりにくいかもしれませんが、地方に住んでいると1人1台クルマがないと生活が成り立ちません。1人1台軽自動車、軽トラックのような感じです。地方の足となるウーリンのEVなどは、こうしたニーズをうまくとらえています。廃業するガソリンスタンドも多く、『ガソリン難民』が増えている地方での利用を視野に入れ、軽自動車をアップデートしたEVが登場したら、一気に変わるような気もします」

「極論を言えば120万円ぐらいで、ウーリンの宏光Mini EVのようなシンプルな機能のEVを製造・販売すれば、日本の地方では一気に軽自動車のマップが塗り替えられると思います。にもかかわらずそれが進まない。そういった意見を述べると『そこまで言うなら自分で作ってみろ』と言われそうですね。実は、その計画を立てているのでが、そのうち、これを作れば売れますというようなものを展示会でお見せできるかもしれません(笑)」

(文=GLOBIS知見録編集部 長田善行)

※「テスラ・五菱(ウーリン)のEV戦略、売れる車と価値づくり」のシリーズの過去の記事はこちらから。
 vol.1 ~講演編~ テスラはなぜ強いのか
vol.2 ~講演編~ 45万円EVを解剖し未来を読む
vol.3 ~質疑応答編~ 日系メーカーが進むべき針路

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